第7話 猿が狸の品定め

「徳川家康か……」

勝手に勝てる相手と考えておったが、こいつも化け物じゃったか。

と、一言つぶやいた。

わし、羽柴秀吉は大殿のご意志を体現する事を人生の意義にしておる。

織田信長様。

この方は間違いの無い化け物じゃ。戦国という魔境は、人間では生きていけん。

だからわしは人間である事をやめ、主・信長様を真似する事で、この乱世をくろうてやろうと考えておる。

そんな信長様は、普段はとても退屈しておられる。

対等に戦える相手が、あまりにも少なすぎるのだ。

今までは三人。

一人は、海道一の弓取り・今川義元。

二人目は、甲斐の虎・武田信玄。

三人目は、越後の龍・上杉謙信。

そして――。

四人目が、この徳川家康だわな。

威圧感に関しては、あの徳川家康が一番かもしれん。

何故か、あの二人の会話を聞いている間、わしは平伏して聞いてしもうた。

主・信長を真似しているつもりのわしには、屈辱極まりない話じゃ。

話した内容の、本当の意味すらわからん。

信長様が「主はワシの知っている家康か?」と聞くと、

家康は「間違いありませぬ」と答えた。

すると信長様は、

「わしの知る家康であれば、此度の件、織田家との敵対を恐れ信康の命を差し出し、徳川の未来を安寧のものにするはずじゃ。何故やらん?」

とお聞きになった。

対する家康めは、

「その家康には飽きました」

と、そう答えおったのだ。

あの家康とは思えない威風堂々とした態度に、信長様はかなり上機嫌になり、

「この二万に、どの様にもてなす?」

とお聞きになった。

家康めは、此度は、

「引き口(ひきくち)をご覧入れましょう」

とだけ答え、信長様が「唯では済まさぬぞ?」と申されると、

「如何様(いかよう)にも」

と返した。

あの圧倒的な威圧感を纏う信長様に対して、あの様な態度を取る男が、この戦国に一体どれほどおることか……。

最後に信長様が、鋭い眼光の後に、

「武装が無いと、甘い考えではあるまいな?」

と問うと、家康めは――嬉しそうに笑いおった。

あの古狸・家康。織田軍の早さに慌てるでも無く、狼狽える訳でも無く、あの異様な威風を纏える男が、次の敵か……。

副将である小一郎が「兄者、何を笑うておる? さっさと戦支度を整えんと親方様に怒られるで」とほざきおった。

さて、わしもそろそろ家臣の役割に戻って、狩りの準備に勤しむとしよう。

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