3 パーティの招待
※
卒業パーティから3日後、私はようやくベッキーの家を訪れることができた。
お茶が用意されるとすぐに、私は彼女に正式に婚約解消したことを報告した。そして、相談も兼ねて、大公殿下からの求婚を打ち明けたのだ。
私の話を聞いていた彼女の顔は、終始曇っていた。
最近は親友に心配をかけてばかりだ。彼女のためにも、一刻も早く日常を取り戻したい。
「それでエリーはどうするつもりなの」
ベッキーの言葉にお茶を持つ手が止まった。
私は、どうしたいのだろう━━
「エリー? 聞いてる?」
「ごめん……。聞いてるよ」
「今日は顔色が悪いし、反応が鈍くて心配だわ」
「ここ数日の疲れが出てるんだと思う。家に帰ってゆっくり休めば治ると思うから気にしないで」
「そっか……。大変だったもんね」
ベッキーは、使用人にハーブティーを用意するようにと告げた。
この2日間は、精神的にとても疲れを感じさせられた。
王宮に呼び出された私とお父様は、第二王子派の筆頭である第一王妃様━━つまりはケイン様のお母様からの謝罪と撤回を受けた。
私達がそれを断ると、第一王妃様はしつこく食い下がってきた。何としてでもモニャーク家との関係を保とう。彼女がそう思っているのが見え透いて、私は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
次の日、私は再び王宮を訪れると、今度は謁見の間で国王陛下にお会いした。そうして、ケイン様からの婚約破棄を受け入れる旨を直接国王陛下に申し上げたのだ。
玉座に肘をついて話を聞いていた陛下は、口の端を上げて「了解した」と言った。
「賠償の話は日を改めてしよう」
そう言った陛下は不気味なことに笑っていて、私は後退りたくなるのを我慢した。
つい数日前のことを思い出してげんなりとしていると、使用人がハーブティーを出してくれた。
薬草の匂いがほんのりと香るそれを一口飲めば、その温かさに癒やされた。
私はほっと息を吐くと言った。
「正直に言って、もう婚約はコリゴリって気持ちと、新しい出会いへの期待で揺れてるんだ」
「まあ、あんなことがあったばかりじゃねえ」
ベッキーは苦笑した。
「せめて大公殿下がどんなお方なのか実際にこの目で確かめられたらいいんだけど」
「会ってみる?」
私は危うく口に含んだお茶をこぼしそうになった。
「ベッキー、大公殿下と親しい間柄だったの?」
「そんなわけないじゃない。今度、王女殿下が主催するパーティに大公殿下もいらっしゃるのよ」
「ああ、そういうこと」
ベッキーは卒業してから、ケイン様の腹違いの姉であるローズ・ルトワール王女殿下の侍女となった。
学生の時から王女殿下の専属侍女見習いとして王宮に出入りしていた彼女は、卒業後、晴れて正式な侍女となったのだ。
ベッキーの主な仕事は、王女殿下のお話相手と、社交活動のお手伝いになると聞いていた。けれど、侍女になったばかりなのに、パーティの準備を任されているだなんて。そんなことは思ってもみなかった。もしかしたら、ベッキーはなかなかのやり手なのかもしれない。
「それで、どうするの? 会ってみる?」
「お会いできるならそうしたいけど……。ただ、王女殿下のパーティに私が参加してもいいものかしら? そもそも、招待をされてないのよ?」
「そこは私が取り付けておく! 明日までに招待状を届けてもらうわね」
「明日!? 王女殿下は本当にお許しになるの?」
「大丈夫よ。実は、今回のパーティにエリーも招待する予定だったんだけど、ケイン様とあんなことがあったじゃない? 王女殿下はエリーが笑いものになったらいけないと気を遣って下さって招待を取りやめにしたのよ。招待状を送れば真面目なエリーが無理をして来るかもしれないからって」
「そうだったんだ……」
王女殿下は本当にお優しい方だ。今度お会いしたら何かお礼の品を渡そう。
「大公殿下、いい人だといいなあ」
そう言ったベッキーの顔は、まるで夢見る乙女のように無垢だった。
「そうね」
「もう! エリー、自分の縁談の話なんだよ。ちょっとはドキドキしないの?」
「ドキドキより不安の方が大きいかな」
「そっか。不安かあ」
「うん。不安。でも、ドキドキできるならしてみたいかなっ」
そう言って頑張って笑ってみた。これ以上、親友に心配をかけたくなかったから。ベッキーも、私の気持ちを察してくれたのか、「ドキドキの予感がするから大丈夫だよ」と言って笑ってくれた。
「神様、どうかエリーに新たな春が来ますように」
「お願いします」
暗い気持ちを吹き飛ばすように二人で神様に祈ってみた。冗談半分、本気半分で。
「次こそ、私の恋が上手くいきますように!」
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