黒の召喚書を持つ俺だけが、魔物をカード化できる
@crossnego
第1話 外れ召喚士と黒の召喚書
世界に“ゲート”が現れてから二十年。
突如として出現した異界への裂け目は、人類の常識を塗り替えた。
ゲートの内部には魔物が存在し、通常兵器はほとんど通用しない。
その代わり、一部の人間は“覚醒”した。
炎を操る者。
剣技を極める者。
肉体を超強化する者。
そして――召喚士。
異界の存在を従え戦う、希少職。
その中でも強力な召喚士は国家戦力と呼ばれ、多くの人々の憧れだった。
だからこそ――。
「……適性ランク、E」
その瞬間、教室の空気が変わった。
「うわ、マジか」
「最低ランクじゃん」
「召喚士でEって終わってるだろ」
笑い声が広がる。
藤堂レンは静かに視線を落とした。
都立覚醒者育成学院。
覚醒した高校生を集め、探索者として育成する国内有数の教育機関。
その実技試験の日だった。
「藤堂、お前のスキル名は?」
試験官が事務的に尋ねる。
「……《異界召喚》です」
ざわり、と空気が揺れた。
召喚系。
それだけで注目を集める。
召喚士は希少だ。
だが、希少だから強いわけではない。
試験官は端末を見ながら眉をひそめた。
「召喚系……だが契約済み召喚獣なし。魔力量低。維持能力極小」
そして淡々と告げる。
「総合評価E。外れだな」
教室に笑いが起きた。
「召喚獣なしの召喚士って何だよ」
「空っぽじゃん」
「ハズレスキル確定」
レンは何も言い返さなかった。
言い返せない。実際、その通りだからだ。
覚醒した日から三か月。
レンは一度も召喚に成功していない。
いや、正確には“定着しない”。
一瞬だけ異界の何かが現れては消える。
維持時間は最長でも二秒。
戦力として成立していなかった。
「次、実戦訓練に移る」
試験官の声で生徒たちが移動を始める。
レンは小さく息を吐きながら立ち上がった。
周囲から向けられる視線は冷たい。
だが慣れていた。
覚醒した直後、家族は期待した。
召喚士。花形職。将来は安泰だと。
だが現実は違った。
契約召喚獣なし。
低魔力。
最低ランク。
今では妹にすら気を遣われている。
『兄さん、焦らなくても大丈夫だから』
昨日の言葉を思い出し、レンは苦笑した。
慰められている時点で終わっている。
◇
実戦訓練場は、学院地下に作られた模擬ダンジョンだった。
安全性を確保した低級ゲート。
出現するのはF級魔物のみ。
新人訓練用の設備だ。
「二人一組で進め。危険を感じたらすぐ離脱しろ」
教師の指示が飛ぶ。
だが、レンのペアになろうとする者はいなかった。
「悪い、俺前衛と組むから」
「俺も」
「足引っ張られるのはちょっとなぁ」
露骨だった。
教師も困ったような顔をする。
「……藤堂、お前は単独で後方区域を回れ。戦闘は避けろ」
「はい」
レンは短く返事をした。
期待されていない。
それが痛いほど分かる。
薄暗い通路を一人で進む。
湿った空気。
石壁。
遠くから聞こえる魔物の唸り声。
これが現代の日常だった。
レンは腰の短剣に触れる。
支給品の安物。
召喚士なのに、結局自分で戦うしかない。
「……情けないな」
自嘲した、その時だった。
ガサリ。
物陰から小柄な影が飛び出す。
「ギィッ!」
ゴブリン。F級。
新人でも対処可能な低級魔物。
だがレンは反応が遅れた。
咄嗟に短剣を抜く。
振り下ろされる棍棒。
「っ!」
衝撃。腕が痺れる。
弱い。
それでも必死に食らいついた。
避けて、刺す。
避けて、斬る。
泥臭い戦い。
数分後。
ゴブリンが断末魔を上げ、崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。
新人用の魔物一匹でこれだ。
本当に、自分は探索者に向いていないのかもしれない。
そう思った瞬間――。
黒い光が、魔物の死体を包んだ。
「……え?」
レンの目の前で、ゴブリンの身体が粒子となって崩れていく。
そして。
そこに残ったのは、一枚の黒いカードだった。
「何だ、これ……」
拾い上げた瞬間、頭の中へ大量の情報が流れ込む。
《異界カード【ゴブリン】を取得しました》
《召喚書を解放します》
《初期容量:3》
《セット可能枚数:1》
《現在容量:1/3》
レンの視界に、半透明の文字が浮かぶ。
次の瞬間、空間が歪んだ。
レンの目の前に、一冊の黒い本が現れる。
「……召喚書?」
古びた本だった。
表紙には見たことのない文字が刻まれている。
触れた瞬間、本がひとりでに開いた。
白紙だったページに、先ほどのゴブリンの絵が浮かび上がる。
まるで図鑑のように。
その下には文字。
《F級》
《ゴブリン》
《保有効果:敏捷微上昇》
《召喚可能》
「保有、効果……?」
その瞬間、レンの身体が軽くなる。
「っ!?」
跳ねるように後退したレンは、自分でも驚いた。
明らかに身体能力が上がっている。
視界が鮮明だ。
身体が軽い。
さっきまで苦戦していたゴブリン程度なら、今なら簡単に倒せる気がした。
「これ……カードを持ってるだけで強化されるのか?」
鼓動が速くなる。
そんな能力、聞いたことがない。
召喚士は召喚獣を使役する職業だ。
だがこれは違う。
倒した魔物をカード化し、収集し、そして自分自身が強くなる。
未知の能力だった。
その時。
通路の奥から、新たな足音が響いた。
ギィ、ギィィ――。
現れたのは三体のゴブリン。
さっきより多い。
普通なら逃げる場面。
だが。
レンは黒い召喚書を見つめ、小さく息を吐いた。
「……試してみるか」
ページに手を触れる。
黒い魔法陣が展開される。
カードが淡く輝いた。
そして――。
目の前の空間から、一体のゴブリンが現れた。
自分が倒した魔物。
黒いカードから召喚された存在。
その瞬間、レンの口元に、初めて笑みが浮かぶ。
「――ここからだ」
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