第2話 聖騎士の剣先
「うっふっふー!王様に呼ばれちゃうなんて出世しちゃったなぁ!私!それにもう全力出して良いんだもん!鼻歌だって歌っちゃうもんねぇー!
…………あぁでも、サズとか皆と会えなくなるのは寂しいなぁ。」
元【聖乙女】のパラディンであったカーラは、今までの報酬と今後という題目でこのタリア王国のパーシアス王に登城を兵士伝に言い渡されていた。
「って、いやいや!皆とはまたいつでも会える!うん!多分時間とか、捻り出せばいけるいける!今日からはずっとハッピーで行くぞぉー!」
今までの鬱憤が晴れることや、何が貰えるのかというワクワクから、スキップをしながら城へと入っていく。
顔パスなのでそのまま素通りしようと思ったものの、城の内部を詳しく知らないカーラは門兵に声をかけた。いつもはサズが先頭に立って先導していてくれていたため、カーラは道を覚えていなかった。
「やあやあ!どこに行けば良いのかな!?」
「……あぁ、カーラ様ですね?念の為書状を。」
「はい!」
「…………確かに、どうぞ此方へ。」
なんだかいつもより元気がないなとカーラが不思議に思いながら城の中を歩いていく。すると、軒並みメイドや従僕の顔が下に向けていて、活気がない。
この城の、自分の育った村のような暖かい雰囲気を気に入っていたカーラは、少し残念な気分になった。
「風邪でも流行った?」
「……いえ、そうでは。」
「じゃあ……」
「詳しくは、陛下より。」
「…そっか、分かった!」
玉座の間へと案内されたカーラは、一応膝を着いて頭を垂れた。サズに教えて貰った礼儀作法を披露し自信満々に視線を左右に揺らす。しかし、見付けようとした人物が見付からず、頭にハテナが浮かんだ。が、サズも忙しいし、この場にはいないんだろうと、自分にそう言い聞かせた。
「よく、来た………」
「は。」
「…カーラよ、よく余の要請に応えてくれた。それに敬意を表し、正式に聖騎士の証と、この宝剣を授ける。」
パーシアスの指示で武官が勲章を、文官が宝剣を持ってカーラの前に立ち、目をキラキラさせてカーラはそれを受け取った。
勲章を見つめて、胸付近に付ける。宝剣は、一度刀身を抜き放ち、上へと掲げる。カーラの今の気分は伝説の勇者であった。
一頻り満足したカーラだったが、興奮は抑えきれなかったようで、
「すごい!かっこいい!良いの!?」
浮かれて口調が素に戻った。すぐにヤバイと思って口を押さえたが、既に言葉は紡がれた。やらかしたと内心怯え始めたカーラだったが、特に咎めるような声は上がらなかった。
不思議そうに周囲を見ると、いつも小うるさい貴族まで落ち込んでいるようだった。
さすがに不気味な感じがして、表情が強ばる。
「カーラよ。」
「は、はい!」
「大事な話がある。とても、大事な。」
パーシアスは決心したように、先日のサズと魔族の件をカーラに話した。
途中、不穏な気配に怖がるカーラは、夜の供という場面で舌打ちをし、最後の結末を聞いたことで、最初何事かと不安そうだったカーラは、話を聞いたことで愕然とし、その場に立ち尽くしていた。
「サズ、さんが………?」
「………」
「アァ、そっか、この勲章も、宝剣も、褒めて貰えないのか…………………じゃあ、意味ない……」
さっきまで嬉々として付けていた勲章をまるで服についた糸屑をとるかのように摘まんだ。
瞳がまるで赤い色水に黒を一滴垂らしたようにじんわりと暗がりに包まれる。そんな瞳で勲章を何の感慨もなく一瞥し、そしてそのまま地面に捨てようとしたところでパーシアスから制止が入る。
「聖騎士カーラよ、我がタリアの剣となる気はないか?」
「それって…」
「余と、いや僕と一緒に、サズを取り戻してほしい。」
パーシアスが玉座から立ち上がって頭を下げるも、それを糾弾する貴族はいなかった。それはつまり、彼らにとってもサズの存在が大事であるという証左に他ならない。
「………………相手は魔族ですよ?」
「承知の上だ。」
「王様が民を危険に晒すのですか?」
「そうだ。」
「どうして?」
「恩人を見捨てるような男に信頼はない。」
「……………そ、っか。」
パーシアスの熱のこもった目を見て、納得したようにカーラは深く頷いた。
「それで………」
「良いよ、王様。その、リジェダーを、殺せば良いんでしょ?」
「………う、うむ。それが出来れば一番だが、敵は魔族だ。情報や戦力も全く足りん。今は辛抱の時だ。一先ずはだかな。」
「今もサズがどうなってるか不安じゃないの?」
「一先ずは、だ。理解してくれ。それに何も戦だけが交渉のカードではない。」
「…………分かった、それまで私は私で動く。良いよね?」
「その方は大事な戦力だ。無茶なことは………」
「もちろん。サズを助けるまで死ぬつもりはないよ。」
決心をしたカーラはふと別の事を思いだし、振り返ってパーシアスに尋ねる。
「あ、他の三人は?伝えた?」
「まだだ。」
「じゃあ同時に言った方が良いかも。」
「それは何故だ?」
「多分、ミケイトとクーニュが取り乱すから、アマーロがいないと何するか分かんないよ。ミケイトは乱心ぐらいかもしれないけど、クーニュは泣きながら手製の爆弾をそこら中にばらまくかも。」
「………そうか、忠告感謝する。」
言いたいことはもう無いと言った様子で、カーラは玉座の間を後にした。その背中からは決意の色が濃く漂っていた。
──王様はああ言ってたけど、私は待てない。待たない。今も私たちのために身体を張ってるサズさんを助けないと…………!
私は特に魔族に恨みとか無かったけど、リジェダー。おまえは別だ。完膚なきまでに潰してやる………!
────────────────────────
「ふう、バイコーンの馬車は速度はありますが、いてて、やはり腰とお尻には難アリですね。」
「一刻も早くと仰せのため。すみませんが。」
相変わらず平身低頭でサズと接するリジェダー。どう言っても態度を変えないリジェダーに、サズは諦めて受け入れていた。
「えぇ、パッシェの今を把握しなければ。しかし、五年ぶりの城ですか、なんだか感慨深いですね。」
目の前に聳える黒で統一された城をサズは見上げる。普通の城と違いはないが、警備兵としてそこらをハーピィ達が飛び回っていた。
城の中は小綺麗に見えたが、よくよく見ると全体的に薄く埃が被っており、細かい掃除がされていないことが分かる。
飾られた絵画の額縁や、調度品全体を掃除したい欲に駆られるも、なんとか押し留めてリジェダーの後をついていく。
「ただいま戻り」
「おぉぉあぁぁぁぁ!!!よく戻ったサズ!よし!まずはこの農地の収量の推移と開墾あブフォ!?」
何かの骨で出来た椅子から転げるようにサズの足下にすがり付いた魔族は、手に持っていた資料を渡そうとした…ところでサズの膝蹴りを顎に食らった。
「領主として、その態度は如何なものかと。ディーセル様。」
サズの膝蹴りを受けてひっくり返っていたこの魔族こそ、パッシェ国を治める領主である、俗に魔王と呼称される男である。正論を浴びて申し訳なさそうに立ち上がったディーセルは、頭の特徴的な鹿の角が折れてないか確認し、改めてサズに向き直った。
「いや、その、なんか、ゴメン………嬉しくてさ、サズが帰ってきてくれて。」
後頭部をかきながら照れつつ呟く。
「私には仕事を丸投げしようという魂胆しか感じられませんでしたが。というか最初からそのつもりですよね?何故もっと計画的に呼び戻せなかったのですか?武官だからと言う言い訳はここ五百年毎度のごとく聞いておりますが?長年統治しているのだからそろそろ覚えていただいて宜しいでしょうか?人間は長くても三年経てば一人前になるというのに。」
場が和むかと思いきや、逆に冷えてきた。
「……………うん、サズが帰ってきてくれてウレシイナァ」
嬉しさに感極まったのか、それとも何かダメージを受けたのか、目尻に涙を貯めるディーセル。
「では、溜まっている仕事を拝見いたします。私が受け持つものとそれ以外を仕分けますので。」
「き、緊急のは確か………!」
そう言って大量の紙束を持ってきたディーセルを見て、物凄く深い溜め息を吐くサズであった。
二君の忠臣 麝香連理 @49894989
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