第3話 一人ムスメっつ!


娘は俺じゃなく、母親と暮らすことを選んだ。

そのときのセリフがこれだ。


「お母さんのほうが、料理とか掃除してくれるし。」

わかってる、わかってる。

でもな、言い方ってもんがあるだろ。


俺だって、最近はルンバの電源ボタンを自分で押してるんだぞ?


たまに、娘が荷物を取りに帰ってくる。

そのたびに、玄関のドアを開けて元気にこう言う。

「ただいま〜……って、部屋キレイになってるじゃん?」


ふふん。掃除機の成果だ。ロボットのだけど。

ソファーで寝っ転がったまま俺は言う。


「まあな。片付けっていうより、物が減っただけだけどな。」


「ミニマリストかよ」

娘は笑いながら、冷蔵庫を勝手に開けて麦茶を飲む。


誰に似たんだこの図々しさは──俺か。


「なんか食いに行くか?」と聞いたら、

「お母さんがご飯用意してるからいいや」と断られた。


……ちょっと傷つく。


と思ったら、LINEが来た。


「今度どっか連れてってね」


ナイスフォロー。

その一言で父親は10年は長生きできるぞ。


娘とはグループLINEはやめたけど、個別トークは続いてる。

一日に数通、意味のないメッセージが飛んでくる。


「通勤電車クサい」

「今日の上司、息が昭和」

「お母さんが干渉激しくてしんどい(笑)」


……俺に言われても困るんだけど。


たまに、父親らしく長文で返信すると、

返ってくるのはこれだ。


タコのスタンプ

「キモい」


なぜタコなんだ。

いや、そこじゃない。

なぜ父を“キモい”で処理する?


でもいいさ。

スタンプでも、未読スルーでも。

娘が元気なら、それでいい。


俺は今、自由だ。

離婚して、家も時間も全部自分のものになった。


けど、

ふとしたときに、こんなLINEがまた来る。


「お父さん、充電器貸してたっけ?」

「あと、私の漫画持ってない?」


娘の私物がまだこの家にある限り、

完全に「一人」にはなれないらしい。


それもまた、悪くない。

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