第46話 約束 *純*
混乱している定治にビールを飲ませて落ち着かせた。
「詳しくはまた今度語るが、オレは別の世界に行くことにした」
「が、外国にでも行くのか?」
まあ、そうとしか考えつかんよな。
「今はそんなものだと思ってくれて構わない。落ち着いたら詳しく話すよ。ただ、今年か来年始めにはいなくなるから定治の結婚式に出るのは新しい戸川純になる」
「新しい戸川純?」
簡単にではあるが、三月のことを語り、そいつと存在を交換することを語った。
「な、なんか壮大なんだか荒唐無稽なんだか、よく理解出来ないわ……」
「無理に理解しなくていいさ。本当に荒唐無稽なことなんだからな。他にも指輪を渡しておくよ。収納の指輪と治癒の指輪だ」
収納の指輪はテーブルのものを入れさせ、治癒の指輪は……そのうちわかるだろう。
「新しい戸川純が困っていたら助けてやってくれ。余裕があればで構わないからさ」
「おれなんかで助けになるかはわからんが、頼まれたら協力するよ。おれにはなんの権力も権限もないがな」
「あいつは、自分のことは自分でなんとかするヤツだ。ただ、この時代に友達はいない。たまに酒に誘って、世間話をしてくれたらいいよ。誰とでも仲良く出来るヤツだから」
誰かと酒を飲むのが楽しいと言っていた。定治や良二とならいい飲み仲間になるだろうよ。
「日曜日は休みなんだろう? それとも彼女と出掛けたりするのか?」
「ま、まあ、そんなこともするが、なにかあるのか?」
「いや、要石を置きに行こうと思ってな。オレが置いた要石でも転移は出来るんだが、やっぱり自分の目で周辺を覚えるほうが確実なんだよ。オレの家、良二の家、あと、酒田に置いてもらえばすぐに移動できる。あ、親父さんの墓は福島だっけか? それなら墓にも置いたほうがいいだろう。それだと一日近く掛かるからな」
「そ、そうか。確かに親父の墓に簡単に行けるのはありがたいな。これ、お袋も連れて行けるのか?」
「嵌めている者を混ぜて三人だな。指輪には認識阻害の効果もあるが、出来る限り、人目のないところで転移してくれ」
誤魔化すくはいのものだから勘のいい者には見えたりするときがあるそうだ。
「まあ、なるべく秘密にしておいてくれ。仕事中は外していたほうがいいかもな。金の指輪に見えるから」
指に金の指輪を三つもしていたら目立ってしまう。盗まれないように気を付けてくれ。
「その指輪は無限に使えるわけじゃない。毎日使えば一月もしないで使えなくなる。切れそうになったら新しい戸川純のところに行って充填してもらってくれ」
こんな凄いものを簡単に使わせていいのかと三月に尋ねたことはある。どう考えても悪用されるだろうって。
「いいんじゃん。すれば」
だった。
「まあ、バレないように使ってくれとは伝えてくれ。あとは、自己責任だ」
とのことでもあった。
あの笑顔はなにか仕込んでいる笑顔だった。甘いようで辛辣なところがあるヤツだから。宏子さんを怯えさせるヤツだし……。
「誰かに取り上げられたら無理に取り返す必要はない。また新しいのを渡すから。気にすることはないからな」
「そんなんでいいのか?」
「そんなんでいいんだよ。バレないように有効に使ってくれ」
オレの置き土産でもある。定治の人生を豊かにするために使ってくれ。
「日曜日に来ていいか? ダメならまた次にするが」
「大丈夫だ。日曜日に来てくれ。良二にも会いたいしな」
再会を祝って残り少ないビールで乾杯。遠慮して下がったらいたおばさんに頭を下げて別れを告げた。
定治とおばさんに見送られ、路地裏に入ったら転移した。
家の前に現れると、三月がいた。
「お、帰って来たな。友達とは会えたか?」
「ああ。元気にしてたよ」
「それはなにより。今度、紹介してくれな」
「ああ。日曜日にまた会うことにしたよ。要石を置いて回る予定だ」
「そっか。稲刈りが始まったら伝えてくれな。夜は家にいるようにするから」
なんかやってんのか? 新居がどうこう言ってたが?
三月とはそこで別れ、酔いを冷ますために異世界の井戸で水を浴びるとする。
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