第5話遺し物(のこしもの)
昨日、フェンネル達に会った場所へ再び向かった。フェンネルは宣言した通りそこでイリス達を待ったていた。
「来たね。付いてきて」
それだけ言って、前を歩いていく。何も言わず、二人もそのまま付いていく。しばらくすると、普通の家より少し大きい位の建物が見えてきた。木でできていて、かなり年季が入っているように見える。青色の屋根が静かな森の雰囲気によく似合っている。
「イリス達は、魔女の起源を知っているよね」
「村で知らない人はいないと思うけど」
すべての始まりは、ある一人の魔女だった。名をイザベラ、既に処刑にされているがその存在は多くの人々を震撼させたとされている。
「それがどうかしたの?」
ローリエは好奇心を抑えきれないで前のめりに聞く。建物の前まで来るとフェンネルは立ち止まり、言った。
「…これは、彼女の遺産とでも言えばいいのかな」
すると入口のドアが開きオレガノが中から出てきた。
「僕としてはイザベラの隠れ家だと考えてるんだけど」
そして、イリス達に苦い顔を向ける。
「本当に連れて来たんだ」
「僕達だけが此処に寝泊まりなんて贅沢、さすがに気が引けるしね。それに、イザベラの死後も教会に見つからずにそのまま残っているんだ、ここは安全な場所と言える」
「はぁ〜もう好きにすればいいよ。…でも兄さん、それって教えるって事だよね?あの事を」
「いつか、きっと知ることになる。責任持って僕が伝えるよ。オレガノはそのままこの家を調べてて」
二人が何について話しているのかさっぱり分からなかった。だが、その何かに嫌な予感がしていた。
「ごめんね二人とも。待たせちゃって」
「それは全然いいんだけと…その、あの事って?」
大したことがないならすぐに言ってくれると思ったが甘い考えだった。フェンネルはただイリス達から目を逸らし顔を曇らせただけだった。
「心の準備をしておいて、としか言えないかな…立ち話もなんだし、中に入ろうか」
中に入って少し進むと、小さな図書館の様な場所にきた。壁一面に本棚が並べられてあり、見たことのない本も沢山あった。後で読んでみよう。
「ここが何が関係あるの?あたし的にはここにある本を早く読みたいんだけど」
「それは、あとで好きなだけいいよ」
「やった!」
ローリエが満面の笑みを浮かべる。彼女の笑う姿を見るのは久しぶりに感じた。
「まぁ前置きはこのくらいで、本題に入ろうか」
真面目な声に思わず唾を呑み込む。
あの事とはいったい何なのか?不安と好奇心という相反する感情がイリスの中でぶつかり合う。
「長々と話すのは得意じゃないから単刀直入にいうと―」
「僕達は魔女じゃない」
…えっ?魔女じゃない?今そう言ったの?
私達が魔女じゃないならなぜ殺されなければならなかった?私達は一体何者…?
「魔女じゃないなら、あたし達は何なの?」
疑問を抑えきれずローリエが問う。その声は震えていた。
「僕達は人間さ、そして人間でありながら“魔女”だと差別され、挙句の果て多くの人々が殺された。恐ろしい話さ」
「そんな…」
信じたくなかった。自分の存在を否定された気がして、酷く気持ち悪かった。魔女だと差別されるのが嫌いだったのに、そうではないと言われるとここまで喜べないものなのか。いや、今の場合大切な人達が殺されているからだろう。そうでなければ喜べたんだろうか?
「教会は私達が人間だと知らずに村を無くそうとしているの?それとも…」
「恐らく知っている…少なくとも司教であるニコラスは絶対に」
理解しようとしても、頭が上手く回らない。教会はなんでこんな事を…。だいたい何故魔女と言う存在を作る必要があったのだろう?
分からないことが多すぎて脳が破裂しそうだ。
「ねぇフェンネル。どうやってこの事を知ったの?」
「イザベラが遺した日記を見つけたんだ。そこに書いてあった」
そう言うと、奥にある机の上に置いてある一冊の本を取って二人に渡した。
「その目で確かめたいのなら読んでみるといい」
緑色の表紙をめくりローリエと共に覗き込む。
― 私達は人間である
これを誰が読んでいるのか、それとも誰にも読まれないで消えるのか私には分からない、だがもしも、私の罪を負った子達あなたたちが読んでいるのなら、どうかこの身勝手な願いを聞き届けてほしい。私はこの罪を正す事ができなかった。私の贖罪を継承してほしい。
どうか魔女と言う存在をなくしてください。
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