―Wednesday― †搦め捕ったのは†
† quiet †ヘイオン†
【レージside】
――トントントン……
まだ完全に覚醒していない頭に心地良く響く、どこか懐かしい音。
食欲をそそる匂いが、鼻孔を優しく擽る。
俺は、まだ微妙に痛む頭を押さえながら、上体を起こした。
ベッドサイドに置いてある時計に目を向ける。
時刻は丁度、8時を回ったところ。
はっきり言って、夕べから今に至るまでの記憶があやふやだ。
俺は、糸を手繰り寄せるように時間を遡り、そしてはっとなった。
『私があなたを救ってあげる』
そんな傲慢を俺に押し付けて来やがった女が居た。
そいつは偽善じみた微笑みを浮かべていて。
無性に癇に障る女だと思った。
『へぇ?なら慰めてみろよ』
その時の俺は、飢えた獣みたいなものだった。
でも、自分を止める気もなくて……
欲望のままに、女を貪った。
「夢……じゃねえよな」
俺の聴覚と嗅覚が、ソレが全て現実だと訴える。
とりあえず、ガウンを羽織って寝室を出た。
――やはり……
そう言うべきか。
昨日の女がそこには居た。
「あ、おはよう」
昨夜の事など、まるでなかったかのように女は爽やかな微笑を浮かべて俺に言う。
特に俺からの返事は期待していないのか。
「もう少し待っててね?直ぐに出来るから」
すぐにキッチンへと向き直すと、手を動かしはじめた。
結い上げられた髪から覗く項の一点に、俺は釘付けになった。
そこには……
――昨夜の行為の動かぬ証拠が
――紅い、紅い、所有印が刻まれていて……
『……ぁっ……やっ……あっ……』
俺の脳裏を、熱に浮かされた女の喘ぎ声と、一方的に快楽を求める行為とが鮮明に過ぎり、思わず顔を逸らした。
「レージ?どうしたの、ぼうっとして。ほら早く席について……」
――食べましょう?
女が不思議そうに小首を傾げて手招きをしている。
その姿は可憐――……
穢れなんて一切知らない
“無垢な天使”
そんな言葉を彷彿させて。
昨夜は一体何だったのか?
余りのアンバランスさに、言い知れない違和感を覚えずにはいられない。
「レージ?」
不思議そうに俺を呼ぶ声。
「お前、何なんだ……誰なんだよ」
口を吐いて出たのは、そんな常套句だった。
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