第7話「未来圏外」


光だった。


白く、

視界を焼き潰すほどの。


ユウは反射的に目を閉じる。


だが遅かった。


頭の奥へ、

無数の映像が流れ込んでくる。


知らない街。


崩壊した空。


泣き叫ぶ人々。


燃える高層ビル。


そして。


世界中から向けられる、

憎悪の視線。


《未来破壊者》


《人類敵対対象》


《コード:OUTSIDER》


ユウは膝をついた。


「がっ……!」


頭が割れそうに痛い。


ミナが駆け寄る。


「ユウ!」


触れられた瞬間。


映像が止まる。


静寂。


荒い呼吸だけが残った。


九条が険しい顔で呟く。


『やはり……

お前は“鍵”か』


ユウは顔を上げる。


「……何なんだよ、

これ」


九条は黒い球体を見つめる。


『FATEは、

観測不能因子を一つだけ確認していた』


『未来を固定できない存在』


『それが未来圏外だ』


ミナが不安そうに聞く。


「じゃあユウは……?」


『未来そのものを揺らがせる』


空気が重くなる。


九条は続けた。


『本来、

未来は観測された瞬間に固定される』


『だが未来圏外だけは違う』


『存在するだけで、

周囲の未来を分岐させる』


ユウは思い出す。


ミナの死亡時刻。


少しずつズレていた。


「……だから、

ミナの未来が」


『変化している』


ミナが息を呑む。


九条は静かに言った。


『君の近くにいる限り、

彼女の未来は確定しない』


その瞬間。


ミナのスマホが震えた。


三人の視線が集まる。


表示された未来予測。


《死亡確率:100%》


その数字が、

ゆっくり変化していく。


99.98%


99.95%


99.91%


ミナの目が大きく開かれる。


「うそ……」


未来が変わっている。


FATE絶対の法則が、

崩れていた。


その時。


未来保安局員の一人が叫ぶ。


『対象危険度急上昇!

即時処分許可を――』


バチッ!!


突然、

施設全体の照明が落ちた。


暗闇。


次の瞬間。


無数の未来映像が、

空間いっぱいに浮かび上がる。


その全てに映っていた。


朝霧ユウ。


ある未来では、

世界を救っていた。


ある未来では、

世界を滅ぼしていた。


そして。


どの未来でも、

隣にはミナがいた。


ミナが震える声で言う。


「……なんで」


九条の表情が曇る。


『観測不能因子は、

未来を引き寄せる』


『世界そのものが、

お前を中心に分岐を始めている』


未来保安局員たちが後退る。


恐怖していた。


未来が読めない。


それはこの時代において、

“怪物”より恐ろしい。


『撃て!!』


銃声。


ユウは咄嗟にミナを庇う。


その瞬間。


黒い球体が脈動した。


ドクン――


空間が歪む。


放たれた弾丸が、

空中で停止した。


誰も動けない。


時間が止まったみたいだった。


いや。


違う。


“未来”が止まっていた。


ユウの耳元で、

誰かの声がする。


『ようやく見つけた』


低い声。


冷たい。


だがどこか、

自分自身に似ていた。


ユウは振り返る。


そこにいた。


未来映像で見た、

もう一人の自分。


黒いコート。


赤い瞳。


崩れた世界を歩いてきたような顔。


ミナが息を呑む。


「……誰」


男はユウを見る。


「お前の未来だ」


その一言で、

空気が凍った。


未来のユウは、

静かに笑う。


「時間がない」


「このままだと、

ミナは死ぬ」


ミナの顔が強張る。


だが男は続けた。


「そして413日後、

世界も終わる」


未来保安局員たちが動けないまま、

恐怖の目を向けていた。


未来のユウは、

黒い球体へ視線を向ける。


「FATEは人類を救った」


「でも同時に、

可能性を殺した」


赤い瞳が、

真っ直ぐ今のユウを見る。


「お前が選べ」


その声だけ、

妙に悲しかった。


「未来を壊すか」


一瞬の沈黙。


そして。


「未来に従って、

ミナを失うか」


黒い球体が、

再び脈動する。


ドクン――


空間が崩れ始めた。


警報が鳴り響く。


《未来観測崩壊》

《分岐限界到達》


未来のユウは、

最後に小さく笑った。


「――次は、

間違えるなよ」


その瞬間。


世界が白く弾けた。

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