ダブル
小川 粼
ダブル
眼前では夕立がフロントガラスを叩いている。
嫌いじゃない。
シフトをパーキングに入れ、サイドブレーキを上げて、エンジンを切る。
軽薄なトーンで語るFMラジオが寸断され、エンジン停止の電子音が鳴る。
俺は一つ、ため息を吐いてからシードベルトを外した。
夕立は少し小雨になったようで、コンビニの駐車場から入り口までは傘は必要なさそうだ。
今日の現場で汚れた作業着の上着を脱ぎ、傘のようにしてコンビニへ走って行く。
水溜りに踏み込んだ足が、跳ねた雨水に濡れる。防水の安全靴でも、靴下の高さまで水が跳ねては仕方ない。
ようやくコンビニの軒下に入る。思ったより濡れてしまった上着を、パンパンと払い、着るか迷ってから小脇に抱えた。
自動ドアが開く。
「いらっしゃいませ」
くぐもった、嫌な声。通りの悪い接客に不向きな声だった。気の毒だが。
まずは栄養ドリンクのコーナーを通り過ぎ、雑誌コーナーもスルー。奥のオープンケースから、悩んだ末に500mlの三ツ矢サイダーの期間限定フレーバーを選んだ。家まで大して距離もないが、飲みたいのだから仕方ない。
夕飯前に菓子を買うのも躊躇われるので、1本満足バーを手に取る。
レジに向かうと、目の前はセルフレジ。まぁ、どちらでもいいが店員がレジに待機している為、そちらに並ぶか。
「いらっしゃいませ、袋はご利用ですか?」
「ああ、不要です。」
そう言った瞬間、店員と目がバチっと合った。
相手はどこかむすっとしている。
小太りで、汚らしい天然パーマ。何年も変えていない黒縁メガネ。奥にある無駄な平行二重の眼差し。
シゲシゲと眺めてしまった。
信じられない。目の前に立っている男は、まさしく俺そのものだった。
店員も無言で俺を見詰め返している。おそらく向こうも勘づいたようだ。
「……」
「……」
お互い、何も言い出すことは無い。
これが少年か少女同士の邂逅であれば何か物語が進展しようものだが、オッサンが自分と似たオッサンを見つけたところで、特にどうと言うこともない。
いや、しかし似ている。
どうにも、自分から「俺たち似てますね」なんて言い出す空気でも無い。第三者が居れば話しやすいのだろうが、どうも馬鹿らしくて言い出せない。
まぁ、いいか。目線を切ると、支払い方法を選択し、タッチ決済を済ませる。
「..ありがとうございました」
「ありがとね」
普段ならここは無言だが、何故か一言付け足してしまった。そんな気分だった。
そして、それが精一杯だった。
退店間際、チラリと店員を盗み見る。彼は積まれた食品を整理と言うか、サラダの品出しなんかをしている。
俺はまた上着を頭に被せて、車へ走っていった。
ダブル 小川 粼 @rin_ogawa
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