第8話 「未来崩壊」
目を開けた時。
世界は静かだった。
ユウは瓦礫の上に倒れていた。
冷たい風。
遠くで鳴る警報。
空は赤黒く濁り、
都市全体が不気味な光に包まれている。
「……っ」
頭が痛い。
身体を起こす。
周囲を見る。
旧第七観測区は半壊していた。
巨大な地下施設は崩れ、
黒い煙が空へ伸びている。
「ミナ!」
ユウは立ち上がった。
瓦礫を乗り越え、
必死に辺りを探す。
すると少し離れた場所で、
咳き込む声が聞こえた。
「げほっ……」
ミナだった。
埃まみれになりながら、
壁にもたれている。
ユウは駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「……なんとか」
ミナは苦笑する。
その顔を見て、
ユウは初めて少し安心した。
だが。
次の瞬間。
都市中から、
悲鳴が響き始めた。
二人は顔を上げる。
遠くの巨大モニター。
そこに、
異常な表示が流れていた。
《FATE NETWORK ERROR》
《未来観測不能》
《予測崩壊》
街中のスクリーンが、
一斉にノイズを撒き散らす。
人々が混乱していた。
「なんだよこれ!?」
「未来が表示されない!」
「通勤ルートが消えた!」
「危険予測が出ない!!」
誰もが、
恐怖していた。
未来が見えないことに。
ユウは呆然とその光景を見る。
ミナが小さく呟いた。
「みんな……
未来がないだけでこんなに……」
まるで世界の終わりだった。
信号は停止。
交通網は混乱。
自動制御車両が次々停止し、
街は麻痺していく。
未来予測に依存しすぎた社会。
人類は、
“自分で選ぶ”ことを忘れていた。
その時。
ユウのスマホが震える。
《観測不能因子へ通達》
《世界分岐率、臨界点突破》
《最終固定未来まで残り406日》
ミナが画面を覗き込む。
「固定未来……?」
ユウは拳を握った。
未来の自分の言葉を思い出す。
『413日後、
世界は終わる』
なら。
この崩壊は、
もう始まっている。
突然。
周囲の空間が歪んだ。
バチッ――
ノイズ。
空中に、
映像が浮かび上がる。
未来映像。
それも一つじゃない。
何百。
何千。
無数の未来。
泣いているミナ。
笑っているミナ。
死んでいるミナ。
生きているミナ。
未来が、
不安定になっていた。
ミナが震える声で言う。
「……私、
こんなに未来あったんだ」
今まで、
一つしかないと思っていた。
死ぬ未来だけ。
でも違った。
本当は。
人間には、
無数の未来が存在していた。
FATEが、
一つに固定していただけで。
その時。
空に巨大な警告表示が出現した。
都市上空ホログラム。
赤い文字。
《未来汚染警報》
《観測不能因子を確認》
《朝霧ユウを発見次第、
即時通報してください》
ミナの顔が青ざめる。
街中の人々が、
スマホを確認する。
そして。
一斉に、
ユウを見る。
「……あいつ」
「未来圏外」
「ニュースの……」
視線。
恐怖。
敵意。
ユウは奥歯を噛み締めた。
その時。
誰かが叫ぶ。
「捕まえろ!!
あいつのせいで未来が壊れたんだ!!」
群衆が動き出す。
ミナがユウの手を掴んだ。
「走って!!」
二人は街を駆け出した。
背後から怒号が飛ぶ。
未来がない。
それだけで、
人はここまで恐れる。
路地裏へ飛び込む。
息を切らしながら、
二人は壁にもたれた。
しばらくして。
ミナが小さく笑った。
「なんか、
指名手配犯みたいだね」
「笑えねぇよ」
「でも」
ミナは静かに言う。
「初めてかも」
「何が」
彼女は空を見上げる。
そこには、
崩れた未来映像が漂っていた。
無数の可能性。
無数の明日。
「未来が、
一個じゃないって思えたの」
ユウは言葉を失う。
ミナは笑う。
泣きそうな顔で。
「ちょっとだけ……
生きたいって思っちゃった」
その瞬間。
ユウの胸が強く痛んだ。
守りたい。
そう思った。
未来なんかじゃなく。
この笑顔を。
その時。
路地裏の奥から、
足音が響く。
黒いコート。
赤い瞳。
未来のユウだった。
彼は静かに言う。
「時間切れだ」
ミナが息を呑む。
未来のユウは、
崩壊する空を見上げる。
「世界が、
お前を修正し始める」
「……修正?」
「未来圏外は、
存在してはいけない」
赤い瞳が、
真っ直ぐユウを見る。
「だから世界は、
必ずお前かミナを殺す」
空が軋む。
遠くで、
巨大な何かが崩れる音がした。
未来のユウは静かに告げる。
「次の分岐点は、
8月14日」
ミナの死亡予定日。
「そこを越えられなければ、
全部終わる」
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