第2話 黒い召喚書

現れたゴブリンは、レンの知っている魔物と少し違っていた。


瞳が赤い。

身体の輪郭が黒い靄に包まれている。


そして何より――

レンに対して敵意を向けていない。


「……本当に、召喚できたのか」


黒い魔法陣の上で、ゴブリンは短剣を握ったまま待機していた。

まるで命令を待っているように。


その間にも、通路の奥から三体のゴブリンが近づいてくる。


「ギィィ!」


先頭の一体が飛びかかってきた。


反射的にレンは叫ぶ。


「止めろ!」


瞬間、召喚ゴブリンが地面を蹴った。


「っ!?」


速い。

先ほど自分が戦った時より、明らかに動きが鋭い。


召喚ゴブリンは突進してきた敵へ短剣を突き立て、そのまま喉元を切り裂いた。


血が飛び散る。

一体撃破。


だが、残り二体は止まらない。

左右から同時に迫る。


レンは咄嗟に短剣を構えた。


――その瞬間。


身体が軽い。

昨日までとは違う。


視界が鮮明で、相手の動きが見える。


「これなら……!」


レンは横から来たゴブリンの攻撃を避け、そのまま短剣を突き刺した。

ゴブリンが絶叫する。


もう一体が棍棒を振り下ろす。

だが今のレンは対応できた。


半歩下がり、避ける。

その隙に召喚ゴブリンが背後から飛びついた。


「ギャアアッ!」


数秒後。

三体のゴブリンは動かなくなった。


「はぁ……はぁ……」


レンは息を整えながら、自分の手を見つめた。


勝てた。

さっきまで一体相手にも苦戦していた自分が。


その理由は分かっている。


腰に浮かぶ黒い召喚書。

そしてページに刻まれたカード。


《ゴブリン 1/3》


表示が変化していた。


「1……3?」


直後、倒したゴブリンの死体が淡い黒光に包まれる。


そして――

一体だけがカードへ変化した。


《異界カード【ゴブリン】を取得しました》


頭の中へ声が響く。

だが、残り二体は光にならず消滅した。


「全部じゃないのか……」


レンは新たなカードを手に取った。

同じゴブリン。だが微妙に絵柄が違う。


《短剣ゴブリン》

《敏捷微上昇》


さらに召喚書が開く。


《カード保有数増加》

《現在容量:2/3》


「容量……」


つまり無限には持てない。


その時、新たな表示が浮かび上がった。


《同系統カードを一定数収集すると効果上昇》

《ゴブリン系統:2枚》


レンの鼓動が速くなる。


「セット効果みたいなものか……?」


ゲームでしか見たことのないシステム。

だが理解はできる。


カードを集めるほど強くなる。

しかも――


「召喚もできる」


レンは試しに二枚目のカードへ触れた。


すると先ほどとは別のゴブリンが現れる。

短剣を持った個体。


最初の個体と並んで待機する。


「二体……」


その瞬間、頭へ痛みが走った。


「っ……!」


視界が揺れる。


《現在魔力不足》

《同時召喚数:2/1》


「制限、あるのか……」


レンはすぐに一体を解除した。

黒い粒子になって消えていく。


すると頭痛も消えた。


レンは理解する。


今の自分では、一体召喚が限界。

だが――召喚士レベルが上がれば変わる。


そんな確信があった。


そして何より。


「この能力……絶対に知られない方がいい」


普通の召喚士とは違う。

討伐した魔物を奪い、使役し、自身まで強化する。


危険視されてもおかしくない能力だった。


レンは黒い召喚書を閉じようとする。


だが、その時。

ページの最後に、見覚えのない項目があることに気づいた。


《未解放ページ》


黒く塗り潰されたページ。

そこには、うっすらと巨大な影のような紋章が浮かんでいた。


ゴブリンとは比較にならない威圧感。


「……何だ、これ」


ゾクリ、と背筋が震える。


その瞬間だった。


ダンジョン全体が揺れた。


ゴゴゴゴ――ッ!!


「!?」


天井から砂が落ちる。

警報音が鳴り響いた。


『訓練生は直ちに退出しろ! 繰り返す、想定外のゲート反応を確認!』


教師の切羽詰まった声。


同時に――

通路奥の闇から、“それ”は現れた。


赤黒い巨体。

二メートルを超える身体。

歪な角。

燃えるような瞳。


《D級魔物 レッドオーガ》


本来、この訓練区域に出るはずのない存在。


そして――

その怪物は真っ直ぐレンを見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る