そのコンビニでしか取り扱っていない雑誌
春海水亭
▓▓先生の作品が読めるのは▓▓ ▓▓店だけ!
◆
今は各コンビニで付録の種類が違う、ぐらいですけど、昔は特定のコンビニでしか取り扱っていない雑誌ってありましたよね。
結構有名な奴だと、今はもう廃刊しちゃったんですけど、セブンイレブンでしか売ってない月刊漫画雑誌とか、そういうの。
えーっと、十年ぐらい前ですかね。自分、大学の関係で実家を離れて▓▓県に住んでいたんですよね。
まあ、縁もゆかりも無い遠い土地だったんですけど、やりたかったことと学力と、あとシンプルに一人暮らししてみたい、っていういろんな事情があって。
で、まあ大学寮の方に住むことになったんですけど、俺の通う大学は山を切り開いたところにあったんで、店とかは少なくて、バスとかのアクセスは悪くなかったんですけど、まあ、暮らすにはちょっと面倒くさいところでしたね。
基本的に寮で飯は出るんで、普通はあんま困らないんですけど、まあ、やっぱ夜食が欲しかったり、友達とお酒飲んだりしたい時もあるんで、そういうときは、まあ十分ぐらい歩いて、一番近いコンビニに行くんですね。
あ、セブンとかファミマとかそういうのじゃなくて、▓▓県ローカルのコンビニです。たぶん、名前聞いてもわからないと思います。
まあ、当時からもう立ち読みできないコンビニは多かったんですけど、 そこは緩かったのか、まあ、もしかしたら金のない学生にタダで雑誌を読ませてやろうっていう優しさだったのか、特に梱包とかされてなくて、ジャンプとか、メンズノンノとか読んでましたね。いや、当時はオシャレしようっていう気力はまだあったんで。
で、ある日のことなんですけど、雑誌棚の右端にA4の、それこそ百ページもないような冊子が置いてあったんですね。
まあ、大学ノートの裏表紙か何かなのか、表面が真っ黒で――最初はノートを買おうとしてやめた客が、適当に雑誌棚に置いたのかなって、思いました。
でも、そのコンビニで取り扱ってるノートって、そういうの無いんですよね。
それに裏表紙なら、バーコードと製造会社とか、そういうのが書いてないとおかしいですし。
まあ、ちょっと変だなって思ったんですけど、スルーして、その日はジャンプ立ち読みして、カップ麺買って帰りました。
次の週でしたね。
そのコンビニに行って、雑誌棚を見たら、その右端にやっぱりその黒い冊子がありました。
まず、店員が一週間気づかなかったんじゃないかと思ったんですけど、まあそんなはずがないんですよね。
ジャンプ、新しいのになってましたし、他の雑誌も新しい奴に入れ替わってたんで、どう考えても雑誌棚を触ってないはずがない。
で、雑誌を入れ替えてたんなら、あの黒い冊子に目が行かないわけがないですよね。
じゃあ、店員が片付けたのに……新しいものを誰かが置いていったのかな、って。
で、まあ、その雑誌を見て――気づいたんですけど、それ大学ノートだったんですよ。たぶん。
水性絵の具だか墨だかわからないんですけど、それで黒く塗りつぶして、黒い表紙にしてたんです。ちょっと元の大学ノートの表紙見えてましたから。
どう考えても、ヤバい物じゃないっすか。
マジで関わりたくなかったんですけど、それでも一応、店員に言っといたほうが良いかなって、ちょっと悩んだんですけど。
で、一応黒い冊子持って、その時、店員二人いたんですけど、レジにいた方に「こんなものあったんですけど」って声かけて。
そしたら、その店員言ったんですね。
「あー……中身見ました?」って。
「いや、見てないです」
「あ、そう。見たら、良かったのにねぇ。面白いし、見たら面白いから、だからうち立ち読み出来るようにしてるんだけどねぇ」
なんか、本当にその店員真顔なんですよね。
真顔でそんなことを淡々と言いながら、俺から受け取った黒い冊子を雑誌棚に戻してたんです。
「ウチだけだよ、取り扱ってるの。面白いのにねぇ。見たら良いのにねぇ。高いかなぁ、四千万円は高いかもなぁ。でも、こういうの勝手に値引きも出来ないからなぁ。立ち読みしてくれて全然良いのになぁ」
戻しついでに、雑誌の整理しながら、ずーっとその店員ぶつぶつ呟いてたんですよね。
俺、動けなかったんですよね。
いや、普通、逃げたら良いじゃんとか、思うかも知れないんですけど、その恐怖もあったし、困惑もあったし、とにかくワケがわからなくなると、人間ってどうしたら良いかわからなくなって止まっちゃうんですね。
俺もう、レジの前で何も出来ないまま留まっちゃって、で、雑誌の整理終わった店員がレジの方戻ってくるんですよ。
そしたら、品出ししてたもう一人の店員が俺の方見て、楽しそうに言うんです。
「あの人店長なんだけどさ、毎週自分で雑誌作ってそこの雑誌棚に置いてんの」
「はあ」
「あの人ねぇ、昔家に放火されて、家族が殺されちゃって、それ以外は何も無くなっちゃって、とりあえず復讐だけはしたんだって、本人が言ってるだけなんだけど」
「しちゃったんですか」
今考えると、もう一人の店員の方もマトモじゃないんですよね。
ただ、本当に世間話みたいなのんびりした口調で言うし、俺もうとにかくどうしたら良いかわからなかったんで、とりあえず相槌打っちゃったんです。
「うん、で、その様子をね。印刷して、貼って、雑誌にしてんの。なんかもう、何もない人だから、それが趣味なんだろうね。見て欲しいんだろうね。家族の写真とかも全部燃えて残ってなくて、もう復讐した相手の死に様ぐらいしか残ってないらしいから」
そう言って「大変だよなぁ、店長」って本当に他人事みたいに言ってました。
「で、きみ。見たの? 雑誌」
「見てないです」
「そりゃ、良かったね。店長、ちゃんと復讐したらしいから。ちゃんとした復讐って見るだけでも頭おかしくなるらしいから」
あ、そうなんだって思いました。
だから、ここにいる店員って皆頭おかしいんだなって思いました。
「あの」
「ん?」
「あなたも見たんですか?」
聞かないほうが良いなんてことは後から思いました。
「いやあ、そんなわけないじゃん。グロそうだし」
そう言って、その店員本当に困ったように笑ってましたね。
「保険金四千万下りたんだから、何も残っていないってことはないと思うんだけどねぇ」
二つわかったことがありました。
あの雑誌の値段って保険金と一緒だったんだってことと、あの表紙を黒く塗ってたものって多分。
煤だったんでしょうね。
そこから、何をどうやって家に戻ったのかは覚えていません。
ただ、もう二度と、あのコンビニには行きませんでした。
もう▓▓から離れてだいぶ経つので、あのコンビニが残っているのかどうかすらわからないんですけど、もしかしたらあの雑誌、まだ取り扱ってるのかも知れません。
たぶん、読まないほうが良いと思うんですけど。
【終わり】
そのコンビニでしか取り扱っていない雑誌 春海水亭 @teasugar3g
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