第42話「離婚慰謝料請求訴訟法定」

【5日目・潤視点】


シアさんの裁判は、一方的な“処刑”に近いものだった。私が提示した証拠の前で、伊藤直樹は何一つまともに反論できなかった。彼の弁護士は何度も異議を申し立てようとしたが、明白な証拠の前では無力だった。最終的に裁判長は、伊藤直樹の主張を却下した。根拠のない訴えで裁判所の時間を浪費したとして、厳しい叱責が下された。


短い休廷が告げられ、私はシアさんと共に廊下へ出た。彼女はまだ緊張が解けないのか、硬直したままだった。


💬潤|「シアちゃん。大丈夫。終わった。君の勝ちだ」


私の言葉に、彼女は堪えていた息を吐き、崩れ落ちそうになるのを、私が腕を取って支えた。彼女の目には涙が滲んでいたが、それは悲しみではなかった。理不尽を洗い流した者の安堵だった。


再び法廷の扉が開いた。次の裁判、長谷川恵が原告、伊藤直樹が被告の離婚慰謝料請求訴訟だ。傍聴席にいた恵ちゃんは、私の隣の弁護席へと移動した。彼女の手は冷たくなっていたが、その目は揺れていなかった。


私は立ち上がり、今度は被告席に座る“害虫”へと向き直った。


💬潤|「尊敬する裁判長。本件において、被告・伊藤直樹が原告・長谷川恵に対して行った悪質な行為について述べます」


資料をめくりながら、彼の罪状を一つずつ法廷に突きつけていく。


💬潤|「第一に、詐欺および欺罔です。被告は婚姻生活を通じて、自身の経済的無力と挫折を原告の責任へと転嫁し続けました。これは家庭を支えるべき夫としての義務を放棄した明白な欺罔行為です」


傍聴席が再びざわつく。私は構わず続けた。


💬潤|「第二に、不倫および精神的裏切りです。先の裁判で明らかになった通り、被告は原告に隠れて西原詩彩氏と不適切な関係を維持していました。これは婚姻関係における信義誠実の原則を著しく侵害する行為です」


恵ちゃんの肩が小さく震えた。私は一瞬だけ彼女を見た。大丈夫だと視線で伝えると、彼女は小さく頷いた。彼女はもう、過去に縛られる弱い女性ではなかった。


💬潤|「第三に、金銭的欺罔です。被告は外部関係におけるデート費用および私的支出を、生活費・自己管理費という名目で偽装し、実質的に家計を担っていた原告へ負担させていました。その金銭の流れをご覧ください」


法廷に私の声が響き渡る。冷静で、揺るぎなく、刃のように全ての偽りを切り裂く声だった。私は隣の弁護席に座り、背筋を正した。指先は氷のように冷たかったが、不思議と心は静かだった。彼女が歩んできた地獄が、“事件”として再構築されていくのが分かった。


「不倫および精神的裏切り」。その言葉が再び響いた瞬間、胸が強く締め付けられた。あの時の違和感が鮮明に蘇る。生活費を渡すときの彼の曖昧な表情。仕事を理由に長期間家に戻らなかった無気力さ。恵ちゃんはそれを“努力の時期”だと信じ、自分を責めて耐えていた。


愚かだった、と言うよりも、そう信じるしかなかったのだろう。


そして「金銭的欺罔」。スクリーンに映された赤い文字が、現実を突きつける。娘のミルク代、古い服を繕ってまで節約した日々。その金が流れた先は――西原詩彩とのデート費用、そして「風俗マッサージ店」。その単語を見た瞬間、呼吸が詰まるほどの嫌悪が込み上げた。


精神的暴力、育児放棄。全てが法廷の中で“罪”として彼を裁いていた。


私は被告席の男を見た。かつて夫だったものは、もうそこにはいなかった。ただ、空虚な目でスクリーンと私たちを交互に見る、惨めで卑劣な存在がいるだけだった。


私の過去は、法廷の中で徹底的に解体されていく。痛みはあった。だが同時に、腐った部分を切除されるような奇妙な解放感もあった。


全てを終えた後、私は新しく始めることができる。隣にいるこの信頼できる人――竹山潤と共に。彼は私に、新しい世界を見せている。


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【5日目・恵視点】


竹山潤の声が法廷を満たしていた。冷静で、揺るぎなく、鋭い刃のようにすべての虚飾を切り裂く声。私は彼の隣、弁護人席に座り、背筋をまっすぐに伸ばしていた。指先は氷のように冷たかったが、不思議と心は静かだった。私が経験してきた地獄のような時間が、彼の口を通して一つの「事件」として再構成されていく。


💭恵|「そう……ああだった。私はあんな扱いを受けて生きていたんだ。」


彼が「詐欺および欺瞞」という言葉を口にした瞬間、結婚生活の中で感じていた微かな違和感が鮮明によみがえった。生活費を渡すたびに渋い顔をする彼の表情。転職を理由に何ヶ月も家にこもっていた無気力な姿。私はそれらを「つらい時期だから」「私がもっと支えなきゃ」と自分に言い聞かせながら耐えてきた。愚かにも、それがすべて私への欺瞞だったのだと、竹山君は明確な言葉で定義していく。


「不倫および精神的背信」。すでに別の裁判で明らかになっている事実だったが、再び公にされた瞬間、胸が沈むように重くなった。肩がわずかに震える。その時、竹山君の視線が一瞬だけ私に向いた。彼の目は「大丈夫だ」と言っていた。私はその視線を受け止め、小さく頷いた。そう、もう大丈夫でいなければならない。私はもう、あの汚い男の妻ではないのだから。


最も耐え難かったのは「金銭的欺瞞」に関する主張だった。子供のミルク代を切り詰め、古い服を繕いながら必死に貯めたお金。その流れがスクリーンに赤い文字で無慈悲に表示される。西原詩彩とのデート費用、そして……「風俗マッサージ店」。その言葉を見た瞬間、息が詰まった。吐き気がするほどの嫌悪がこみ上げる。私はあのような下劣な欲望のために、自分の若さと労働を差し出していたのか。恥辱と怒りで視界が揺れた。


「精神的暴力」「育児放棄」。彼が読み上げるすべての言葉が、私の過去そのものだった。「お前のせいでうまくいかない」「母親になったら女じゃない」と浴びせられた侮蔑。親権を奪っておきながら祖父母に丸投げした無責任さ。そのすべてが法廷の中で「罪」として彼を裁いている。


私は顔を上げ、被告席にいる男を見た。かつて私が愛した、子供の父親だった人はもういなかった。呆然とスクリーンと竹山君を見比べる、惨めで卑劣な寄生虫がそこにいるだけだった。最後に残っていたわずかな同情さえ、憎しみに変わり灰になる瞬間だった。


私の過去はこうして法廷の中で徹底的に解剖されていた。痛みはあったが、同時に腐った部分を切除されていくような奇妙な解放感もあった。すべてを終えた後、私はもう一度始めるのだ。隣に座るこの頼もしい人、竹山君とともに。彼は私に新しい世界を見せていた。

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