18 白い薔薇に囲まれて
※
それから、1年の月日が経った。私達は今日、式を挙げて、晴れて夫婦になる予定だ。
私は控室の鏡台の前に座ったまま、彼らのことを思い返した。
半年前に招待状を送った際に、ニュルンデル伯爵から、私達をからかった内容の返信が届いた。結婚式の日付が私とアーサー様が出会った日━━つまり、魔導列車のお披露目の日と同じだと伯爵は気づいていたのだ。
“魔導列車を作った成果がこんな形で出るなんて、あの頃は想像もつかなかったよ”
その返信を書いていた時の彼は、きっといつものいたずらな笑みを浮かべていたことだろう。
伯爵はベッキーにも情報を共有していたらしい。
“初めて乗った魔導列車と同じくらい、結婚式が良い思い出になるといいね”
彼女の返信状には、そんな言葉が添えられていた。
控室の扉が開いた。私は鏡越しにお父様が入ってきたのを見た。
「エレノア、準備はいいかい?」
「はい」
私は差し出された手を取って立ち上がると、そのまま部屋を出た。
そして、アーサー様と招待客の待つ式場へと向かったのだ。
「エレノア、今日のお前は一段と綺麗だよ」
式場前の扉で待機している時に、お父様が言った。もう、何回目だろう。
けれど、何度言われたって悪い気はしなかった。
「ありがとう、お父様」
お父様は笑いながら目に涙を浮かべていた。
「もう。お父様ったら。今日から私はモニャーク家の人間ではなくなりますが、お父様の娘であることには変わりませんよ? だから泣かないで下さい」
「そうだね。すまない」
お父様は涙を拭った。
━━ああ、この人の娘に。エレノア・モニャークに生まれ変われて良かった。
私はそう思いながらお父様に微笑みかけた。
「大公妃殿下、公爵閣下。入場のお時間です」
式場のスタッフに声をかけられて、私はヴェールを被り、お父様と腕を組む。
「それでは、新婦入場です」
司会の声とともに扉が開く。
私はお父様とともにヴァージンロードを歩いた。そして、アーサー様の前までくると、お父様の腕を離れて、今度はアーサー様と腕を組んで歩いた。
私達は神父様の前にたどり着くと、神に向けて互いへの愛を誓い合った。
「それでは、誓いのキスをお願いします」
神父様の言葉でアーサー様はヴェールを上げた。視界が開けたおかげで、目の前のアーサー様の姿がはっきりと見えた。
白のタキシードを着た彼は、普段とは違って前髪を上げている。彼は私を見つめると優しく笑った。
彼の手が私の頬に優しく触れる。私は目を閉じて彼の唇を受け入れた。
※
「エリー、結婚おめでとう」
披露宴の会場でベッキーが言った。
「ありがとう」
「その薔薇の髪飾り、似合ってるよ」
そう言ったのはニュルンデル伯爵だった。
「ありがとうございます」
白い薔薇を髪飾りとして使ったらどうかと提案してきたのはローズ王女殿下だった。私の黒髪に映えるからと。白い薔薇をふんだんに使ったこの髪型は評判がとてもいい。流石は数々の流行を作ってきた王女殿下だ。後でお礼を言わなくちゃ。
「エレノア」
来賓の方々と話を終えたアーサー様がこちらにやって来た。
「そろそろダンスの時間だよ」
そう言って彼は、私の手を取った。
「いってらっしゃい」
ベッキーはにこにこと笑って言う。
「ベッキーも踊りましょう。私の披露宴を寂しくさせないで?」
私がそう言ったらベッキーはちらりと伯爵を見た。彼は笑顔を作ると、彼女の前に手を差し出した。
「一緒に踊ってくれませんか、レベッカ嬢」
「ぜひ、お願いします」
二人は手を取って微笑みあった。
音楽が変わり、踊りの時間が始まる。
アーサー様の動きに合わせてゆっくりとステップを踏む。
「今日はとても綺麗だ」
踊りの最中、アーサー様はそんなことを言ってきた。
「ありがとうございます。アーサー様も、今日はいつもの何倍もかっこいいですよ」
そう言うと彼ははにかんだ。
踊りの最中、視界の端に薔薇の花が映った。会場中に飾られた白い薔薇の花。白くて清廉で、豪奢でもあるその花のおかげで、私はアーサー様と結婚したんだと実感させられる。
「夢みたいです」
「何が?」
アーサー様は不思議そうに私を見た。
「アーサー様と結婚して、こんな素敵な披露宴を挙げていることですよ。幸せ過ぎて、夢みたいだなって」
「夢じゃないよ」
アーサー様は食い気味に言った。
「これは夢じゃない。現実だ」
彼が真剣な顔で言うものだから思わず笑ってしまった。
「ええ。そうですね」
「これからもっと幸せにするから。だから、期待しておいて?」
「ええ。私も、アーサー様を幸せにします」
私達は互いを見つめ合い、笑った。
夢見る乙女はもうおしまいだ。これからは、アーサー様とともに現実を見て、ともに歩んでいこう。彼となら、どんなに辛いことがあっても耐えられるし、幸せになれる。私はそう確信している。
『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』 了
捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る 花草青依 @aoi_hanakusa
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