第17話 地下へ続く戦い

 王城への突入は、力押しになった。


 それ以外に方法がなかった。


 城門の前には魔族が固まり、壁の上からは黒い魔力の弾が飛んでくる。門そのものも内側から補強されていた。以前のセナン王国なら、兵士たちが守っていた場所である。今は魔族の砦になっていた。


 共和国軍の盾兵が前へ出る。


 冒険者たちが左右へ散る。


 勇者たちが攻撃の起点を作る。


 煇は中央に立ち、全体の流れを見ていた。


「左の塔を先に落とす。上から撃たれると押し込めない」


 彼の指示で、数人の冒険者が側面へ回る。


 セリアもその中にいた。


 城壁の一部は手入れが悪く、ひびが入っている。そこを足場にして登り、塔の窓へ取りつく。普通なら危険な動きだが、正門を突破するよりはましだった。


 塔の中には魔族が2体いた。


 セリアは先に飛び込み、床を転がって攻撃をかわす。背後から冒険者が続き、狭い塔内で戦闘が始まった。


 魔族は強い。


 力も速さも人間を上回る。


 だが、無敵ではなかった。


 連携し、距離を取り、地形を使えば戦える。少なくとも、昨日の異形化した黎人のように、何をするかわからない相手ではない。


 セリアは1体の足元を切り、体勢を崩したところに仲間の槍が入る。もう1体が怒りに任せて突進してきたが、塔の狭さが逆に邪魔になった。


 数分後、塔は落ちた。


 上からの攻撃が止まる。


 正門側で歓声が上がった。


 共和国軍が門を破ったのだ。


 城内へなだれ込む。


 そこから先は、さらに混乱した。


 王城の廊下は広いが、戦うには障害物が多い。倒れた家具、壊れた扉、崩れた壁。魔族はそれらを利用して襲ってくる。


 地下からは、次々と新しい魔族が上がってきていた。


「召喚が止まってない!」


 誰かが叫ぶ。


 わかっていたことだ。


 だが、実際に見ると重い。


 倒しても倒しても、地下から増える。こちらは消耗する。向こうは門が開いている限り補充される。


 煇は歯を食いしばった。


「地下へ行く道を開ける。召喚陣を壊さない限り終わらない」


「場所は?」


 セリアが聞く。


「王城の中央階段から地下倉庫を抜けた先だ。だが、当然守られている」


「当然でしょうね」


 2人は部隊の一部を率いて中央階段へ向かった。


 途中、玉座の間の前を通る。


 扉は壊れていた。


 中を見たセリアは、足を止めかけた。


 玉座の間には、戦闘の跡が残っていた。床は割れ、柱は欠け、壁には大きな傷がある。そして、奥には倒れた王とズマルの痕跡があった。


 すでに兵士たちが確認した後で、布がかけられている。


 セリアはすぐ目をそらした。


 同情はない。


 だが、気分のよいものでもない。


「行くぞ」


 煇の声で、彼女は頷いた。


 中央階段へ向かう。


 そこには魔族が集まっていた。


 まるで地下そのものを守る壁である。


 戦闘が始まった。


 勇者の1人が炎の魔法を放ち、別の勇者が盾のような光を展開する。冒険者たちはその隙間を縫って攻撃する。


 セリアも前へ出た。


 剣が重い。


 体も重い。


 昨日から続く疲労が足に来ている。


 それでも動く。


 ここで止まれば、地下から魔族が増え続ける。


 その時、背後の廊下で奇妙な声がした。


「オーイ」


 セリアは聞き覚えのある、嫌な感覚に顔を歪めた。


 振り返る。


 廊下の奥に、黎人がいた。


 ただし、異形化していない。


 元の姿だった。


 小柄で、貧相で、服は汚れ、髪は乱れ、顔には妙な自信が浮かんでいる。


 魔族の力はほとんど抜けていたが、完全には消えていないらしい。言葉だけが、壊れた道具のように少し残っていた。


 なぜここにいるのか。


 どうやって入ったのか。


 誰にもわからない。


 セリアは心の底から言った。


「今じゃない」


 黎人は胸を張っている。


 魔族の力はほとんど残っていないはずだ。だが、言葉だけは少し残っているのか、半角カタカナのような奇妙な発音で叫んだ。


「オラモ……タタカウ」


「帰って」


 セリアは即答した。


 黎人は不満そうな顔をする。


「オラガ……マゾク……タオス」


「あなた昨日まで魔族側にいたでしょう」


「オラガ……ツヨイ」


「今は戻ってる」


 会話になっているようで、なっていない。


 煇は黎人を見て、すぐに判断した。


「構うな。地下を優先する」


「放っておいて大丈夫?」


「大丈夫ではないが、優先順位は低い」


 セリアはその判断に全面的に同意したかった。


 だが、黎人は勝手に前へ進んできた。


 そして、魔族のほうではなく、中央階段の隙間へふらふら向かった。


 魔族たちは彼を見た。


 一瞬、反応が遅れた。


 異形化していない黎人は、脅威に見えない。敵か味方かも判別しづらい。昨日まで魔族に担がれていた男でもある。


 その迷いの数秒で、黎人は階段へ入った。


「あ」


 セリアが声を漏らす。


 煇も目を細めた。


「通ったな」


「通っちゃったわね」


 魔族たちが慌てて追おうとする。


 だが、その動きで守りが乱れた。


 煇はすぐに叫ぶ。


「今だ! 押し込め!」


 連合部隊が一気に前へ出た。


 黎人が意図せず作った隙だった。


 セリアは舌打ちしながら剣を振る。


「本当に、使い道だけは変なところにあるわね!」


 地下へ続く階段の奥から、黎人の足音が遠ざかっていく。


 彼が何をしようとしているのかはわからない。


 わからないが、嫌な予感だけは全員にあった。


 その予感は、だいたい当たる。

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