小噺6『猫女郎』(三題作「猫」、「饅頭」、「寺」)

@usomuki

第1話

〇『猫女郎』あらすじ 

今まで仕事一筋で、女遊びをひとつもしてこなかった男は、友人に連れられて吉原へ行った。男は、ある遊女に一目惚れして、小野小町の再来かと思うほど心を奪われる。しかしその遊女は猫のような性格で、気に入った客には愛想よくするが、そうでない客には素っ気ない。男は何度通っても相手にされず、途方に暮れて寺の住職へ相談に行く。


話を聞いた住職は、自身の膝に乗せたぶくぶくに太った猫を撫でながら、


「猫ァ餌で懐くもんじゃ」


と言い、寺の門前で評判の饅頭を勧める。


男は、


「猫みてぇな性分だからって、餌で懐くとは思えねぇが……」


と半信半疑だったが、どうしても相手にされたかったため、その饅頭を持って遊女のもとを訪ねる。


すると遊女はその味を大層気に入り、


「また持って来なんし」


と初めて男に笑顔を見せる。


以来、男は遊女に会うたび饅頭を届けるようになる。元々いた客たちも、いつしか姿を見せなくなり、男だけが通うようになった。そして、男は、自分こそが特別な存在になったのだと有頂天になる。


その間も男は、


「お前さんは、まるで小野小町みてぇだ」


と口説き続けた。


やがて男は遊女を身請けしようと考えるようになり、今まで稼いだ金に加え、友人からも金を借りようとする。友人もかつてその遊女の元に通っていたが、なぜか通わなくなってしまっていた。


金を借りに来た男に友人は、


「お前さん、本気かい。あんな女郎ひとりのために身上潰す気か」


と言う。


それに対して男は、


「何を言いやがる。あれは俺にとっちゃ小野小町にも負けねぇ美人だ」


と言い返す。


すると友人は呆れながら、


「なるほどな。確かに晩年の小町みてぇだ」


と言う。


男が、


「どういうこった」


と尋ねると、友人は小野小町の


「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」


という歌の話をして聞かせる。


そして、


「とにかく、もう一遍よく顔を見てから決めな」


と忠告した。


その後、男が意気揚々と遊女の部屋を訪ねると、そこにはかつての面影もないほど太った女がいた。美しかった肌はくすみ、身のこなしも鈍い。


男は、自分ばかり相手にしてくれる遊女に執心するあまり、変わりゆく姿をまともに見ていなかったのである。遊女を独占できたのも、実は遊女が太ったことに失望した客が来なくなったからだった。


男は遊女に、


「おめぇ、一体どうしちまったんだ」


と嘆く。


すると遊女は、


「来るたび来るたび、饅頭を持って来るお前さんを眺めておりんしたら、こうなりんした」


と言い、


「肌の色はくすみにけりなひたすらに我が身ぞ鈍るながめせしまに」


と、小野小町の歌をもじって詠むのであった。

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