第2話

 ……申し訳ないことをした。もともとこの人を誘拐するのは計画のうちではあったのだが、いざ実行すると罪悪感がある。当たり前である。この人は研究員でもなんでもないし、なんなら僕にゼリーを運んでくれた人なのであるから。

 だがそうも言ってられる状況でない。現在僕はその配達員さんを抱えながら警備員や警察の手から逃げる最中であったのだから。

「動かないでください。動いたら殺しますからね!」

 などと柄にもない脅し文句を言って、暴れる配達員さんを落ち着かせる。自分だけで逃げるのならば、どこを通ってもすき間さえあれば通り抜けられるのでまあ良いのだが、今回は人間を抱えている。流石にいつものようにはできない。

 とにかく、逃げないと。僕は逃げた。逃げに逃げた。いろんなトンネルやら裏路地やらに入って警察車両を撒いた。

 ひとまず安心。ここまで不自由な思いをさせてしまった配達員さんの拘束を緩める。配達員さんはゼリーを口にも入れていたせいか咳き込みながら僕に怒鳴る。

「お前、どういうつもりだ!?俺は無関係だ!拘束を解け!今日もお天道様が隠れているからってこんな事しても無駄だ。すぐに通報してやる!」

 だいぶお怒りの様だ。無理もない。でも、絶対に分かってくれるはずだ。説明してみる。

「すみません、でも僕、あのままあそこにいると殺されてしまうみたいなんです。だから人質を取って逃げさせてもらうことにしました。本当にごめんなさい。」

「人質なら、あそこの研究員でもいいだろ!なんで俺なんだよ!」

「研究員さんは僕を殺す方法を知っているかもしれないんです。弱点だって分かっているかも。だから、何も知らないあなたが来るのを待っていたんです。でも無関係な人を巻き込んで本当に申し訳ないとは思っています!お願いですからもう少し僕の人質として近くにいてください!もし離れるようだったら僕があなたを殺さないといけなくなってしまいます!お願いします!僕、殺されたくないし、殺したくもないです!」

 配達員さんはちょっと、いやかなり考えたような素振りをして、

「……まあどうせ逆らったら殺されるんだろ?付き合ってやるよ。人助けだと思えば罪悪感も軽いし。それに、なんか可哀想な気がしてきたしな。」

 と言ってくれた。ああ、よかった。分かってくれたみたいだ。これで一段落。

「ただし、少しでも俺に危害を加えたり、ほかの人間に危害を加えるようであればすぐに警察なり研究所なりに通報してやるからな?」

「ええ、もちろんです!ありがとうございます!」

 ……まあ、既に配達員さんなり研究員さんなりに細工はしてあるのだが。まあ害を与えているわけではないし、いいだろう。

「ところで、あなたの名前ってなんですか?」

「田中だよ。」

「下の名前は?」

「下の名前まで教えないといけないか?まあいいけど、正一だよ。」

「田中正一さん、ですね。わかりました!これから仲良くしましょうね、田中さん!」

「……ああ、わかったよ。」

こうして僕と田中さんの逃亡劇が始まったのだった。

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