ミスフォーチュン・クッキー 3
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僕は、幸福になる手段を手に入れた。ソレは、初対面なのに何故だか信頼に値する男性から譲り受けた。ソコが何処だったのか、ソノ男性がどんな顔をしていたのか思い出せないが……場所だけは何処にでもありそうな交差点だった。
「え〜と、所有者の名前は、河野ロアム。柏木高校二年の男子学生だ。母子家庭で、父親は三年前に事故で死んでるな……兄弟はいねぇ、一人っ子だ」
デビルクラフトの回収に来た私達は、レシピの現所有者「河野ロアム」を尾行しながら彼に関する情報整理をしていた。何というか普通の男の子だな……名前以外は。
「真、ロアムの第一印象はどうだ?」
「ん、ん〜〜何と言うか普通だよね。派手に飾っている訳でもないし、魅力を纏った魔力を漂わせている訳でもない。デビルクラフトを所有している人にしては普通すぎるかな。ただ、」
「ただ? 何だ⁉︎ 何か気になるとこでもあんのか?」
「……ロアムって名前、変じゃね?」
シキは、何かに躓いたようにバランスを崩した。
「おい‼︎ くだらねー事に気を取られてんじゃねぇ。アタシは、お前の眼で視たロアムの第一印象を聞きてぇんだよ。お前の魔眼能力、アプレイザーの力でよぉ!」
「そう言われてもさ、名前くらいしか変わってるとこ無いんだもん。私の眼で観てもガチでその辺にいる男子高校生だよ。ロアム君は……」
ロアム君の後を二人で歩く。歩調はそのままに、シキは彼との距離を測りながら私に視線を向けた。
「真の眼で観ても『普通』なら、本当に普通のガキなんだな。デビルクラフトを手に入れてから日が浅いのか、それともあまり使用していないのか?」
「う〜ん……微かだけど悪魔と人間が混ざったような独特の魔力が滲み出ているから、使ってはいるみたいだけど。」
「ふ〜ん、ならアタシ達が来たタイミングが良かったんだろうな。よし、真。ロアムに話しかけてデビルクラフトを奪い取って来い!」
「えっ⁉︎ 奪い取って来いって、私はコミュ障で暴力反対勢なんだけど……」
シキは、無理くり私の背中を押してきた。
「ちょ、シッキーやめッ……」
結果、ロアム君の真後ろに突き出され、彼が振り向く……しょうがない、覚悟を決めるか。
「あ〜……河野ロアム君だよね?」
「はい?」
ヤッバ! 悪魔と話すより緊張する。顔はまぁ、好みの男子という訳では無いが、緊張のせいで鼓動が早い。そもそも、私の好みの男子ってどんなんだっけ?
そして、向き合ったロアム君は何故か私を一見して「ああ、またか」と言わんばかりに軽くため息をついた。ん……何故にため息を?
「あの……失礼だけど、君の名前を聞いていいかな?」
「? ……綿津見 真だけど。」
「マコトちゃんかぁ〜〜……」
「は?」
マコトちゃん⁉︎ 何だコイツ! メッチャ馴れ馴れしいな……よし、これからは私もロアムと呼び捨てにしてやろう。
「いやぁ、マコトちゃんの気持ちは嬉しいんだけど。僕、彼女がいるからさ。悪いんだけど、君とお付き合いは出来ないかな」
ロアムは髪をかきあげ、爽やかな表情で私に……
「って、……は? はぁッツ⁉︎」
コイツは何を言っているのだろう? まさか、私が愛の告白をしに来たと……そう思っているのだろうか?
というか、私まだ何も言ってないよね? 何故に愛の告白だと思った⁉︎ コイツの思考回路ヤバいだろ。ああ……どうしよう、暴力反対勢の誓いを破ってコイツの顔面に右ストレートをぶち込みたい。
「おい! ロアム‼︎」
と、そこで何故かシキがしゃしゃり出てきた。人間との交渉は、高みの見物が多いのに。何か急を要する事態でもあったのだろうか? 例えば……他の悪魔がレシピを奪いに来たとか⁉︎
「ロアム、テメー……」
シキは、鬼気迫る表情でゆっくりとこちらに歩いてくる。ロアムもその気迫に圧されて、たじろいだ。シキはロアムの真正面に来ると……
「真がテメーなんかと付き合う訳ねぇだろうが!」と、吐き捨てた。
……なんじゃそりゃ。私は、何だか気が抜けてしまった。
「あ、ごめん……君は?」
「ロアム、ちょい待ち。これ以上は話がややこしくなるから、私が説明するよ」
今すぐロアムに噛みつきそうなシキを引き剥がし、私達は近所の公園に向かった。
その公園は、住宅街の中に申し訳なさそうに造られた小さな公園だったが、遊具が少なく小さな箱庭のような造りが私の好みに刺さった。……今度プライベートで来ようかな。
私達は、改めて自己紹介をして事の経緯を話した。
「……という訳なんだ。私達は、ロアムが持ってるクッキーのレシピを回収しに来たんだよ。私と一緒にいるこの目つきの悪い娘……黒井木シキは悪魔で、君が持ってるレシピは悪魔が創った危険な物だから私達に渡して欲しいんだ。」
「…………」
うん。毎回、同じような説明を所有者にしているが……いつ聞いてもブッ飛んだ話である。
そして、大体この話をしても所有者の方々には信じてもらえない。
「なるほど……うん、渡すよ……」
「え? あ、私の話……信じてくれたんだ」
「うん。僕も、このレシピが普通じゃ無い事は分かっていた。実際に使用してみて、どう表現したら良いのか……感覚的に理解したんだ」
「あ、そうなんだ……なら良かった。じゃあ、早速だけど……」
「だからこそなんだ、マコトちゃん。」
「君達の話で、僕の感覚は確信に変わった。だからこそ、渡すのは少しだけ……あと一日だけ待って欲しいんだ」
「おいロアム。『待って』てのは、どういう意味だ? テメェ、アタシ等の話聞いてたよなぁ? そのレシピが危ねぇモンだって理解した上で待てって……それは、まだ使うからって意味だよなぁ?」
珍しくシキが会話に絡んできた。シキが人間に興味を持つのは、敵意を持っている時か、その人間を気に入った時だけだ。
「どうなんだよロアム。テメーはまだ、自分の幸せの為に他人を不幸にしてぇのか?」
シキがロアムに詰める。どうやらシキの興味は敵意だったみたいだ。
「……三年前、僕の両親は交通事故に巻き込まれた。」
「その事故で父は即死。……母は、一命を取り留めたけど意識が戻らない。今も病院のベッドで寝たきりさ」
……シキからは、母子家庭と聞いていたからロアムの母親は健在なのかと思っていた。
だけど、事故の影響で意識不明だったのか。シキの感覚では、確かに母子家庭ではあるのだが……認識が雑だな。
「ロアム……そんな事情があったんだね。大変だったでしょ?」
「まぁね、不幸という点なら僕の家族はこの上無い不幸を既に背負い込んでいるんだよ。いや、まだ足りない。だって、母は父が他界した事すら知らないのだから……」
「フン、それでロアム。テメーは何の為にまだレシピを使うんだ? その背負い込んだ不幸を他人に肩代わりさせれば、テメーの親が目を覚ますとでも思ってやがんのか?」
「はは……他人に不幸を背負わせるなんて、そんな恐ろしい事は考えていないよ黒井木さん。ミスフォーチュンクッキーは、僕が作って僕自身が食べているんだ」
「おいおい、レシピのクッキーは他人に食わせて初めて効果を発動させるんだろうがよ。自分で作って自分で食ったら、ただのフォーチュン・クッキーじゃねぇか」
「いや、そうでもないよ黒井木さん。このレシピには特記条項という所有者にしか読めない所があるんだ。僕にレシピを譲ってくれた人が教えてくれたんだけど……」
ロアムは鞄から古びた羊皮紙みたいな物を取り出した。
……強力な魔力を帯びてる。ミスフォーチュンクッキーのレシピはこれか。
「記述によると『自身で作ったクッキーを自身で食べると、不幸の前借りが出来る』とある。僕はね、自分が不幸になり続ければ母が目覚めると信じているんだよ。」
「不幸が底を突けば、後は幸福しかないでしょ? 僕にとっての幸福は母が目覚める事だからさ」
ロアムの持っているソレは、紛れもなく私達が回収する予定のデビルクラフトだ。
だが、現所有者はロアムなので、他者に読む事は出来ない。それどころか、触れる事も出来ない。
シキもそれを理解しているので、レシピを覗き込んで……
「チッ、なんて書いてあるか読めねぇよ」と憎まれ口を叩いた。
「まぁ、そうだろうね。どうやらこのレシピは、僕以外には読めないみたいだし。この前も僕の……」
「ロアム、ちょっと私にも見せてよ。」
「え? ああ、いいよ。」
「…………うん、シッキー本当にあるよ特記条項。ロアム、この下の方に殴り書きで書いてあるヤツっしょ。」
「えっ⁉︎ マコトちゃん読めるの?」
「僕の彼女も、黒井木さんも読めなかったのに!」
……私は、ヘテロクロミアという左右の目の色が異なる珍しい眼の持ち主だ。五万人に一人という割合らしいのだが……色違いの私の左眼は、どうやら物凄く貴重でレアな能力を持った魔眼らしかった。
なんでも、「アプレイザー」という魔眼らしく。悪魔の魔力や能力を鑑定・解析出来る能力が備わっているとか……。私自身、シキに教えられて初めて知ったのでそれ以上の事は知らないんだけどね。
そして、これこそがシキが私を頼る理由でもある。そう、シキは私の身体だけが目的なのだ。所詮わたしは、それだけの女って事なのさ……
「あの、マコトちゃん?」
「ん? あ……ごめんロアム聞いてなかったわ」
「おま……人の話はちゃんと聞いとけよ! 今、ロアムにレシピ渡したヤツの事聞いてたんだよ。新しい手がかりが見つかるかと思ったけど……ダメだったな。」
「はは……ごめんね。黒井木さん」
デビルクラフトを人間界で捌いているヤツか……ロアムは「レシピを譲ってくれた人」と言っていたが、レシピを渡したのは悪魔だ。ソイツは、交差点で人間にデビルクラフトを渡しているので……私達は、「クロスロードの悪魔」と呼んでいる。
その悪魔は、盗んだデビルクラフトを人間に渡して特殊効果の試し打ちをさせる。実践データを取り終えたら使用者の状況なんてお構い無しに強奪、魔界に戻り売り捌くのだ。
クロスロードの悪魔は、私の仇であり……シキの敵なのだ。
「フン、まぁいいさ。ヤツの事を憶えて無いのはロアムのせいじゃねぇからな」
「それにしてもロアム! テメェさっき不幸の前借りと簡単に言ってやがったが、最悪の場合あと一回使った結果、お前は死んで母親も目を覚さねぇかもしれねぇぞ。それでもまだお前はレシピを使うのか?」
「うん。僕は、レシピを使うと決めた時に、その覚悟もしている。黒井木さんとマコトちゃんには時間取らせてしまうけど、あと一回だけレシピを使わせて欲しいんだ。」
「これから病院へ、母のお見舞いを済ませたら今夜中にクッキーを完成させる。明日の朝には二人にレシピを渡すよ。」
「フン、顔に似合わずいい度胸してんじゃねぇか……どうするよ真?」
なんだろ、シキはよくロアムに絡むな……ひょっとして、ロアムの事を気に入ったのか? 私とは身体だけ……いや、左眼だけの関係なのに。何だかジェラシー‼︎
とはいえ、正直ロアムの計画が上手く行ったとして……母親が目を覚ましてもパートナーの死と三年経った。という残酷な現実を叩き付けられるだけのだから、このまま目覚めない方が幸せなのかもしれない。
……だが、それでは何も変わらない。ロアムは自分が犠牲になってでも先に進む覚悟があるのだ。残酷な現実も乗り越え光を見る覚悟が。
「オッケー分かった。ロアムがそう決めたんなら、レシピは明日の朝に回収させてもらうよ。でも、一つ条件がある。今から明日の朝まで、ロアムには私達と行動を共にしてもらう。もちろん、これは逃げられたら困るって監視の意味だけどね。」
ロアムは、私の我儘を快く承諾してくれた。シキは物凄く面倒そうな顔をしていたが、私はロアムの見る光に興味があったし、何よりこの家族の結末を見届けたいと思ったんだ。
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