レイの秘策
次の日、またフェーン先生がミアの言動や態度を注意していた。しかもこれまでずっと効果がなかったことに痺れを切らしたのか、別教室に移動して一対一で。
「なんでこうして二人で話してるかわかる?ホープ先生も他の先生たちも、何度あなたに注意してもあなたが態度を改めないからよ。魔法ができるのはいいことよ。でもそれだけじゃだめ。お友達と協力したり、誰かを思いやれたり.....」
ミアは相変わらずむすっとしていたが、ふと教室の窓の外を見ると、「だまってうなずく」と書かれたスケッチブックが見えた。
気のせいか。そう思って、早く終わらないかなぁと聞いたふりをしていると、スケッチブックのページがめくれた。「わかったふり」。まためくれた。「そんたく」。
「そん、たく...?」
なんのことかさっぱりわからなかったが、目の前のフェーン先生は何か答えてほしいみたいだった。
「○✕※△□、わかった?」
「わかった」
ミアはとりあえず言った。
「もう言っていいわよ」
フェーン先生はミアを解放した。今までで一番早く終わった。拍子抜けしながらもミアはトイレに行き、教室に戻るまでの時間稼ぎを始めた。
やれやれ。魔法で透明になって天井に浮かんでいたレイは、慌ててカンペも見えないようにした。フェーンが教室を出て行った瞬間、ほっと一息つく。
「八歳の子には『忖度』って難しかったかな」
その瞬間、魔法を維持する体力が尽きた。レイは廊下に落ち、全身を強かに打った。一人静かに痛みにうめいていると、今度は別の先生にふまれそうになり、あわてて転がってよける。
あー痛ってぇ。生きてる存在にかける魔法って、すぐ効果が切れるんだよなぁ。ま、とりあえずは、うまくいった。密かにガッツポーズをしながら、レイは別のトイレの個室にさっと隠れて魔法を解除した。
やがてミアは徐々に叱られなくなり、レイをのぞく大勢の先生たちは「ミアは最近いい子になった」と喜んでいた。そしてついに上級コースに上がれることになったのだが、なぜかミアは浮かない顔をしていた。
帰りのバスでミアと二人きりになった時、レイはミアに聞いてみた。
「ミア、うれしくないの?」
「うれしくない」
ミアは不機嫌そうに答えた。
「なんで?」
「だって、悪い子でいたらまた中級コースだもん」
「そんなこと、誰が?」
「ホープ先生とフェーン先生が言ってた」
しばらく車内に沈黙が流れた。
「ぼく、いつまでいい子でいたらいいの?」
レイは何も言えなかった。進級できたと思っても、またそんなことで落とされる縛りをかけられるなんて。結局
校舎に戻ると、ホープ先生がフェーン先生に来週の予定を話していた。
「来週木曜は忙しくなるよ。シフトに入れる人は少ないのにくる子の人数は多いし、マイロの最終日とミアの保護者面談が同じ日にある」
レイは何かひらめいた。
「ナット、その日入ろうか?」
「ありがとう!本当に助かるよ。あとでシフト表に追加しておく」
こちらこそ。心の中でレイは返した。一週間もあれば、なんとか準備できるだろう。
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