第2話
4月20日
「最近は暑かったり寒かったりだから、その日の気温で半袖と長袖、各自で選んでね。」
出勤するなり、店長がそう言ったわ。
もう、本当に素直じゃないんだから。
そんなの建前に決まってるでしょう?
私の腕が見たいのよ。
胸元だって少し気になっているはず。
でも、店長は既婚者だから。
みんなの前でそんなこと言えないのよね。
可愛い人。
私も罪な女だわ。
好きでもない人を、こんなにも夢中にさせてしまうんだから。
少し申し訳なくなってしまう。
だから今日は半袖にしたの。
サービスよ。
特別に。
鏡を見ると、制服の布地が胸に張り付いていた。
仕方ないわ。
私だって女ですもの。
隠そうとしても、どうしても滲み出てしまうのよね。
夕方になる頃には、お客様たちの視線も随分と熱くなっていた。
あまり見つめられると困るのだけれど。
でも、皆幸せそうだったから。
許してあげたわ。
その時だった。
自動ドアが開いた。
私はすぐに気付いたの。
だって運命だもの。
分からないはずがないでしょう?
彼だった。
王子様。
背が高くて。
脚が長くて。
黒髪が綺麗で。
銀縁の眼鏡がよく似合う人。
ああ。
今日も素敵。
本当に素敵。
私はレジに立ちながら、何度も彼を見てしまった。
だって仕方がないじゃない。
恋をしているんだもの。
彼も同じだったみたい。
商品を選んでいる時も。
飲み物を取る時も。
何度も私を見ていた。
ふふ。
そんなに見つめられたら恥ずかしいわ。
やがて彼はレジへ向かってきた。
もちろん、私のところへ。
列なんて関係ない。
人は本当に会いたい相手のところへ行くものだから。
彼は私の前に立った。
近い。
思ったよりずっと近い。
眼鏡の奥の目が私を見つめる。
熱く。
深く。
飢えた獣みたいに。
私は知っている。
あの目の意味を。
私を欲しいと思っている目。
私を愛している目。
だって私も同じ目をしていたから。
だから分かったの。
あの日。
4月20日。
私たちは恋人になったのよ。
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