第11話 男子たちのポンコツ反省会と、乙女の本気(ガチ)
サキュバスの怒りの大爆発により、ブティックの天井ごと吹き飛ばされたアヴァロンとジン。
二人が神のシステムによって強制的にシェアハウスのリビングへ回収されたのは、すっかり日が暮れた頃だった。
「……いてて。まさか街でのデートミッションで、モンスターじゃなく味方に吹き飛ばされるとは思わなかったぜ……」
アヴァロンはソファにぐったりと寄りかかりながら、スライムの保冷剤で頭のたんこぶを冷やしていた。
「全くっすよ……。リリスの奴、急にキレやがって。やっぱりあの骨ピアスがマズかったんすかね? 女の子にはもっと、こう、血塗られた短剣とかの方が喜ばれたんすかね……?」
ジンに至っては、いまだに自分がなぜ怒られたのかすら理解していなかった。
「君たち、本当に観察眼というものがないのだな」
ため息と共に、優雅に紅茶(※ティーバッグ)を啜りながら現れたのは、エリート魔道士のルーファスだった。
「リリスさんが怒った理由は明白だよ。君たちが、彼女の『潜在的ニーズ』を満たさなかったからだ」
「潜在的ニーズ?」
アヴァロンとジンが首を傾げる。
「そう。彼女はサキュバスという露出度の高いアバターだ。つまり、心の底では『もっと私を見てほしい、チヤホヤしてほしい』という承認欲求を抱えている。それなのに君たちはティアさんばかりを構い、彼女の承認欲求を無視した。それが爆発のトリガーさ」
(※注:リリスの中身は露出狂どころか極度にお堅い公務員であり、ルーファスの分析は1ミリも合っていない)
「な、なるほど……! さすがエリート、すげぇ説得力だ!」
「俺たち、リリスの女心(サキュバスとしての本能)を分かってやれてなかったんすね……!」
女性経験ゼロの会社員が語るデタラメな恋愛理論を、バカな大学生とピュアな脳筋トレーナーが深く頷きながらメモを取る。男子部屋の恋愛偏差値は、もはや計測不能なレベルまで低下していた。
「まあまあ、二人とも。次はもっとみんなで仲良くお出かけすればいいさ」
巨大な狂戦士ガルムが、エプロン姿でシチューの鍋をかき混ぜながら優しくフォローを入れる。
「リリスさんも、きっと寂しかっただけだと思うよ。女の子は、お花みたいに優しく扱わないとね」
見た目は一番凶悪なのに、一番まともなことを言うガルムの言葉に、アヴァロンは神妙な顔で頷いた。
(……寂しかった、か。たしかに俺、ティアちゃんをエスコートすることばっかり考えてて、リリスには全然声かけてなかったな。主人公として、パーティーの仲間への配慮が足りなかったぜ。明日はちゃんと謝ろう)
◆ ◆ ◆
一方、女子部屋では。
「うぅ……本当に、本当にごめんなさいティアさん……っ」
リリスがベッドの上で正座し、両手で顔を覆って泣きそうになっていた。
「私としたことが、公務員としての自制心を失って、あんな街中で魔法を暴走させるなんて……! 公私混同も甚だしいです。減給、いや懲戒免職レベルの失態……っ」
「あはは……まあ、ゲームの中ですし、誰も怪我してないから大丈夫ですよ」
ティアは、引きつった笑顔でリリスを慰めていた。
クレープ屋で奢ってもらって以降、すっかりリリスの勢いに気圧されてしまったのだ。
「でも、リリスさん。あそこまで怒るなんて、やっぱり……ジンさんのこと、本気で気になってるんですか?」
ティアが探りを入れるように尋ねると、リリスの肩がビクッと跳ねた。
彼女は顔を真っ赤にしたまま、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「……昨日の森で、ジンさんは私を庇ってくれました。その時、すごく胸がドキドキして。……だから今日は、私から少しでもお礼を言おうと思ってたんです。でも、ジンさんはずっとティアさんを見ていて……私のことなんて、これっぽっちも見てくれなくて」
リリスは、ギュッとシーツを握りしめた。
「それが、どうしようもなく……悲しくて、悔しかったんです。こんな感情、今まで勉強や仕事ばかりしてきた私には、初めてで……」
その言葉を聞いて、ティアの心臓がドクン、と鳴った。
(……本気だ。この人、あのヘタレ暗殺者に、本気で恋(ヤキモチ)してる)
ティアはこれまで、この『ラヴ・クエスト・アイランド』を、賞金一億円をもらうためのただの「ゲーム」だと思っていた。自分は清楚なヒロインを演じきり、男たちを上手く転がして、最後に一番条件の良い相手とカップルになればいい。それだけだと。
しかし、目の前で涙ぐむリリスの感情は、どう見ても作られたものではない。痛いくらいにリアルな、恋する乙女の『生きた感情』だった。
(みんな、一億円のためじゃなくて……本気で、この世界で誰かと向き合おうとしてる……?)
そう思った瞬間、ティアの脳裏に、昨日の夜の記憶がフラッシュバックした。
『ティアちゃん……すっげぇ良い奥さんになりそうだな。俺、胃袋掴まれちゃったかも』
包丁の手際を見て、真っ直ぐに自分を褒めてくれたアヴァロンの笑顔。
打算でも計算でもなく、ただ「自分自身(マイ)」を認めてくれたあの瞬間、自分がどれほど嬉しかったか。
(……バカね、私。何を感傷的になってるのよ。これは仕事。生活を楽にするための、サバイバルゲームなんだから)
ティアは小さく首を振り、心の中のノイズを無理やりかき消した。
「大丈夫ですよ、リリスさん。ジンさん、きっとリリスさんの気持ちに気づいてくれます。……私、応援しますから」
「ティアさん……! なんてお優しい……っ!」
リリスが感動してティアの手を握りしめる。
ティアは完璧なシスターの微笑みを崩さなかったが、その胸の奥には、今までになかった小さな『迷い』が生じ始めていた。
◆ ◆ ◆
そして、深夜二時。
参加者たちがそれぞれの思いを胸に眠りについた、その時。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
静まり返ったシェアハウスの空気を、耳を劈くようなけたたましいサイレン音が切り裂いた。
『緊急警報! 緊急警報! シェアハウス周辺に、規格外のレイドボスが接近中! 参加者の皆さんは直ちに迎撃態勢をとってください!』
神の焦ったようなアナウンスと共に、湖畔の地鳴りがシェアハウス全体を大きく揺らす。
アバターの武器も防具も外れ、ただの「パジャマ姿」になっている無防備な夜。
恋リアの甘い空気をぶち壊す、運営からの理不尽な抜き打ちサバイバルイベントが、ついに牙を剥こうとしていた。
VR恋リアのテストだと思ったら本物の異世界でした〜「ヤラセだろ?」と勘違いした俺たちの愛の力が最強すぎる件〜 ぽてと @poteto_chip
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