第4話 戦闘部

翌日。


すっきりと目が覚めた俺は、軽く朝食を腹に詰め込んでから学校へと向かう。


「いってらっしゃーい」


「いってきまーす」


いつもなら遅刻スレスレで飛び出すところだが、今日は珍しく寝坊せずに家を出ることができた。


「レンジより先に来たの、初めてだな……」


いつも待ち合わせ場所にしている分かれ道。そこに佇みながら、俺は時間を確認する。しばらくすると、案の定、眠そうに目をこすりながら歩いてくるレンジの姿が見えた。


「あれ、シンが先に着いてるなんて初めてじゃね? 明日はサテライトでも落ちてくるんじゃねえの」


「先に俺の拳が落ちるぞ」


そんないつものくだらない軽口を叩き合いながら、俺たちは並んで登校した。巨大な校舎が見えてくる頃、俺は昨日からずっと決めていたことを口にする。


「なぁレンジ。俺、戦闘部入るわ」


歩みを止めずに告げると、レンジは目を見開いてこちらを振り返った。


「マジ?あのキツそうな部活に入っても、お前すぐ幽霊部員になるんじゃねえの?」


「マジで拳落とすぞ」


呆れたようなレンジの言葉に、俺は拳を軽く握って睨みつける。


だけど、内心の決意は固かった。あの『神の領域』の真実を知ってしまった以上、ただの人間で終わるつもりは毛頭ない。幽霊部員どころか、死に物狂いで食らいついてやる。


教室に着くやいなや、俺はカバンから入部届を引っ張り出し、机の上で早速ペンを走らせた。


ふと隣を見ると、レンジもまったく同じ用紙に『戦闘部』の文字を書き込んでいるところだった。視線が合うと、お互い不敵にニヤリと笑う。


書き終えたのとほぼ同時に予鈴が鳴り、担任が教室に入ってきた。ホームルームが始まってしまえば、もう身動きは取れない。これを出せるのは、早くても次の昼休憩だろう。


「なぁ、一限目ってなんだっけ?」


ペンを片付けながらレンジに小声で尋ねる。


「保健。予定表くらい把握しとけよな」


呆れ顔のレンジに返す言葉もなく、そのまま一限目の授業が始まった。


「えー、そして。ダストを動かすにはルゲアが必要不可欠な存在である。ここから先は……そうだな、4月だから雨月」


(だから4月と何の関係があるんだよ……!)


デジャヴのような理不尽な指名に内心で激しくツッコミを入れながら、俺は再び椅子を引いて立ち上がった。教科書の太字を素早く目で追う。


「はい。ルゲアの他の使い方としては、物質化し、単純化された攻撃として利用することも可能で、保有する能力の動力源にもなります。そして、ルゲアの総量は人によって異なり、種族によって消費のされ方も異なります」


淀みなく読み上げると、教壇の教師は「はい、おっけーね」と満足そうに頷き、黒板に次の文字を書き始めた。


世界のエネルギーの根幹、そして能力の源となる『ルゲア』。

昨日ダム先輩に聞いた「種族の覚醒」にも、きっとこのルゲアが深く関わっているに違いない。授業を聞きながら、俺は胸の中で静かに闘志を燃やしていた。


そして、午前中の退屈な座学はあっという間に過ぎ去り、待ちに待った昼休憩がやってきた。俺とレンジは席を立つと、手に持った入部届を握りしめ、職員室へと向かって廊下を歩いていた。


その途中、前方から歩いてくる見覚えのある姿に気づく。


「お、昨日の迷子二人組じゃん」


声をかけてきたのは、入学初日に校内で完全に迷子になっていた俺たちを、親切に教室まで案内してくれたあの先輩だった。


「っ……! あの時は本当にありがとうございました!」


俺とレンジは、示し合わせたように二人同時に深々と頭を下げた。あの時先輩に救われなければ、俺たちは初日から大遅刻をかましているところだったのだ。


「あの……まだお名前を伺っていなかったので、教えていただけますか?」


俺が尋ねると、先輩は人当たりの良い笑みを浮かべてひらひらと手を振った。


「そういえば名乗ってなかったね。自分の名前はシア。四年生だよ~」


シア先輩。その言葉に、俺は改めてこの学校のスケールの大きさを実感する。


この学校は一般的な高校とは違い、高度な戦闘や技術を学ぶために四年生まで存在している。つまり、目の前にいるシア先輩は、この学び舎の最上級生であり、数々の修羅場をくぐり抜けてきた実力者ということだ。


「あれ、その紙……どこか入部するの?」


シア先輩の視線が、俺たちの手にある入部届へと注がれる。


「はい! 戦闘部に入ります!」


「同じく、戦闘部です!」


俺とレンジが元気よく答えると、シア先輩は「へえ」と目を細めて、どこか嬉しそうな笑みを浮かべた。


「自分と同じ部活じゃん。仲良くしようね~」


――そう言い残した次の瞬間だった。先輩の姿が、まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、周囲の空気へと溶けて消えてしまった。


「あれ? どこ行った……!?」


俺は周囲を見回すが、廊下には他の生徒たちの喧騒があるだけで、先輩の気配は完全に消え失せていた。


「そんなことより、早くこれ届けるぞ。昼休憩が終わっちまう」


レンジに肩を叩かれ、俺は我に返った。あのシア先輩も、相当な実力者に違いない。戦闘部への期待と少しの恐怖を胸に抱きながら、俺たちは先を急いだ。


なんとか予鈴が鳴る前に職員室へと滑り込み、担任のデスクへと向かう。


「先生、お願いします」


二枚の入部届を差し出すと、受け取った教師は手元にある専用の端末にそれをピッと読み込ませた。画面にデータが転送され、緑色のチェックマークが点灯する。


「うん、これで受理されたよ。部活動は今日の放課後から開始だから、遅れずに行くように」


「「はい!」」


これで、俺たちは正式に戦闘部の一員になった。もう後戻りはできない。神の領域、人間の『V4』へ至るための挑戦が、ここから始まるんだ。

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