第5話「終末まで、残り413日」
夜の街を、
ユウは一人で歩いていた。
頭の中で、
あの通知が何度も再生される。
《終末まで、残り413日》
意味が分からない。
未来が存在しなかった自分に、
初めて表示された未来。
それが、
世界の終わり。
「……なんだよ、それ」
コンビニのガラスに映る自分を見る。
いつもの顔。
普通の高校生。
なのに、
未来映像の中の自分は違った。
冷たかった。
まるで、
全部を諦めた後みたいな目。
スマホが震える。
ミナからのメッセージ。
『生きてる?』
ユウは少し迷ってから返信した。
『死んでたら返せないだろ』
すぐ既読がつく。
『よかった』
その短い文字だけで、
妙に胸が苦しくなる。
帰宅すると、
父親はいなかった。
仕事。
というより、
ほぼ家に帰ってこない。
母親も同じだった。
FATE管理局勤務。
未来社会は便利になった。
その代わり、
人間関係は薄くなった。
家族ですら、
最適距離で生きる時代。
ユウは制服のままベッドへ倒れ込む。
天井を見上げる。
「終末って……」
考えても分からない。
だが。
あの未来映像だけは、
異様に現実感があった。
燃える街。
崩壊。
血まみれのミナ。
ユウは勢いよく起き上がった。
嫌な予感がする。
スマホを掴む。
検索欄を開いた。
《終末予測》
《未来崩壊》
《FATE エラー》
検索結果。
――閲覧制限。
――未来保安局管理対象。
――アクセス権限不足。
「……チッ」
消されてる。
その時。
スマホ画面が突然ノイズ混じりに揺れた。
バチッ。
画面が暗転する。
そこに、
見覚えのないチャット画面が表示された。
送信者不明。
メッセージは一文だけ。
『知りたければ、旧第七観測区へ』
次の瞬間、
画面は元に戻った。
履歴も残っていない。
ユウは数秒固まる。
罠かもしれない。
でも。
行かなきゃいけない気がした。
翌日。
放課後。
「旧第七観測区?」
ミナがジュースを飲みながら首を傾げる。
「そこ、
閉鎖区域じゃない?」
「知ってるのか」
「昔、
FATEの実験施設あった場所」
ミナは少しだけ真顔になる。
「事故があって封鎖されたって聞いた」
事故。
ユウは嫌な引っかかりを覚える。
「何の事故」
「知らない。
情報規制されてるし」
未来社会では、
都合の悪い情報は消える。
それが普通だった。
「……行くの?」
ミナが聞く。
ユウは頷いた。
「なら私も行く」
「危ないかもしれないぞ」
「どうせ来年死ぬし」
その言葉に、
ユウは苛立った。
「簡単に言うなよ」
ミナが少し目を丸くする。
ユウは視線を逸らした。
「……悪い」
でも。
嫌だった。
彼女が、
自分の死を軽く扱うのが。
ミナはしばらく黙っていた。
それから、
少しだけ嬉しそうに笑う。
「そっか」
「何が」
「ユウ、
ちゃんと怒るんだね」
夕暮れ。
二人は旧第七観測区へ向かった。
都市外れ。
高架下のさらに奥。
巨大なフェンスに囲まれた廃施設。
《立入禁止》
《国家管理区域》
警告表示が、
何枚も貼られている。
「完全にアウトな場所じゃん……」
ミナが引き気味に呟く。
ユウはフェンスの隙間を見た。
誰かが侵入した跡がある。
「行けそうだな」
「いや普通に帰ろ?」
「今さら」
二人はフェンスを抜け、
施設内部へ入る。
空気が冷たい。
まるで、
ここだけ時間が止まっているみたいだった。
内部は荒れ果てていた。
割れたモニター。
放置された端末。
床に散乱する書類。
その壁に、
大きなロゴが残っている。
《FATE Prototype》
ミナが小さく呟く。
「……試作型」
ユウは奥へ進む。
すると。
地下へ続くエレベーターを見つけた。
なぜか、
電源が生きている。
「これ、
動くのか……?」
ボタンを押す。
ウィィン……
鈍い音と共に、
扉が開いた。
地下。
暗い通路。
非常灯だけが赤く点滅している。
その最奥。
巨大なスクリーンが、
突然点灯した。
《WELCOME》
機械音声が響く。
《観測不能対象を確認》
ミナが息を呑む。
ユウは前へ出る。
するとスクリーンに、
一人の男が映し出された。
白衣姿。
疲れ切った顔。
録画映像らしい。
男はカメラ越しに言った。
『もし君がこれを見ているなら、
FATEはもう完成してしまったんだな』
ユウの鼓動が速くなる。
男は続ける。
『未来予測AI《FATE》は、
予測システムではない』
ノイズ。
映像が乱れる。
『あれは――』
ブツッ。
一瞬だけ、
画面が真っ黒になる。
次に映ったのは。
無数の“未来映像”。
笑う人間。
死ぬ人間。
崩壊する都市。
そして。
その全部を見下ろす、
巨大な黒い球体。
男の声が震える。
『FATEは、
未来を計算しているんじゃない』
『未来を“観測”している』
ミナが呟く。
「……観測?」
その瞬間。
施設全体が揺れた。
警報が鳴り響く。
《WARNING》
《未来保安局部隊接近》
赤い警告灯が点滅する。
ユウのスマホが震えた。
画面には、
新しい通知。
《観測対象保護プロトコル起動》
その直後。
施設奥の壁が、
ゆっくり開き始めた。
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