第1話
さて、ピザも届け終わったことだし、ゼリーを届けに行こう。あの変なスライム、今日もいるのだろうか。
研究所の裏口でインターホンを押す。いつも出てくれる研究員さんが対応してくれる。この人とは何回か話したこともあり、もはや顔なじみと言っていいだろう。
「いやあ、いつもありがとうございます。」
「いえいえ、仕事ですから。それより、これはまたアレにあげるんですよね?」
「そうなんですよ。でも流石に維持費がかかってかかってしょうがないので、もうすぐ廃棄することになってるんです。」
「ああ、そうなんですね。それは――」
その瞬間だった。分厚いガラスが無理矢理割られた音がした。
「0926が逃げたぞ!警備班!至急奴を確保しろ!生死は問わない!」
「ああ……そんなまさか」
急にその研究員さんも急いで中に入っていってしまった。なにか大変なことが起こったのだろう。巻き込まれると面倒だからさっさと帰ることにする。裏口のドアを閉め、振り返り、帰ろうとした。
できない。最初のドアを閉めるというステップはできた。振り返ることもできた。が、足が動かない。なにかに巻き付かれているのか。そう考えているうちに甘い香りが鼻をついた。
「ごめんね。あなたは無関係なんだけど、人質にさせてもらうね。」
全身を柔らかい半透明なものでつつみ込まれる。同時に運び込まれたゼリーの入った段ボールも一緒に入ったことが分かった。
はなせ、と言おうとしたが、口を開くと口内も何かで満たされてしまい、舌を動かすことがままならない状態になってしまった。
ここで目をなんとか見開き、あたりを見回してみると、俺は奴の中にいた。
この研究所の実験体であるスライム。毎週俺が運ぶゼリーを食っているという新種の生命体。初めて見かけた時から、やたらと鮮やかでカラフルな体色が印象に残っている。
でもそれは基本的に無害だと研究員さんは言っていた。だから研究室のあくまで決まったところではあるものの、歩き回っていたりするのを俺も見たことがある。それくらいには安全なはずなのに、おかしい。いやそんな事より、ここから出なければ。だが、変だ。こんな状況なのに、胸の高鳴りを抑えられない自分がいる。
そんなくだらないことを考えていると、警備員の人がやってきた。
「よせ!0926!その人間は一般人だ!解放しろ!」
「ごめんなさい警備員さん。でも僕は死にたくないんです。だからこの人を人質にして逃げさせてください!あなたたちが僕を捕まえるなら、僕はこの人を殺します!」
俺はぎょっとした。いや、普通に考えればわかることだが、どうやらこいつがその気になれば俺を殺すこともあるらしい。血の気が引くのがわかる。
一方でこのスライムは箱のなかにあった大量のゼリーを自分の体に吸収してでかくなりやがり、そのまま俺を軽々と抱えながら逃げていったのだった。
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