第4話 全裸のピエロ、アンインストール

 カズから、唐突にLINEが届いた。


『俺たち、もう別れてるからさ。……これ以上連絡とか、できないよね?』


 思わず声を出して笑った。


 彼の中では自分が私を捨て、そして今、潔い男として幕を引こうとしている――そんなドラマチックな脚本が完成しているのだろう。

 震える指先で打ったのであろうその文章は、まるで怯えた子鹿のように滑稽だ。


 私が彼を捨てたのではない。


 彼が自分で、自分の人生の価値をゼロ以下に下げゴミ箱へダイブしたのだ。


 私は返信を打つ指を止め、スマホを放り出した。既読をつける価値すらない。彼という「バグ」は、私の人生から削除(アンインストール)するだけで十分だ。


 私は立ち上がり、愛車のキーを手に取る。


 窓の外にはかつて彼が飲酒運転で乗り回していた安っぽい車とは比較にならない、最新の高級車が私を待っている。

 窓を全開にしてアクセルを踏み込むと、加速に合わせて風が冷たく吹き抜けた。


 彼を失ったのではない。


 ブレーキの壊れた荷物を、ようやく高速道路で切り離せただけだ。


 サイドミラーに映る自分の顔には、かつて彼に騙されていた頃の弱々しい面影はない。

 今の私は、稼ぐ術を知り、自分の人生という車を自分で操縦している。

 誰かの承認欲求を満たすための舞台装置になど、二度と成り下がらない。


 信号待ちでふとスマホを確認すると、SNSの通知が光っていた。

 そこには相変わらず「慰謝料が…」「誰か癒やして…」とリプライを投げ続ける、彼の無様な足跡が残っている。


 私は満足げに微笑んだ。


 どうぞ、そのまま踊り続けていて。


 その全裸の姿を世界中に晒して、一生かけてその安いプライドとテンプレをすり減らしていけばいい。


 私はもう、その舞台の観客席にはいない。


 心地よいエンジンの鼓動を背中に感じながら、私は彼が一生辿り着けない場所へとアクセルを深く踏み込んだ。


 さようなら、カズ。


 あなたの人生という物語は、私なしでせいぜい惨めに幕を下ろすといいわ。


完結

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全裸のピエロをアンインストールする方法 三角 @sankakumarusikaku

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