第23話 青酸カリ

 佐々木はぼそりと呟いた。目の前にいる柳田は、口角を上げ小さく頷く。


「愛娘が性被害に遭ったって知ったとしたら、ショックを通り越して殺意が芽生えるだろうな」

「素直な感想ですね。十二分に考えられます」


 父親か母親か、はたまた共犯か。佐々木はその答えを導き出すべく、思考回路を整理し始めた。


「なぁ柳田、職業柄、青酸カリを手に入れられそうな親なんていたか?」


 佐々木の問いかけに、柳田は小さくかぶりを振った。毒物を難なく入手できるような職業に就いている保護者はいない。それと同時に、ある人物以外は皆、その時間仕事をしておりアリバイが成立していた。


「なるほど、あの美魔女だけアリバイがはっきりしないのか」

「はい。一人でいらっしゃったようで」


 専業主婦の朋恵の母親のみ、アリバイが成立しなかった。


「なるほどなぁ。でさ、朋恵ちゃんみたいに化学系の部活動に入ってる子は? お前のことだからもう調べはついてんだろ?」


 柳田は「当然です」と言わんばかりの表情で頷く。


「そのような方はいらっしゃいませんでした」

「ま、そうだとは思ってたけど。なぁ、念のため、朋恵ちゃんが所属してる化学部の保管庫を調べとこうぜ。こんなこと考えたくねぇが、娘の復讐のために母親が盗ませた可能性もあるだろ?」

「まぁ、無いとは言い切れませんね。学園には既に話をつけておきましたから、早速向かいましょう」

「ったく、仕事が早いねぇ」


 こうして二人は、セントフォレスター学園へ向かい、化学部講師立ち会いの元、保管庫の中を調べ上げた。


「これが青酸カリですよ。シアン化カリウムってなってるでしょう?」


 講師は、瓶に貼られているラベルを指差した。そこには、間違いなくシアン化カリウム(青酸カリ)と書かれてある。


「では、こちらの中身を一部調べさせてもらいます。管理表もお借りしたいのですが宜しいですか」

「あぁ、勿論良いですとも」

「では、ここに一筆お願いいたします」


 柳田は、後々トラブルに発展しないよう了承の一筆を貰った。


「でも、刑事さんが来るなんて、何かマズいことでもあったのかい? こんなこと長年教師を務めてきたけど初めてだよ」

「いやまぁ、ここ最近管理が甘い学校が多くなってきたもので。防犯体制を今一度見直していただくキッカケになればと」


 柳田が言葉を発する前に、佐々木が上手く誤魔化した。それもこれも、田川朋恵のプライバシーを守るため。犯人を特定出来ていない以上、まだ彼女の名前を出すべきではないと佐々木は判断した。


「あ、そういうこと。抜き打ちチェックみたいなものか。良かった、てっきり何かあったのかと思ったよ」

 

 佐々木の機転でスムーズに事が進み、無事青酸カリが手に入った。


「科捜研に急ぎましょう」


 しばらくして、あの中身が正真正銘青酸カリであるという報告が入った。管理表に記載のあったグラム数との誤差も許容範囲で、科捜研は故意に使用した形跡はないという判断を下した。


「これで朋恵ちゃんが青酸カリを盗み出したっていう線は完全に無くなったな。はぁ……じゃあ一体誰がどっから入手したんだよぉ……」


 佐々木はげんなりしている。


「少し違う角度からのアプローチも必要かもしれませんね。僕は一旦、カフェインを挟んできます」

「え、あ、おいっ」


 柳田は佐々木の呼び止めに振り返りもせず、スタスタとどこかへ去って行ってしまった。

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