第22話 三宅坂46オーディション!
服部美月です。沙織の所為というか、なんというか、私自身の東京への好奇心みたいなものがあって、いま、東京都港区赤坂に来ています。何ということもないオフィスビルの一室に受付があって「学生の方はお持ちの制服を着てオーディション会場にお進みください」とあったので「制服持ってきておいてよかったね」と沙織が言うんです。お手洗いでそそくさと敷島女子の制服に着かえて、いつもの私たちらしくはなったとは思うんです。
わたしは、普段着でもよかったんですが、連られて着ちゃいまして。オーディションに出るわけでもなく……あれ、だれか女の人が声をかけてきます。
「あら、初めまして。MKSの溝口といいます。どうぞよろしくね」
沙織が言う。
「あ、はい」
溝口さんとやらが私に向かって言う。
「あら、あなたは?」
「はい、わたしは高槻さんの付き添いで来ました」
「まあまあ。付き添いだなんてもったいない。どう? あなたも、この101番の名札付けて、出られてみてはいかがでしょうか」
「沙織、どうする?」
「どうするって、はっとり……こんな経験初めてだし、どうしていいか」
「どうしよう?」
「それは、もう倍率高いし、どうせ受かんないんだから、人生経験として受けちゃえば?」
「そっか、わたしごときが受かるはずないもんね。じゃあ、お姉さん、わたしも」
「はいはい、じゃあ、これ、右胸に安全ピンでよろしくね、はい中へ」
……どうする服部美月。なんか、沙織は67番。わたしは101番。オーディションに出ちゃう、出ちゃう~!!
「沙織、出ちゃう、出ちゃう~!!」
「え、はっとり、トイレはさっき済ませたはずだけど……」
「違う! わたしまでオーディションに出ちゃうことになった!」
「まあ、受かりっこないんだし、リラックスして」
「沙織からそう言われるとは……なんか、この環境、女くさい」
「あはは」
◇ ◇ ◇
はっとりのことを、なんか巻き込んじゃったみたいけど、ま、いいか。わたしより運動神経抜群で、やろうと思えばキレッキレのダンス踊れるし。はっとりとは番号順なので、別々のパイプ椅子に座ることになりました。順番で言うと、はっとりが一番最後になるようです。
みんなすごいです。1番さんから見てるけど、さすがは本気でアイドル目指す子ばかりです。北海道、秋田、千葉、静岡、愛知……全国各地、いろんなところから来ています。よく、これだけの女の子を集めて来られたな、という気はしないでもないです。
紫織……なんでわたしがこんな目に遭って……ま、いいか。気持ちよく受けて、気持ちよく落ちて、仲よく一緒に東京見物して、原宿や表参道行ったりなんかして……。
とはいえ、緊張しないはずがないじゃないですか。順番に、今在籍しているメンバーのダンスを、大型モニターで、何度も繰り返し観ます。そして、それをどこまで試験の時に再現できるか、ということをやるようです。ちょっとだけ観ただけじゃわかんないです。はい。
◇ ◇ ◇
この画像を観て、わたしに踊れと。無茶な。そんなアホな。できっこないでしょうが! 幾ら体育の評価10とはいえ、音楽に合わせて踊るのは、わたしは初めてです! はああ。沙織のせいだ。くっそー、この怒りのぶつけどころ、どこにぶつけていいか分かりませんが、私は私なりのダンスを踊って、振り付け全部無視して不合格になって、気持ちよく東京見物して、はい、さよなら。また、いつもの高校生活が待っているだけです。はいはい、かかってらっしゃい、全然緊張なんかしないんだから。
あ、もうじき沙織の番です。なんか、簡単な面接試験をしてから、席を少し外して、その場で踊るようです。沙織の後でほんっとうによかった。
「67番、室山県から来た高槻さん」
「あ、はい」……
始まった。受かれ、沙織。それもまた人生だ。だ、なんちって。さあ、VTRチェックだ、VTRチェック。……この踊り、つまらない。まあ、適度に運動神経発揮して、それで終わるか。さらばだ、三宅坂46。
「最後に、101番、室山県から来た服部さん」
「はい」
「あなたはなんのためにここに来ましたか?」
「67番、高槻さんの付き添いで来たら、出る羽目になりましてね。わたしなんか受かりっこないし、地元の高校の国語教師になる予定です。全然受かるつもりはないです」
◇ ◇ ◇
うわあ、はっとり、先生になる発言をするですよ、度胸あるなあ……私は受かるつもりはありませんって、審査員の方、怒らないかなあ……。
うああ、今度ははっとり、全然指定された振り付けしていないですよ。どんなにキレッキレなダンスなんですか。ある意味すごい。もう落とされる気満タンの、ある意味やけくそです。何ですか、あれは。髪をぶんぶん振り回したかと思えば、アスリート並みの機敏な動きです。はっとり、すごい……。
やがて、全員の審査が終わり、はっとりがこっちに来ます。
「やー、やってやったぜ。終わった、終わった」
「はっとり、ある意味すごいよ! 全然マニュアル通りじゃなかった!」
「まあ、わたしは室山大学教育学部に行くっていうのが決まりだからな」
「いやいやいや、はっとりさん、あのダンスはすごかった」
「そうかな? わたしはめちゃくちゃ体を動かしただけで……あのさ、沙織」
「なあに?」
「別室で、お茶とお弁当の用意があるからって、運営の人が」
「はあい」
◇ ◇ ◇
わたしは、頑張った沙織に声をかけてみた。
「よっ、沙織。おつかれさま。お弁当の時間にしようぜ」
「汗かいたね」
「そうだな、枝毛も増える」
「いただきまーす」
「いただきます」
そうして、お弁当とお茶に舌鼓を打っていると、運営の人が何か声掛けをしているんです。
「67番さん、101番さん、ちょっと別室へ……」
え! わたしたち?
「お、なんか呼んでるぞ、沙織」
「はっとり、何かお説教かなあ……」
「弁当、まだ食ってないけどな、半分も」
「行こう、はっとり……」
「そうだな、なんか呼ばれているみたいだし」
◇ ◇ ◇
小さな別室で、控室でしょうか。ダンスの先生が、感動したような顔で、ステキスイッチが入ったような顔でこっちを見つめています。
「あなたがた、高槻さんと、服部さんね。ダンス見せてもらいました!」
「あ、はい」
「先生、とても感動しました。高槻さんの正確な動き、そして、服部さんの独創的なダンスと舞台度胸。感動しました!」
「いえいえ、わたしは高槻さんの付き添いで来たまででして、そんな!」
「わたしも、姉に勝手に応募させられて……」
「そう? こんな逸材、東京都にはいない、って先生思うんだけど?」
「いやいやいや、お断りします、遠慮します!」
「付き添いとしてもお断りします!」
……そんなこんなで、はっとりとわたしは、散々口説かれました。無茶苦茶引き止められました。わたしたちは、まだ息切れが収まっていません。お腹ペコペコです。ここは、お断りするのみです。はっとりとの友情、一緒に、室山大学を目指すんだ、ってこともあります。そのことを、ダンスの先生に丁寧に丁寧にご説明した結果……。
「あら、どうしてもダメ?」
「そうなんです」
「わたしもです」
「じゃあ、残念ね。惜しいなあ……あなたがたが、ステージに立っている様子が手に取るように想像できると言うのに……」
「ごめんなさい」
「ご迷惑をおかけいたしました」
「じゃあ、来年なら間に合うから、また考えていらっしゃい。先生は待っていますよ」
◇ ◇ ◇
はああ、どうやらようやく撒いた……。そんなによかったかな、うちらのダンス。とりあえず、お弁当とお茶を居残りで処理して、深々とお辞儀をして、その場を後にした。
「わたしはいいけど、沙織、あれでよかったのか?」
「そうね、はっとり。元はと言えば、あの姉貴が。百合族の紫織の所為!」
「ハッキリ言い切るね。未練があったら、やり直すなら今のうちだぞ」
「いいや、全然。わたしには、三宅坂46は無理かなあって、ずっとずっと思っていて……」
沙織は、どうやら断り切れない性格とみた。やれやれだぜ。
ダンスの先生が、玄関まで見送ってくれた。
「じゃあ、あなたがた、元気でね。また来年来てもいいのよ?」
「はい、今日はありがとうございましたー!」
「大変ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした!」
「学校の先生になるのも可能性なら、こっちに来ることも可能性。それだけは忘れないでね?」
二人「はい、ありがとうございました!」
そうして、わたしたちは、オーディション会場を後にした。
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