第2話悪夢

 もし近くにやつらがいても気づかれないように息を潜めながら、でも少しずつ村に足を進めて二人で裏道を歩いた。ただ草を踏む音だけが聞こえる。そして、自分の心臓の音も。

「なんであいつらがいたのかな?」

心配そうにローリエが問う。

魔女裁判会クロウス―この都にあるイグラルド教会の魔女狩り組織。司教であるニコラス様が治安維持のために作ったと言われている。魔女が不祥事を起こせばそれを対処する。実際、教会に反抗していた魔女はみな消されている。

「北のあたしたちが何かしたとは思えないけど…。」

ローリエの言う通り、魔女裁判会クロウスに目をつけられることをしようとするやつはいない。目をつけられたら最後どうなるかを分かっているから…。

「最近あったことで思いつくのは、魔女は人間だって訴えるために、複数の魔女が教会に乗り込んだ話だけど」

これは西の村の魔女たちがやったことだからやはり私たちには関係ないのである。

そんな事を話していると、だんだん私たちの家が近づいてきた。


 この道は、家の裏側に繋がっていて私たちは一旦そこで休憩する。ひと休みしたら村長のところまで行こうと考えていると、村の入口あたりから言い争いの声が聞こえた。

「ふざけるな!」

「どういう事か説明しろよ!」

次々、罵声が飛び交う。その先には魔女裁判会クロウスがいた。一体何が起きているのか?

「そう荒ぶらず、落ち着いてください」

団の先頭にいる少女がなだめるように言葉を発した。教会の人間なのは好ましくないが数歳差しかなさそうなのに指揮を執っているとは少し感心する。

「裁判官様、失礼ですが私たちが一体何をしたと言うのですか?」

村長が裁判官の前に立つ。

「これは、司教様からの命令です。あなたたち魔女の村の内の一つが教会へ無礼を働いた事は勿論知っているでしょう?」

「それは西の村がしたこと。北の村は関係ありません」

「しかし、司教様は魔女全体の責任とし魔女の村をすべて無くすとおっしゃっております」

「村をすべて無くす?それでは私たちはどこで暮らせと?まさか、教会が保護してくれるわけではないでしょう?」

焦った様子を見せず、力強く裁判官の少女に問い詰める。

「あまりにも急すぎます。納得がいかない。司教様とお話をさせてもらえませんか」

裁判官の少女はしばらくして口を開いた。

「……申し訳ありません。言葉が足りませんでしたね」


その次の瞬間、村長の首が中を舞った。


ドサッと胴体が倒れる。裁判官の少女の手元には血のついた剣があった。

「キャーッ!」

「村長さん!」

恐怖と混乱で満ちた空気の中、裁判官の少女は淡々と告げる。

「私は、第五裁判官のラブカと申します。司教様のおしゃっる村をすべて無くすと言うことはこういう事、つまり私は、あなたたちを狩りに参りました」

狩りに来たと言う言葉が頭の中で繰り返される。私たちはこのまま殺される?

「子供達を逃がして!」

「男は前に出て戦え!」

村人達は声を掛け合いこの危機を乗り切ろうとする。だが、そんな事はさせないとラブカの後ろに控えていた騎士達が次々と村人に剣を向け、村に火を放つ。炎は素早く広がり、段々逃げ場がなくなる。

「イリス!私達も逃げなきゃ」

ローリエに言われなくてもそんな事は頭で理解していた、しかし、その場から動くことはできなかった。目に映る死体が倒れていくたび自分の中で何かが壊れていく。

あぁ、このまま私も一緒に―。

「しっかりしてっ!」バシッと言う音と共に激しい痛みが頬に伝わる。

「…ローリエ?」

その顔は涙で濡れていた。唇を噛み締め、ローリエは続ける。

「悲しいのも怖いのも怒るのも分かるけど、今は立って。みんなの命を無駄にしないで」

私の手にローリエの手が重なる。

「…ごめん」

ごめん村長。ごめんみんな。私達は最後まで何も返せなかった。だからせめて、その命を無駄にはしない。

「森の中に隠れられそうな洞穴があったはず。そこを目指そう」

「うん」

日は沈んでいる、足元に気をつけなければ。

二人で来た道を少し戻り森の中へ入って行った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る