人類はまた自由を選ぶ

白間

自由の代償

異星艦隊が地球へ到達した日。

人類は、自分たちの文明が終わるのだと思った。


空を埋め尽くす黒い艦船。

各国軍は数時間で壊滅。

通信網は沈黙した。


国連による最後の全世界放送で、一人の将軍が青ざめた顔で言った。


「人類は……敗北した。」


誰もが想像していた。


虐殺。

収容所。

絶滅。


しかし、異星人たちが提示した“奴隷制度”は、人類の予想とはまるで違っていた。



異星人のルールは単純だった。


地球人は全員、週十二時間労働。


その代わり、


* 住居支給。

* 医療無料。

* 教育無料。

* 食糧保証。

* 娯楽提供。


戦争は禁止。

極端な資本独占も禁止。


ただ一つの代償は、


「人類が“自由文明”である資格を失うこと」


地球は正式に、


《銀河第七労働属星》


へ編入された。



最初、人類は激しく抵抗した。


各国の残存軍は統合され、《自由地球戦線》が結成される。


彼らは叫び続けた。


「自由のない生存に意味はない!」


「奴隷になるくらいなら死を選べ!」


だが半年後。


戦線内部で、異変が起き始める。


兵士たちが、次々と逃亡した。


彼らは武器を捨て、自ら異星人の管理区域へ向かった。


理由は単純だった。


以前の地球では、週七十時間働いても家を買えなかった。


病気になれば破産した。


老後は保証されなかった。


だが今は違う。


週十二時間働くだけで、


* 清潔な住居。

* 十分な食事。

* 医療保障。

* 娯楽。

* 安定した生活。


全てが与えられる。


犯罪率は激減した。

戦争も消えた。

自殺率さえ低下していった。


人類史上初めて、多くの人間が“自由時間”を持つようになった。



やがて《自由地球戦線》に残った者たちは、ある種の人間に偏り始める。


政治家。

金融資本家。

巨大企業の経営者。


旧時代の支配層だった人々。


彼らは異星人の支配下で、多くを失っていた。


資本による無制限の利益拡大は禁止。

土地独占は禁止。

金融市場も管理下に置かれた。


彼らは初めて、“普通の人間”になってしまった。


そして、それだけは耐えられなかった。



戦争は二十七年続いた。


最終的に、《自由地球戦線》は勝利する。


地球奪還の日。


街は熱狂に包まれた。


「人類は自由を取り戻した!」


人々は泣きながら歓声を上げた。


撤退する異星艦隊を見送りながら。



やがて、勝利した指導者たち――


かつての政治家と資本家たちは、世界へ向けて声明を発表する。


「異星人へ投降した者たちを処罰することはない。」


「過去は問わない。」


「我々は再び、一つの人類となる。」


その言葉に、多くの人々が涙した。


特に、かつて自ら投降した人々は深く感謝した。


「彼らは私たちを許してくれた。」


「今度こそ、人類のために働かなければ。」


人々は以前よりも必死に働き始めた。


文明復興のために。


自由のために。



五年後。


地球は完全に“元通り”になった。


医療は再び高額化し、

住宅価格は急騰し、

教育格差は復活する。


政府は繰り返した。


「文明再建には努力が必要だ。」


労働時間は延び、

競争は激化し、

富は再び一部へ集中していった。


そして、《自由地球戦線》の指導者たちは、以前よりも遥かに大きな権力を手にしていた。


彼らは単なる支配者ではない。


“人類を救った英雄”


だったからだ。


もはや誰も、彼らを疑わなかった。



数十年後。


一人の老人が、狭い賃貸部屋で歴史番組を眺めていた。


画面の中では、若き日の革命指導者が叫んでいる。


「我々は自由を取り戻す!」


老人は黙ってテレビを消した。


そして、自分の労働端末を見つめる。


七十二歳。

週六十五時間労働。

医療保険なし。

年金なし。


窓の外では、雨が降っていた。


老人はふと思い出す。


昔。


異星人の支配下にいた頃。


毎日の午後、公園で日向ぼっこをしていたことを。

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