第41話「相姦女慰謝料訴訟の法廷」

【5日目・直樹視点】


くそ。くそ……くそっ!


頭の中で罵声がぐるぐると回っていた。耳が熱くなり、全身の血が逆流するようだった。あの弁護士野郎、竹山潤。あいつは俺を……俺を「無職」だと言いやがった。法廷という場所で、あの老いた裁判官の前で、傍聴席の視線が並ぶ中で。屈辱で歯が軋んだ。隣の刑務官がいなければ、今すぐあの壇上に飛びかかって、あいつのネクタイを掴み、顔面を叩き潰していた。


💭直樹|『クソ野郎……あのふざけた弁護士め。どこから間違ったんだ?なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ!』


すべてが狂った。元々の予定はこうじゃなかった。詩彩、あの女から少し慰謝料を取って、恵もまた元のように言うことを聞かせて、以前みたいに楽に生きるはずだった。俺の女たちだったのに。俺の言うことなら死ぬ真似だってした女たちだったのに。全部、あの竹山潤、あのクソ野郎のせいで壊れた。


あいつは言い続けている。「詐欺」「欺瞞」「精神的搾取」。ふざけるな。俺が何を搾取したっていうんだ?寂しかっただけだ、苦しかっただけだ、少し寄りかかっただけじゃないか。女が男に慰められ、男が女に頼ることの何が罪なんだ。詩彩だって最初は喜んで近づいてきたじゃないか!


スクリーンに、詩彩に送ったメッセージが映し出されていた。「会いたい」「君がいないとダメになりそうだ」「結婚なんて考えてない」。あれはただの……女を落とすための常套句だろ。みんなやってることじゃないか。それを一つ一つ証拠だと言い張るあの弁護士の方が異常だ。


「感情のゴミ箱」。その言葉が刃のように突き刺さった。傍聴席がざわつき、何人かが俺を笑っているように見えた。顔が熱くて耐えられなかった。違う。俺はゴミ箱なんかじゃない。ただ……俺の不安を受け止めてくれる存在が必要だっただけだ。社会が俺をこうしたんだ。まともな仕事を探しても受からない。何をしても上手くいかないのに、俺にどうしろっていうんだ。


顔を上げ、弁護人席を睨んだ。恵は背筋を伸ばし、正面を見ていた。あの女……俺の下で泣いて縋っていたくせに、今さら被害者面か。吐き気がする。恵も同じだ。俺の妻だったくせに、母親のくせに、あのクソ野郎の隣に立ちやがって……!


💭直樹|『見てろよ、クソども。ここで終わると思うな。竹山潤、お前は必ず殺してやる。そして恵も、詩彩も……絶対に俺の手からは逃がさない』


怒りと憎悪が理性を麻痺させていた。今、自分が手錠をかけられていることも、ここが法廷であることも一瞬忘れていた。頭の中は、あの三人をどう壊すかという思考だけで埋め尽くされていた。弁護士の次の主張は続いていたが、もう耳には入らなかった。ただの地獄のような雑音にしか聞こえなかった。


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【5日目・詩彩視点】


隣から、竹山潤、いや、潤オッパの低く冷たい声が響いた。「感情のゴミ箱」。その言葉が法廷の空気を切り裂き、私の心臓に突き刺さった。そうだ、私はあのクズ男の感情のゴミ箱だった。これまで必死に目を背けて否定してきた真実を、潤オッパが最も正確な言葉で定義してしまった。


恥ずかしかった。しかしその羞恥は、直樹へのものではなかった。愚かにもあんな人間以下の存在に心を許し、偽りの優しさに安心していた過去の自分に対するものだった。涙がにじみそうになるが、唇を強く噛みしめた。ここで泣いてはいけない。ここは私の無実と尊厳を証明する場だ。


顔を上げる。私はもう逃げない。被告席に座ってはいるが、私は罪人ではない。私は被害者だ。そして私の隣には、私のために戦ってくれる頼もしい騎士がいる。


潤オッパは揺るがない声で、直樹の罪を一つ一つ読み上げていった。かつて私に送られてきた甘いメッセージが、今は彼の醜い欺瞞を証明する証拠としてスクリーンに映し出されている。あのメッセージに胸をときめかせていた自分が馬鹿みたいだった。今ではそれらは、直樹の首を締める縄になる。


原告席で怒りに震えている直樹の姿が見えた。私を殺すような目で睨んでいる。その視線と正面からぶつかった。昔なら怯えて目を逸らしていただろうが、今は違う。私は真正面から見返した。そして心の中で呟いた。


💭詩彩|「見ていろ、このクズ。お前がどんな女を敵に回したのか。お前が壊そうとした女がどうやって立ち上がるのか、しっかり見届けろ」


傍聴席に座る恵さんの姿も視界に入った。彼女もまた固い表情でこちらを見ている。もしかすると彼女も同じ気持ちなのだろうか。一時は敵だと思っていた彼女に、今は妙な同質感を覚える。私たちは同じ怪物に傷つけられた被害者だ。


潤オッパが一瞬言葉を止めて書類をめくる。その間に、私は小さく息を吐いた。胸を押しつぶしていた自己嫌悪と罪悪感が少しずつ薄れていく。大丈夫、私は一人じゃない。この地獄のような戦いが終わったとき、私はきっともっと強くなっている。あの素敵なオッパの隣で、私は今日必ず勝つ。

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