第45話 定治 *純*

「──純!? 純なのか?!」


 やっと定治が帰って来てくれた。おばさん、おしゃべりすぎ!


「定治! ああ、純だよ! 久しぶりだな! 元気だったか? 長い間、連絡しなくてすまん!」


 肩を叩きながら頭を下げた。謝っても謝っても足りないくらいだ。


「あ、いや、元気だし、お前も元気そうでなによりだ」


「二年前より体格がよくなってないか? 筋肉もついて」


 昔から体格はよかったが、今は一回りデカくなったようが気がする。


「毎日、重い荷物を運んでいるからな。体もデカくなるさ」


「運送だか輸送会社に勤めたんだっけ? 良二が言ってたが」


 なんだっけ? 定治を見たら忘れてしまったよ。


「運送会社だ。工業製品や食品加工を運んでいる。おれは、倉庫担当だがな」


「凄いな~、お前は。昔から働き者で、今も働き者なんだから。自分が恥ずかしくなるよ」


 オレも体を使う仕事だったらあんなことになってなかったのかな~。


「定治。まずは風呂にでも入りな。純くんがビールを持って来てくれたから」


「そうなのか? ありがたい。やっぱ仕事終わりにはビールだよな」


「すっかり飲兵衛だな」


「あはは。まーな」


 風呂に入ってもらい、さっぱり出て来たらよく冷えたビールを出した。


「仙台は至るところまで電気が走っているんだな。冷蔵庫なんて初めてみたよ」

 

 能己家や仁井家ならあるんだろうが、さすがに台所には入れなかった。いや、興味もなかったから目がいかなかったよ。


「今年のボーナスで買ったんだよ」


「ボーナスか。そういや、そんなのがあったっけな」


 そんなものがあることさえ忘れていた。一般の会社でも当たり前のものになっているんだな~。


「ケースで持って来るとか、よく持って来れたな。米も二十キロ袋を二つとか、お前、どんだけ力持ちになったんだ?」


「秘密があるが、まずは飲め。良二のところで作っている枝豆もある。おばさんが茹でてくれたよ」


「良二のところにも言ってんのか?」


「ああ。ちょくちょく行っているよ。最近では山形に入り浸っているくらいだ」


 良二のことも語ってやった。


「そっか。良二も元気そうでなによりだ。オレも来年には結婚しようと思ってんだ」


「おばさんから聞いた。おめでとう。どんな人なんだ?」


「同じ会社の子だよ。社長の娘なんだ」


「社長の娘!? じゃあ、将来は会社を継ぐのか?」


「いや、兄さんがいるから継ぐことはないよ。五人兄弟だからな」


 それでも娘なら出世とかしそうだな。


「実は、オレも結婚することになったんだ。たぶん、冬の始まりくらいに。山形の酒田ってところまで」


「酒田? どこだ?」


「日本海沿いの町だ。仙台からだとかなり時間が掛かるな」


「時間が掛かっても行くさ。お前の結婚なんだからな」


 そう言ってくれることに涙が出そうになった。オレはこんな友人を捨てようとしていたんだな……。


「なに、涙脆くなってんだよ。目出度いことなのに。そっちこそどんな人なんだ?」


「……ひ、一言では語り尽くせないというか、たぶん、見たら驚くと思う。初対面が人気のない橋の上で、白い着物に手斧を持っていたからな……」


「なんの怪談だ?」


「いや、オレも超常なことを経験してなければ腰を抜かしていたと思う。この指輪を人差し指に嵌めてみろ」


「これ、金か?」


「金と銀の合金だそうだ。まあ、嵌めてみろ。超常って意味がわかるから」


 なんなんだ? みたいな顔をしながらも人差し指に指輪を嵌めた。


「良二のところにこんな石がある。頭になにか浮かばないか?」


 定治は良二の家に行ったことがある。なら、その情景が思い──。


 ──って、思っている側から転移しちゃったよ。


 急いでオレも転移して定治のあとを追った。


「え? はぁ? ど、どうなってんだ?」


「良二の家だ。あ、良二!」


 都合よく良二が現れてくれた。たぶん、畑から戻って来たのだろう。


「定治! どうした!?」


「転移させてみた。定治を落ち着かせたらまた来るよ。そのときは三人で飲もうな」


 定治の肩に手を置いて、定治のアパートの部屋に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る