第6話「未来を観測するもの」


重い駆動音と共に、

施設奥の壁が開いていく。


ゴゴゴ……


赤い警告灯が、

地下通路を不気味に照らしていた。


《未来保安局部隊接近》


警報音が響き続ける。


ミナが不安そうに、

ユウの制服袖を掴んだ。


「……どうするの」


ユウは開いた先を見つめる。


暗い。


だが奥に、

微かな光が見えた。


「行くしかない」


「普通、

逃げる選択肢ない?」


「もう遅い」


二人は通路へ走り出す。


背後では、

施設入口を破る音が響いた。


未来保安局。


国家直属の、

未来維持機関。


未来予測を乱す存在を排除する組織。


つまり今、

追われているのはユウだった。


狭い通路を抜けた先。


そこには、

巨大な球形空間が広がっていた。


ミナが息を呑む。


「……なにこれ」


空間中央。


黒い球体が浮いていた。


直径十メートルほど。


光を吸い込むような、

異様な黒。


まるで、

宇宙そのものみたいだった。


その周囲を、

無数の映像が漂っている。


人々の日常。


事故。


戦争。


恋人。


死。


全部、

未来の映像だった。


ユウは寒気を覚える。


「あれが……

FATE?」


『正確には“核”だ』


突然、

声が響いた。


二人は振り返る。


白衣姿の老人が立っていた。


痩せ細った身体。


疲れ切った目。


だがその瞳だけは、

異様に鋭い。


「誰だ」


『元FATE開発主任。

九条レンだ』


ミナが目を見開く。


「死んだって報道されてた人……」


九条は苦く笑った。


『死んだことにされたんだ』


その言葉だけで、

この施設の異常さが分かる。


九条は黒い球体を見上げた。


『あれが、

未来観測コア』


『FATEの本体だ』


ユウは眉をひそめる。


「未来を観測するって、

どういう意味だ」


九条は少し黙る。


そして静かに言った。


『未来は一本じゃない』


空間に映像が広がる。


無数の世界。


無数の人生。


無数の死。


『人間には、

常に無限の可能性が存在する』


『だがFATEは、

その中から“最も確定した未来”を観測し、

人類へ提示する』


ミナが呟く。


「それが……

未来予測」


九条は頷く。


『問題はここからだ』


老人の声が重くなる。


『人間は、

観測された未来に従う』


『すると未来は固定される』


ユウの背筋が冷える。


「……じゃあ」


『そうだ』


九条は静かに言った。


『FATEは未来を見ているんじゃない』


『未来を決定している』


沈黙。


ミナの顔が青ざめていく。


「そんなの……」


『人類は、

自分で未来を選ぶことをやめた』


九条は苦しそうに笑う。


『安全な未来。

成功する未来。

失敗しない未来』


『誰もが、

AIの示す正解を選び続けた』


漂う未来映像。


そこに映る人々は、

みんな同じ顔をしていた。


安心した顔。


考えることをやめた顔。


ユウは拳を握る。


「……じゃあミナの死も」


九条は目を伏せた。


『観測された未来だ』


ミナが小さく震える。


「変えられないの……?」


老人は答えなかった。


その沈黙が、

答えだった。


その時。


《侵入者確認》


機械音声。


通路奥から、

武装した未来保安局員たちが現れる。


黒い装備。


無機質なヘルメット。


銃口が向けられる。


『朝霧ユウ』


機械越しの声が響く。


『未来観測への重大干渉を確認』


『対象を確保する』


ミナが息を呑む。


ユウは前へ出た。


「俺が何したんだよ」


『未来圏外の存在は、

人類社会に危険を及ぼす』


『排除対象である』


その瞬間。


ユウのスマホが強く発光した。


《観測不能因子、覚醒開始》


黒い球体が脈動する。


ドクン――


空間全体が揺れた。


未来映像が暴走する。


無数の未来が、

同時に映し出される。


生きるミナ。


死ぬミナ。


笑うミナ。


泣くミナ。


世界崩壊。


炎。


宇宙。


終わり。


全部が混ざる。


保安局員たちが混乱する。


『観測不能――!?』


九条が叫ぶ。


『ユウ!

見るな!!』


だが遅かった。


ユウは見てしまった。


無数の未来の中。


たった一つだけ。


ミナが生き残る未来を。


そしてその未来では。


ユウ自身が、

世界中から憎まれていた。


《人類敵対認定》


その赤文字が、

視界いっぱいに広がる。


次の瞬間。


黒い球体が、

ユウに向かって光を放った。

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