クロスロード 〜ユニークアイテムの回収屋は女子高生の最恐タッグ!?〜

六道修羅

ミスフォーチュン・クッキー 1



                            

  1/

       

 底冷えするような冬の寒い日。三ヶ月ぶりに顔を見せた黒井木シキは、「幸福」について私に問いかけた。


「なぁ、真……人間の人生でよ、幸福と不幸ってどっちが多いと思う?」

「ん? 不幸。」

 私が即答すると、シキは掛けている丸眼鏡を人差し指で直し。

「……お前、即答かよ。話振ったアタシがつまんねーじゃねぇか」と、憎まれ口を叩いた。


 ファストフード店、百舌鳥バーガーの店内で私の正面に座る少女。……いや正確には、少女の姿をした悪魔なのだが。


 彼女の名前が「黒井木シキ」である。背丈は私よりも小さく、測った事は無いが多分、百五十センチくらいだろう。


 胸も身体もスラッとしていて、大きめな黒紫のセーラー服を着用し、特徴的な漆黒のローブを纏ってる。丸眼鏡に猫背だが、顔は人形のように整った綺麗な娘だ。でも、服装がなんか痛い……


 傍から見るとイモくさい女の子。「アニメオタクの少女」か「妙な服装のちんちくりん」と、いった感じだろうか……。どちらにしても、他人が一見した見た目の印象なんてロクなもんじゃない。相手の一番大事な所は、時間をかけて向き合わないと解らないのだから。


「あのさ、シッキー……ちょっとは考えろって言われてもさ。どれだけ考えようが人生において圧倒的に多いのは不幸の方でしょ。仮に、幸福の方が多いのなら大多数の人間はこんなに卑屈になってないって。」


「おい、真。『シッキー』言うな! いいか、アタシはそんじょそこらの悪魔じゃねぇんだぜ?すげぇ上位の悪魔なわけよ。魔界じゃ本名の『タロト』って言やぁ、みんなブルって下向くんだからよぉ。人間のテメェは、敬意を持って『シキ様』って呼べよな」


「え……でも、友達を『様づけ』で呼ぶのって、なんか違くない?」


「クソが! いつからアタシがテメーのダチになったんだよ⁉︎ アタシはテメーより上位の……はぁ、もういいや。マイペースのお前に言ったところで、何も変わんねーんだったわ」


 シキは、軽くため息をついて眼鏡を直した。私に友達と呼ばれるのは嫌なのか……それなら、今度からは「友達様」とでも呼ぶことにしようかな。


「真、さっきの話だが、アタシが聞きてぇのは物事の捉え方な訳よ。価値の比率つーか……」


 そう意味深な言葉を放った後で、シキは好物のチーズバーガーを口にした。所謂、お口にチャックの状態だ。つまりは、「今のアタシの言葉を聴いて、もう一度よく考えろ。」という事だ。


「……ふぅん、比率ねぇ。じゃあやっぱり不幸の方が多いよ。幸福は人生においてスーパーレアな訳だからさ。だからこそ、幸福が舞い降りた時にはハッピーになるんでしょ?」


 この私の返答を聴いて、「待ってました!」と言わんばかりに、シキは満面の笑みを浮かべる。


「クククク……真ぉ、なんだかんだ言って、お前もただの人間だよなぁ。

うん、模範的な人間の考え方だ。」


 どうやら私の答えは彼女にとって不正解だったらしい。それにしても、これでもかという卑屈な笑顔だ……正に悪魔的。


「シッキ〜……もったいぶらないで答えを教えてよ。なんかその顔、リアルにイラッとくるわ。」

「ケケケ……教えてやるからイラつくんじゃねぇよ。実はな、生きとし生けるものに訪れる不幸と幸福は同じ量なんだよ。A4コピー用紙の表と裏みたいによぉ……寸分違わず同じ比率なんだよなぁ。」

「同じ?……じゃあ、何で目の前に幸福が訪れると……」

 

 ここまで言って、私はシキが言ってた「物事の捉え方」の意味が分かった。


「なるほど、そういう事。幸福も不幸も同じ量が訪れているけれど、当の本人は「それ」を幸福だと気付けないって事か。」

「大正解だ真! 人間ってヤツはよぉ、テメーに都合の悪い事は不思議と見えなくなるもんなんだよなぁ。だから目の前にある幸福よりも、ちっせえ不幸の方に目が行っちまう。」


「この前、占ってやった人間もよぉ『平穏な人生がアンタの幸福だ』って言ったら……『私に訪れる幸福は、そんなショボいもんじゃない! 私は呪われているんだ! 私は不幸なんだ‼︎ 金返せ‼︎』とか、喚き散らしやがったんだぜ?」

「だからよぉ……『テメェに大きな幸福が訪れんなら、その分デケェ不幸も訪れるって事なんだよ‼︎ このバカがッ‼︎』って言ってやったんだ」


 ……若干、早口で畳み掛けるシキの一人芝居は観ていて楽しい。


 でも、シキの言う通り、小さな幸福に盲目となるのは頷ける。私達は自分が一番可愛いのだから……少しでも嫌な事があれば、平和で豊かな日常が広がっていても「不幸だな。」と思ってしまうものだ。


「そうだねシッキー……身の丈に合った幸福と不幸の比率が一番幸せなのかもしれないね。」

「だろ?実はこうやって、雑談しながらチーズバーガー食えてるアタシ達は、スゲェ幸福なのかもしれねぇんだぜ?」そして、シキは再びチーズバーガーを頬張った。


「それでシッキー。今回、久々に姿を見せたのって、お仕事の依頼って事だよね?」

「あ? 何でだよ??」

「いや、三ヶ月も私をほったらかして急に現れたからさ。……別に良いんだよ、私はその為の女なんだからさ」 

「何だ? その意味深な物言いは……お前、怒ってんのか?」

「いんや〜〜……別にぃ〜〜」

「…………」

「わかった、わかった、正直に言うよ。確かに仕事の依頼で来た。だがな、メインは憩いだ」

「憩い? それってまさか、私と一緒に……」

「そう、お前と一緒に……チーズバーガーを食う事だ。」


 ……私の中で、何かが音を立てて倒れた。


「いやぁ〜〜、魔界だとハンバーガーショップは無いからな。アタシの唯一の楽しみは、百舌鳥バーガーでチーズバーガーを食う事なんだ⭐︎」

 言い終わると同時に、シキは残りの好物を口の中に入れた。


「むぐむぐ……さて、『綿津見 真』お前には、アタシがこれから話す内容を聞いた上で依頼を断る権利もあるし、受ける権利もある。承諾したか?」


 シキの……いや、悪魔が人間と交わす、いつものルール確認が始まる。


「あ、はぁ……そうっすね。承諾しました」

「よし! じゃあ、改めてお仕事の話をしようじゃねぇか。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る