第3話 バルト海の「沈黙の艦隊」とタコ踊り
「ギュポン! ギュポン! ギュポン……ッ!」
漆黒の闇に包まれたバルト海の海底。
道頓堀こけるは、天災科学者・由利凛が開発した深海探査スーツ『ゲルマン・タコ1号』の中で、絶望的な音色と共に身悶えていた。
「
『うるさいのじゃ、こける! その吸盤音こそが、周囲の霊圧を中和する「除霊周波数」なのじゃ! 黙ってリズミカルに足を動かすのじゃ!』
地上に待機する大型トレーラー内。由利凛は、高級そうなゲーミングチェアにふんぞり返り、特注のコントローラーをガチャガチャと操作している。
その隣では、レダーホーゼン(半ズボン)姿の嵐と、ディアンドル(民族衣装)姿の英里香が、モニターを見つめながら死んだ魚のような目をしていた。
「……由利凛。こけるのスーツの頭頂部、なんでハチマキが回転灯みたいに光ってるんだ? 狙撃してくださいと言わんばかりだぞ」
嵐が、パツパツの太ももをさすりながら尋ねる。
「あれは『道頓堀・ソウル・ビーコン』じゃ! 霊魂は派手な光と活気に集まる性質があるからの。……おっ、映ったぞ! 本命の登場じゃ!」
こけるのモニターに、巨大な影が浮かび上がった。
泥にまみれ、所々が朽ち果てながらも、鋼鉄の威厳を失っていない潜水艦・第二次世界大戦の遺物、Uボートである。
「……出た。本物や。……って、ヒッ!?」
こけるが息を呑んだ。
Uボートの周囲を、半透明の巨大な人影たちが「整列」して行進していたのだ。
彼らは当時の軍服を纏い、一糸乱れぬ動きで海底を歩いている。だが、その顔には表情がなく、ただひたすらに「規律」という名の呪縛に縛られているようだった。
「なんやこれ……。幽霊になってもまだ、任務の途中なんか」
『データ解析完了なのじゃ! 彼らは「沈黙の艦隊」としての規律を重んじすぎて、成仏のタイミングを完全に逃した「ガチガチの堅物亡霊」たちじゃ! こける、お主の出番じゃぞ!』
「わ、わかっとる! ……でも、どうやって近づけ言うねん!」
『新機能「霊的吸着サイコ・サクション」発動じゃ!』
由利凛がボタンを連打した瞬間、タコ型スーツの8本の足が、意思に反して猛烈な勢いで回転を始めた。
「ぎゃあああああ! 目が回るぅぅぅ! 誰かストップ! 止めてぇぇ!」
ギュポン! ギュポン! ギュポンギュポンギュポン!!
猛烈な吸盤音と共に、こけるは「赤い回転するタコ」と化してUボートの甲板へと突撃した。
甲板に着陸……もとい激突したこけるの前に、一人の亡霊が立ちはだかった。
他の乗組員より一回り大きく、胸には鉄十字勲章が光る。この艦の主、伝説の艦長である。
艦長は、
『Stille!(静粛に!)ここは神聖なる鉄の箱だ。無礼な軟体動物め、規律を乱す者は排除する!』
艦長が半透明の軍刀を抜く。その瞬間、海底の温度がさらに数度下がった。
「ひぃぃぃ! 艦長さん、落ち着いて! ワイはただの通りすがりのタコ……やなくて、浪速の陰陽師ですんや!」
『Keine Ausreden!(言い訳は無用!)』
艦長が剣を振り下ろす。その衝撃波で、海底の砂が爆発した。
「海里ィ! 助けてくれ! このおっさん、嵐より話が通じへんぞ!」
トレーラー内の海里が、マイクをひったくる。
「こける! 相手は『規律の鬼』や! 普通の除霊じゃ効かへん。……ええか、由利凛! 例のブツ、射出しぃ!」
『合点承知なのじゃ! 支援物資「粉もん・ミサイル」発射!』
Uボートの真上の海面から、小さなカプセルが数個、こけるの元へ撃ち込まれた。
中から出てきたのは、真空パックされた「冷凍たこ焼き」と、由利凛特製の「超高周波拡声器」だった。
「……海里、これどうすんねん」
「決まってるやろ! ドイツの堅物艦長に、浪速の『緩さ』を叩き込んでやるんや! 規律を笑いで粉砕したれ!」
こけるは覚悟を決めた。タコの足を器用に使い、拡声器を構える。
「よっしゃ……! 艦長さん、お堅い軍歌もええけど、これを聞いて魂を解き放ちぃ!」
こけるがスイッチを押すと、バルト海の深海に、耳を劈くような爆音が響き渡った。
『♪~チュウチュウ、タコかいなぁ ♪~チュウチュウ、タコかいなぁ ♪タコ焼き食べよ! くるりと回して、アッツアツ!~♪』
(↓SUNO作曲、月影流詩亜:作詞)
https://suno.com/s/mavyEGy2bfpWLyRp
由利凛が仕込んだ、「浪速のたこ焼きソング・爆音リミックス」である。
『Was... Was ist das!?(な、なんだこれは!?)』
艦長の体が、リズムに合わせて勝手に小刻みに震え始める。規律正しく行進していた乗組員たちも、足並みがバラバラになり、なぜか「カニ歩き」のような動きに変わっていく。
「今や! 陰陽奥義……『たこ焼き・
こけるはタコの足でたこ焼きをジャグリングのように回し、霊力を込めて艦長の口へと弾き飛ばした。
『Mmpf!?(んぐっ!?)』
艦長の口の中で、アツアツ(霊的熱量)のたこ焼きが弾ける。
出汁の旨味、タコの弾力、そしてソースの甘辛さ。
2000年前から続く「規律」という名の氷が、浪速のジャンクな幸福感によって、メキメキと音を立てて溶け始めた。
『……う……美味い。……なんだ、この「どうでもよくなる」ような味は……』
艦長の目から、半透明の涙が溢れる。
「せやろ! 艦長さん、世界は広いんや。狭い潜水艦で『右向け右』してる場合やないで! もっとこう、適当に、楽しく成仏しぃ!」
その時、Uボートのハッチがガタガタと開き、中から眩い黄金の光が漏れ出した。
ついに、目的の「黄金ビール」が姿を現そうとしていた。
「キタァァァ! ワイの200兆円の代わりのビールやぁ!」
だが、その光の奥から、さらなる「嫌な予感」が這い出してくるのを、こけるはまだ知らなかった。
── 第4話へ続く ──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます