ある日、幼馴染が
怪力熊男
愛が重い女
真夜中の2時、私は真っ暗な部屋でスマホを持ったまま、頭から毛布を被っている。
眼の前だけが明るく照らされて、液晶のガラスに移る自分の顔がまるでホラー映画のように反射する。
「ふふ……ふふふへへ……夏樹ったらまたおへそ出して寝てる……うふふふふ」
思わず声が漏れてしまった。
スマホに映し出されているのは、すぐとなりの家の、私の部屋の窓から真正面に見える部屋の中。
私がこっそりと忍ばせたカメラは、まだ部屋の主には見つかっていないらしい。
「夏樹ったら……私がいなきゃダメなんだから……私がいないと大学の履修登録も出来ないし、願書も出せなかったし、サークルだって変なとこに連れてかれそうになってたし……」
今年、晴れて大学生になった私と夏樹はもう長い付き合いだ。
高校、中学、小学校、幼稚園とずっと同じところに通い、同じクラスだった。
何なら誕生日も一緒で、ついでに言えば苗字も一緒。親戚って訳じゃないけれど、たまたま同じ苗字でお隣さんだった。
そのおかげか、私の両親と夏樹の家のおじさんおばさんは仲が良い。
いわゆる家族ぐるみの付き合いというやつで、子供の頃には夏場に2家族一緒にキャンプに行ったこともある。
夏樹のお姉さんの春美ちゃんは、今や私にとって貴重な情報源だ。
あとは私のお姉ちゃんが、春美ちゃんや夏樹に変なことを伝えてなければ良いんだけれど。
私と夏樹は、子供の頃から一緒に遊び、一緒に風呂に入ったことも数え切れないくらいだ。
一緒のベッドで昼寝をしたこともあるし、学校の行きも帰りも毎日一緒。常に一緒だ。
「ダメじゃないの夏樹……夏樹はすぐ変な女に騙されるから、私が護ってあげないと」
当然のように私と夏樹は付き合っている。
告白はされてない。私からも告白はしていないけど、私達には言葉なんて不要だ。言葉がなくったって、心で通じ合っている。
少なくとも春美ちゃんは私の味方だ。
春美ちゃんだけは、私の気持ちを知っている。応援すると言ってくれた。
食べ物の好み、クセ、好きな漫画や女優さん、おまけに、好きなエッチな動画の種類にお気に入りの女優さんまで教えてくれている。
「はぁ……捗るぅ……やだ、スマホのストレージ、もう一杯になってる?」
夏樹の写真と動画のデータは、スマホのストレージに数え切れないくらい溜まっている。
もちろん、バックアップは3重にとっているし、クラウドにもバックアップしてどの端末から、どこからでもアクセスできる。
「また最新版だけ残してバックアップしたの消さなきゃ……あぁ、ごめんなさい夏樹、でも大丈夫だから、パソコンでまた見返してあげるから」
ああ、断腸の思いってこういうのをいうんだろう。
スマホに残った古いデータで、バックアップが保存できているものを消していく。
許して夏樹、出来ることならあなたの写真も動画も、全部いつでも見られるようにしておきたいの。
スマホのストレージが256GBしかないのが悪いの。
明日も朝からちゃんと身支度をして、夏樹が好きなポニーテールにして、夏樹が好きなロングスカートと、夏樹のローテーションからして明日着るはずのパーカーとお揃いになるように、こっちも服を用意しないと。
ナチュラルに見えるように、薄くメイクをして、必要ないけど度が入ってないメガネもかけて、全部夏樹が好きになるように仕向けてきた。
夏樹が中学生の頃、男子と『なんかさぁ、ポニテールの下のうなじって良いよなぁ』と話していた次の日から髪を伸ばして、無理やりポニテールにした。
高校生になって『やっぱ胸はデカくないと』とこそこそ話していたのを知ってからは、必死で育乳だの大豆イソフラボンだの、とれる手段は片っ端から試した。そのお陰かお母さんの遺伝か、私の胸は今やGカップだ。
夏樹がハイヒールじゃなくてスニーカー女子が好きと分かって以降、私は高校へも『脚が痛いから』と理由をつけてスニーカーを履いて投稿するようにした。
スマホの画面の中の夏樹は、相変わらずシャツをめくりあげて、お腹を豪快に出して寝てる。
「あぁん夏樹……エロいよ、その腹筋……脇腹とかタマんないよ……短パン脱がないかな……」
ダメだよ夏樹、そんなえっちな格好で寝たら、私に襲われるよ?
そんなヤらしい格好で無防備に寝て、これはどう考えたって私を誘惑してるとしか思えない。
2階の窓から直接出入り出来たら、今からだって部屋に行って美味しく食べてるのに。
「もうちょい……もうちょいシャツ捲っ――見えた? 見えたかな? アレそうだよね?」
そんなことを考えていると、不意に夏樹の部屋のドアが開く。
入ってきたのは、いつも身綺麗にしていて、私も憧れている理想の姉こと春美ちゃん。
まっすぐ夏樹のベッドに歩み寄って、膝をマットレスに乗せる。
「え、うそ、まさか」
まさかそんな、実の姉弟の禁断の愛?
嘘だ、だって春美ちゃんは私と夏樹のこと応援してくれるって――
『瑞希ちゃんでしょ?』
唐突に、スマホのスピーカーから春美ちゃんの囁き声。
カメラに向かって一切の迷いも見せずに手が伸びると、スマホのモニターに何も映らなくなった。
『カメラ側のスピーカー、オンになってるよ』
「え」
すぐにモニターの表示が復活する。
夏樹を上から見下ろすアングルになったかと思ったら、ぱっと向きが変わって春美ちゃんのいたずらっぽい笑顔。
あぁ、相変わらずキレイだなぁ春美ちゃん。私みたいな陰キャと違って、スクールカースト上位の存在に違いない。
『スマホのマイク、オフにしとかないと。夏樹が起きるよ』
「え、あ、ご、ごめんなさい」
『まぁコイツ、一旦寝たら全然起きないけどね。で? どう? どっかリクエストある? 捲るよ?』
何というボーナスタイム。
きっと私は、前世で魔王を倒して世界を救うとかそのレベルの功徳を積んだに違いない。でなきゃ春美ちゃんみたいな賢者な味方は出来なかったはずだ。
「え、えっと、そしたらその、短パン脱がせて……」
『オッケー、ちょっと待っ――』
突然、夏樹が『うぅん』とか言いながら寝返り。
危ない、起きたかと思った。
『どれどれ』
春美ちゃんは何のためらいもなく、豪快にずるっと夏樹の短パンをずらす。
思わずスクショを保存してしまった。赤外線での暗所映像だから色はわからないけど、多分ボクサーパンツとかいうやつだ。
『瑞希ちゃん、どうする? お宝映像、行っちゃう?』
「え? あ、ちょ、それは――」
『あはは、流石にそれは明るいところで直に見たいか。じゃ、カメラもとに戻しとくね』
「う、うん……あの、春美ちゃん、そのカメラ……」
『あぁ、夏樹もパパもママも気付いてないよ。それじゃ、あんまり夜ふかしすると肌荒れしちゃうよ。おやすみ』
ごそごそ、という音の直後、カメラのアングルがもとに戻る。
短パンがズレてパンツがはみ出たままの夏樹のお腹が見える。
私はスマホのマイクをオフにして、目を画面に近づける。
「あぁ……こんなの捗る……捗るよぉ、夏樹ぃ……」
あぁどうしよう、今日も夜ふかししちゃいそうだ。
ある日、幼馴染が 怪力熊男 @Kairiki_Kumaotoko
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます