第11話 家庭科部、スイーツ食べ歩き!
家庭科室に集まった、全学年の生徒。三年生はいつも受験勉強なので、今回のスイーツ食べ歩きには、息抜きのために参加をするそうだ。そこで、顧問の柴島祥恵先生の発案とは……。
「えー、七月最初の行事は、このスケジュールに従って、一、二、三年生全員でお店めぐりをやります。参加費はかかった実費のみです。皆の実家でご商売をされているお店を巡ってスイーツを堪能しようというわけです。出発地は、敷島駅から葱北本線を北上して新芝草駅……そこで乗り換えて、紅電紅葉野駅から。そこから紅電沿線に海浜神崎まで南下します。わかりましたかー」
「はーい」
「実費は痛いよな……」
「それぞれの駅近くにある部員の実家のスイーツショップなどに立ち寄ります。なお、これは、学校の行事なので、集合は制服でお願いします」
◇ ◇ ◇
「……そっか、家にも先輩方が来るのか」
「どしたの、はっとり?」
「うちが出せるスイーツって、餅か、水ようかんなんだよね……沙織んちは?」
「そうだねえ……うちはバターロールクッキーぐらいかな。後は生ものしかないよ」
「いやはや、ハイカラで、お洒落だなあ……チーズだけは勘弁な」
「はっとりんちだって、お餅美味しそう!」
「うちは、ナサパニックのヘルシーオーブンがあるぞ」
「お前んちは電器屋だろ? 論外だ」
「ご飯をパンにできる機械だってあるぞー!」
「それ、いいかも!」
「いいなあ、みんなお店持ってて……」
「そだねー。桃花んちはラジオ放送局だもんねー」
「『あすの料理』の料理本販売とか!」
「お父さんに訊いてみる」
「香枚井登下校組は決まりましたかー?」
「はーい!」
◇ ◇ ◇
ある日。県立敷島女子高等学校、家庭科部は、スイーツ食べ歩きを開始していた。部活の顧問の先生が、皆を誘導する。先ずは、新芝草駅前のベーカリーで待ち合わせ、ラスクを食べる。次に、新芝草駅に徒歩十分で隣接する、紅電紅葉野駅前の繁華街にある芋羊羹のお店で、芋羊羹とお茶をご馳走になる。
そして各駅停車に乗り、紅電・榛名天神駅前の服部宝珠庵に着いた一行。今度は特製水羊羹だ。細い竹筒に入っていて、ちっちゃな栓を抜いて、片側から吸い込むと、きゅーっ、ぽんっと水羊羹が口に入っていく仕組みだ。
「服部さん、これ、美味しい!」
「買って帰ろうかしら……」
「くせになりそう……」
「はい、喜んでいただければ光栄です、先輩」
「このお餅も最高です!」
「寛永七年創業のお店だからね、歴史が違うんだよー」
「さすがは江戸時代から続く味ね、感心したわ」
服部宝珠庵の、服部美月は得意気だった。そこへ家庭科部、顧問の柴島祥恵先生がやって来て、みんなに諭した。
「いいですか、まだ三軒目ですよー! 甘い物食べ過ぎてデブになんないようにね、適度なところでお土産にして持って帰りなさい」
「はーい」
「次は、紅電香枚井駅ですよー!」
「ごちそうさまー」
「さて、行くか」
紅葉野電鉄の榛名天神駅に向かう、ぞろぞろと連なって歩く女子の集団は圧巻だった。普段は制服で団体行動と言えば、修学旅行程度だからだ。電車に乗り、榛名天神駅から一駅、室山市の北の玄関口、紅電香枚井駅に着いた。
「お父さん、いつもと違って上機嫌ね……」
「久々に、女子高生の大群を見たからじゃないのー?」
「梨音、うるっさい!」
普段滅多に他人をぶたない沙織が、怒って梨音の頭をはたいた。
バシッ!
「おわ、痛たあああー、沙織が怒ったー、珍しいー」
「これ無料じゃないんだからねっ! 定価で一袋、六百円するんだからねっ!」
「おおー、出血大サービス! ……って、ぶたれたわたしが出血しそう」
「じゃあ、これは帰ってからのお楽しみだねー、梨音ちゃん」
「ち、チーズケーキじゃなくてほんっとうに良かった……」
「じゃあ、はっとり、チーズケーキひとつ持って帰る?」
「やめろ、いらん!」
シエスタ香枚井を後にした一行は、その後、海浜神崎までの部員の店を訪ね、あらゆる種類のスイーツを制覇して、もう、甘いゲップしか出ない。紅電敷島駅近くの、県立敷島女子高等学校、家庭科室に戻った一同……。
「うえー、疲れたー、だりぃー、あちぃー、胃薬が欲しいー」
「だれるな、梨音!」
「はっとりんちの水ようかん、あずき嫌いなわたしでも食べられた……」
「あ、そっか、それは良かったな……」
顧問の先生が、ドサッ、ドサッと本を用意した。「あすの料理」のスイーツ特集の本だ。ちょうど四十冊あって、ひもで束ねてある。
「えー、これは、一年の柏原さんのお父さんが、ポケットマネーで勤務先の放送局から買って来て下さったスイーツ本です。『あすの料理』という本です。皆さん、これを見て、更に腕に磨きをかけてください。柏原さんに拍手!」
パチパチパチ……。
「柏原さんのお父さん、室山放送だって?」
「はい、そうです、ラジオでニュースとか読んでます」
「知らなかったあー」
「はい、拍手されると、ちょっと照れますねー」
顧問の先生が言った。
「それでは、暗くならないうちに下校してください。夜道には、不審者がいないとも限らないので、気をつけて帰ってね」
◇ ◇ ◇
さて、下校時、四人連なって歩く香枚井登下校組。紙製のショッピングバッグには、あらゆる種類のスイーツや果物や煎餅、餅や書籍に至るまで揃っていた。みんな、少し重そうにしていた。そこへ、学級委員長、私市かなえちゃんがやってきて……?
「おやまあ、偶然ね? 皆さん? なんだか両手にスイーツ、って趣きね?」
「実は、今日の家庭科部は、紅電沿線スイーツ紀行みたいなノリで……」
「柴島先生に連れられて、紅葉野駅から南下する形だったんだよ!」
「あら、羨ましい。わたしにも、何か一つ頂戴?」
「おう! じゃあ、沙織ちゃん家の特大バウムクーヘン! まるごと委員長にプレゼントだ!」
「まあ、とても嬉しいわ、梨音ちゃん! ありがとうございます」
「なんのなんの、ほんのポケットマネーだよっ!」
「威張るな、梨音!」
「じゃあ、かなえちゃんも、急行電車に乗って帰ってみるとか……」
「それ、いいかも!」
「私達の会話って、聞かれて恥ずかしいことって、何ひとつないもんな!」
「大歓迎だよー!」
「でも、たまには猥談も少しは混じるけどねー」
「梨音は黙っちょれ!」
バシッ!
「痛い……わたしばっかり……もしかして、ぶたれやすいアタマのカタチ?」
「違う! ぶたれるようなことばかり言うからだっ!」
「ところで、かなえちゃんって、麦野原(むぎのはら)だったよね、お家が」
「そうね……急行に乗られている皆さんとは、香枚井でお別れして、楠葉(くすのは)終点まで乗って、普通電車に乗り換えなので」
「私も香枚井から、普通電車に乗り換えようかな、アホ三名は放っといて。榛名天神駅まで一駅、なにせ手短かに済むからな?」
「ええー!」
「はっとりー!! わたしはともかく、アホ属性をつけるって、そんなの梨音ちゃんが可哀想だよ」
「沙織ちゃんも、さすがにアホ呼ばわりされるは可哀想だぜ?」
「もう、冗談に決まってるだろ? さあさ、いつものコースで帰るか! 仕方がない」
「いつものコース?」
「あ、かなえちゃんは知らなかったんだよな。沙織が香枚井三丁目、梨音が春名坂小学校前、桃花は春名台団地だ。そして、わたしが、榛名天神駅前まで紅電バスなんだ」
「そうなんだー。わたしも、香枚井登下校組に混ぜてください!」
「いやいやいや、かなえちゃんは、特急メイブルライナーでびゅんっと学校まで来なきゃ間に合わないだろう?」
「それもそうね……ちょっと無理があったかな?」
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