第5話

4月24日


今日も彼は来なかったわ。


少しだけ悲しい。


本当に少しだけよ。


だって私は彼を信じているもの。


彼が私を愛していることも。


彼が私だけを見ていることも。


全部分かっているから。


それでも、心配になってしまうのよね。


ちゃんとご飯は食べているのかしら。


眠れているのかしら。


私のことを考え過ぎて、夜中まで起きているんじゃないかしら。


あの人、真面目そうだから。


好きになったら一直線なタイプなのよ。


きっと。


私と声を重ねられなくて、枕を濡らしてはいないかしら。


胸が痛むわ。


彼は繊細な人だもの。


私みたいに恋愛に慣れていないのよね。


仕方ないわ。


男の人だもの。


私の家を知っていたら、今頃きっと会いに来ているはず。


逆に、私が彼の家を知っていたら良かったのに。


手料理を作って待っていてあげられるわ。


疲れて帰ってきた彼に、


「おかえりなさい」


って言ってあげられるのに。


温かいご飯も用意して。


上着も受け取って。


少しだけ髪を撫でてあげるの。


きっと喜ぶわ。


ふふ。


想像しただけで幸せ。


今日、大学生のアルバイトの坊やが、商品の箱を運びながら


「ちょっと通ります」


なんて言ってきたの。


それだけなら普通なのだけれど。


わざわざ私のすぐ後ろを通ったのよ。


本当に若い子って積極的。


困ってしまうわ。


あの子、最近ずっと私のことを見ているもの。


青春ね。


可愛いけれど。


ごめんなさい。


私には心に決めた人がいるの。


彼が見たらきっと嫉妬してしまうでしょうね。


今日、彼が来なくて良かったのかもしれない。


優しい人だから。


きっと傷付いてしまうもの。


でも安心して。


私はあなたのものよ。


だからそんな顔をしないで。


明日は来てくれるわよね。


待っているから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る