十話 乗り遅れと地下二階

——ここは世界のどこかにある魔族の国。


八つの椅子が、一つの円卓を囲んでいる。


静まり返ったその空間は、まるで会議室のようだった。


「久しぶりやな。五十年ぶりか?そないにしても、自分ら老けたんちゃう?」


δデルタ!口を慎め。全く、調子に乗った若造やな。」


「おい、ジジイ。ワイに勝てるんか?固有魔法の優秀さは誰にも負けへんで。」


αアルファδデルタは口喧嘩を始める。


αアルファは小柄な老人、δデルタは若い男だ。しかしどちらも立派な魔族である。


δデルタ……まだわからんのか。ここで争うべきではない。」


αアルファさんの言う通りだ。δデルタ、少し主従関係を見直した方がいいのじゃないのか?」


(いつの間に!影薄すぎや……)


δデルタの隣に、いつの間にかΩオメガが座っていた。


「だけどδデルタαアルファさんには勝てないじゃないの。」


鼻で笑い馬鹿にするのはεイプシロンだ。


「やかましいわ!女に言われる筋合いはない!」


「今の時代、男女を区別する時代は終わったはずでしょ〜!ねっ、πパイ


εイプシロンが視線を送る先にはπパイが座っていた。


「えぇ。コンプライアンス違反には抵触する発言でしょう。」


πパイは機械的な口調で答える。


——轟音が響く。


会議室の後方で爆炎が弾けた。二人の魔族が現れる。


「危なかったすね。先輩!爆破してなんとか間に合いました。」


「あぁ。パワーオブオール!」


爆破したのはγガンマ、もう片方はβベータだ。


βベータは腰に刀を差している。


「全く、お主の固有魔法では放射線が出るから止めろと言ったではないか。」


γガンマの固有魔法は核分裂フィッスラ

空気が歪み、熱ではない“破壊そのもの”が生まれる。


さらに魔法式の精度に放射線が強く関係する。放射線を魔法式が浴びると形が崩れ魔法が正しく撃てなくなる。


「お前ら全員揃ったか?」


その声に、一斉に頭を地につける。


(……王が来た!)


「いらっしゃいましたか、Aøさま。」


「これから第一回七冠会議を始める。」


——新宿駅では


「ここが地下二階……。一段と雰囲気が変わりました……。」


「ここからは強力な魔物も出る。ほら。」


エリックが見据える先に魔物が現れる。


「乗り遅れだぁぁぁぁあ〜!」


「なんですか?あの出オチの魔物は……。」


リサは腫れ物を見るような目で見つめる。


「あいつはS級エスランク遅刻魔ちこくまだ。この駅で乗り遅れた絶望が溜まりに溜まってな。怨念と魔力が結びついた結果だ。」



——がぁぁぁぁぁあ


遅刻魔ちこくまは言葉には表せない叫びをする。


「詳しいね、エリック。その“友達”のおかげですか?」


エリックは小さく頷き杖を出す。


「さぁ片付けるよ。」


「どけ……、間に合わないだろ!」


雷の格子リステルム


遅刻魔ちこくまは五本の指から糸状の雷を出しエリックに放つ。


地面の隆起テラエクス


エリックは地面に手をつく。


すると地面が盛り上がり雷を防ぐ。さらに遅刻魔ちこくまにダメージも与える。


(私も……!)


炎の直線レクトゥス


隆起した地面が死角を生み、その隙間から炎を放つ。


しかし


——炎は消えた。

比喩ではない。


さっきまで燃え盛っていたはずの炎が跡形もなく消えている。


(なんで……!魔法がかき消された。)



——ジュ。


焼けた匂いが鼻を刺す。


一瞬、自分のものだと理解できなかった。


遅れて、背中から崩れ落ちる感覚。


呼吸が浅くなる。


(……消えたんじゃ、なかった)


視界の端で、炎が揺れている。それは確かに、自分の魔法だった。


リサの背後から、正確に撃ち抜かれていた。


「リサ!」


「平気です……炎の属性を扱うから火には多少は耐性がある……。」


リサは口では強がるが体が震えている。


服が焼かれ露出した肌も真っ赤に腫れている。


(エリックに今は心配されたくない……。)


リサのわがままなのは本人がよくわかっていた。


きっとエリックなら火傷をすぐに治す魔法くらい持っているだろう。


——しかし


(隣に立つって、決めたんだから。)


光の梯子ルクカラ


リサは火傷のズキズキとした痛みを堪えて遅刻魔ちこくまの頭上に魔法陣を展開し、そこから光を放つ。


「遅いな……。間に合わないぞ。」


遅刻魔ちこくまは防御魔法を展開し光を防ぎ、リサに間合いを急に詰める。


「まずは……一人……。」

——雷電ミュトリス


遅刻魔ちこくまは静かにリサに触れる。


——バチバチ


何かが弾けた。

直後、音が消えた。

感触が消える。


そして——自分の体の存在すら、曖昧になる。


リサの視界は真っ白になり音も感触も全てが消え失せた。


「おい。」


エリックは血を這うような声で言う。


エリックの周囲の空間が、わずかに軋む。空気が重く沈み、呼吸さえ困難になる。


「僕の仲間に手を出したらどうなるかわかるよね?」


エリックは指先に光属性と闇属性の魔法を練り出した。


——半間の世界テネブラエ

エリックは魔法を唱えなかった。


ただ、次の瞬間には物凄い衝撃、轟音……。


遅刻魔ちこくまは言葉を発するもなく散った。


(まさか僕が編み出した“雑魚殲滅魔法”で倒せるとは……。)


エリックは倒れるリサに近寄りリサを担ぐ。


魔法で浮かせることもできたがそれは何故か、エリックの考えには浮かばなかった。


(リサを傷つけさせない。それが、僕の今のだ)


エリックは安全地帯を探して歩き出した。

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魔法はやがて現実へ ——魔法はこの世界のものじゃない。 TUNAKAN @TUNAKANv

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