ミスフォーチュン・クッキー 2

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 チーズバーガーを食べ終えたシキは、懐から手帳を取り出しテーブルに広げた。手帳には、とても綺麗な字体で依頼内容の詳細が書かれている。丁寧に内容が纏まっていて読みやすいな。


「あんましジロジロ見るんじゃねぇよ。お前の眼で視られたら全部読まれちまうじゃねぇか」

「ん、ああ……ごめん。」

「さて今回、回収予定のデビルクラフトだが……」

「はい! シキ先生。デビルクラフトって何ですか?」

「……おいおい、ふざけてんのか真? つい三ヶ月前、一緒に回収したばっかだろうが。まさか、忘れたとは言わせねぇぞ?」


 ……もちろん私は、デビルクラフトの事を憶えている。というか、仮に回収したのが一年前だったとしても、あんなに刺激的な出来事は忘れない。

 だが、シキは「友達の私」を、三ヶ月も放置したのだ。挙句、姿を見せたら間髪入れずお仕事の話。この、シキの態度に私は怒っているのだ! だから、シキには全てを説明させるという罰を与える! ククク、私を蔑ろにした罪を味わってもらおうか。


「ごめん、忘れちゃったから説明してよ……全部。」

「全部ゥ⁉︎ お前……ふざけッ」

「おや? そんな口きいていいのかな?」

「ルール一『悪魔さんは、行動計画を説明した上でクソ人間に承諾してもらう必要がある』と、ルール二『悪魔さんは、クソッタレな人間と行動を共にをしなければいけない』」だっけ、シッキー?」

「クッ……テメェ、分かっててワザとやってやがんな。」

「え〜〜ワザと? 私、マジでデビルクラフトが分からないんですけど?」

「クソがッ!」


 シキ曰く、人間界で活動する悪魔には「ルール」というものが存在するらしい。これは魔界と人間界で取り決められた法律みたいなもので、違反すると様々な罰則があるようだ。その為、特に強力な悪魔は、人間に対しルールに準じた行動をする必要があるらしい。


 シキは、ウンザリした顔で口を開く。


「デビルクラフトは、悪魔のハンドメイドアイテムだ。主に、力のある上位の悪魔が趣味で制作するモノで、種類は様々な物が存在する。アクセサリーや衣服にインテリア雑貨、ボードゲームなんてのもあったな」 


「しかし、悪魔ってのはタチの悪い洒落が大好きでよぉ。デビルクラフトにも、その用途とは別に洒落の効いた特殊効果を付与している事が多い。例えば、『好きな奴と絶対に結ばれる指輪』とかだ。」

「このアイテムの用途はペアリングで、装着したペアの愛を約束するモノだ。だが、相思相愛じゃ無くても、同性同士でも装着しちまえば効果を発揮しちまう。こんな感じで、上位の悪魔にとっちゃギャグの範疇で付与した特殊効果なんだが。人間にしてみれば運命を変えてしまう程の危険な代物なんだ」


「なるほど、なるほど〜〜。デビルクラフトって怖いアイテムなんだね」

「それで、シッキーはどうしてデビルクラフトの回収なんてお仕事をやってるの?」

「ファ⚪︎ク! まだやんのか、くそったれ!」

「うん。ニシシ……まだやってもらうよシッキー」

「……アタシ、タロトの……おっと、人間界では黒井木シキだったな。」


「アタシ、黒井木シキは盗難されたデビルクラフトの回収屋だ。人間界で実績が作れたアイテムは、魔界で高値の取引がされる。その前に回収して持ち主の元に返すのがアタシの仕事さ。」

「稼ぎも良いし、他の上位悪魔にも恩が売れるしで至れり尽くせりなわけだ。」

「……真、これくらいでいいか?」


 シキの辟易とした顔を見たところで、ようやく蔑ろにされた私の気持ちは収まった。


「うん、デビルクラフトもシッキーのお仕事も理解しました。」

「……しかし、なんだかなぁ。改めて聞くとシッキーって性格悪いよね」

「バカお前、アタシは半分善意でやってんだから、どちらかと言えば性格良いだろ。人間の金持ちの方が性格悪ぃって」

「そうかなぁ、それはそれで偏見だと思うけど?」

「フン、どうでもいいわ。そんなもん! それより、説明が終わったから早速、今回のお仕事内容を話せせてもらうぜ」

「りょーかい。」


「今回、回収依頼があったデビルクラフトは、『幸せを呼ぶミスフォーチュンクッキー』……のレシピだ。つい最近盗まれて今現在は、人間が所有している」

「依頼者曰く、このレシピのオシャレな特徴は、クッキーを作った奴の不幸を、クッキーを食った奴に肩代わりさせる効果があるらしい。『箪笥の角に足の小指をぶつけるくらいの不幸と、ほんのりビターな味わい』が楽しめるクッキーレシピだそうだ。」


「……ププ……」

「なんだ真? 今の話で笑うような面白いとこあったか?」

「というかシッキー、それ回収する意味あるん? てか、プフフフフ……箪笥の角に足の小指ぶつけるとか、地味に嫌な不幸だね。」

「いや、真。実際コレはあまり笑えねぇんだぜ。不幸のみを他人になすり付けるとか、結構やべぇ。しかもそれが、気付かない程に『小さな不幸』ってのがマジに厄介でヤバイ」


 私は、シキの話を聞いて少し考えた……


「……そっか! さっきシッキーが言ってた不幸と幸福の話。A4コピー用紙の裏表。」

「不幸だけを他人に流すとか、一見すると美味しい話だけど……それは結果として流れた先の人。他人の不幸になるのか」

「そうだぜ真、お前の言った通りだ。そいつ自身に訪れる不幸の量は絶対変わらないんだ」

「ミスフォーチュンクッキーを使わなくなった途端に、今までプールされてた不幸は一気に流れ出す。まるで、決壊したダムの水みたいにな」


 ゴクリ……と、自分が生唾を飲む音が聞こえた。


「まぁ、アタシはこのデビルクラフトを使用した人間がどうなろうと知った事じゃねぇし。自業自得だなと思うだけだが、人間をオモチャにしたい悪魔なら、横取りにしてでも欲しいと思うだろうな」

「確かに。悪魔の行動原理は基本、『おもしれぇ』だもんね。不幸を肩代わりした人間が悶えるのも、デビルクラフトで破滅した人間を観察するのも、悪魔からしたら最高のエンタメになるね」


「……よし! 早いとこ回収に行こうかシッキー。この前みたいに、強い悪魔がそのレシピを横取りに来るかもしれないし。」

 私は、今すぐにでも出発しようと席を立った。以前、シキが「何でお前は見ず知らずの他人の為に動けるんだ? 自分には何にも得にならんのに」とボヤいたことがあった。

 その時の私は、「デビルクラフトが悪い悪魔の手に渡ったら、私の様に一人になってしまう人が増えるから。」と答えたっけ。


 ……何故、今この事を思い出したのか分からないけど。私は、行動するなら早い方が良いと思った。すると、シキは私の腕を掴んで口を開く。


「まぁ、待てよ真。レシピを所有している奴の住所は押さえてある。場所もここから遠くねぇ……そいつは高校生だからよぉ、帰宅時まで待ってから行こうぜ。」

「ほら、お前の大好きなブラックコーヒーも、まだ残ってんだろうが。とにかく座れ」

「ん。そうなんだ……近いならまぁ。確かに、アプローチするなら帰宅時の方が良いかもね。しかも、私のコーヒーまだ残ってたか」

「真、やる気あんのは良いけどよ、少し落ち着いて行こうぜ。所有者との交渉はお前に任せるからよ、上手い事頼むぜ。……アタシは今時のガキが好きな話題とか、流行りのナウい事とか知らねぇんだからよぉ」


いけない、いけない……シキの言う通り、早い行動が良いとは限らないんだから。もう少し考えて行動しないとな。私は、自戒の念と共に好物のブラックコーヒーを一口飲んだ。


「フゥ……シッキー。……実は、私も流行りとかナウい事とか、全く知らないんだ」

「……いや、自信満々にドヤ顔で言うなよ。」

 

 



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