第7話 形
まだ6月だというのに、蒸し暑さが日に日に増している。まだ、夏季略装の認められている時期ではないので、俺はひどく落ち込んだ。
長い坂道を上っている途中、武に出会った。
「もうすぐ7月だな」
こいつは俺より随分先を生きているようだ。
「7月ってまだ随分先だろう」
「いやすぐだね。今年の夏こそ、彼女を作って見せるぜ!」
「なんだって、夏なんだよ」
照らす太陽に熱されて溶けてしまいそうだ。
「ちっちっち、わかってねぇな天城はよ。夏と言っちゃあ、一緒に海とかプール行ったり、二人で宿題せっせと解いたり、そしてしまいにゃあ花火大会でキス!ってのが定番だろうがよ!」
「そんなもんか?」
なにぶん、彼女を作ったことはあっても、パートナらしいべたなイベントは一切やらなかった。俺にとって彼女を作るとは、自分の社会的地位を向上させるためのものだったのだ。そんなのひどいよと言う人もいるだろう。しかし、未来の自分を考えた時、どうしても気になってしまうのだ。俺の恋の形は変なのだろうか?
「俺にはわからねぇや」
俺は気を使ったつもりなのだが、武は俺が適当にあしらったように思ったらしく、不機嫌になった。
この時、ふと漆原のことを思い出して、そして首を振った。
*
教室はいつもにまして賑やかだった。と、言うのもおそらく漆原がまだ来ていないからであろう。今日は俺が奴に勝ったようだ。しかし、どうやらそうではないらしい。彼女のカバンが置かれているのだ。どこへ行ったのだろうか。百瀬もいない。
しかし、しばらくの間彼女は現れず、現れたのは始業5分前と超ギリギリだった。
「おはよう」
漆原に話しかけられて俺は、酷く驚いた。もちろんそれはクラスメイト
も同じで、それはもう衝撃的だった。
「お、おはよう」
俺は驚きながら、やっと声を絞り出すと、じっとこちらを見ていた彼女はようやく席に着いた。
「おい、どうやってあのお嬢様とお近づきになれたんだ?あ゛?」
授業が終わった後、漆原と百瀬はまたどこかへ行ってしまった。武は真っ先に俺の席に来て聞いてきた。が、聞いてるのはこいつだけではなく、クラスメイトみんなが注目していた。
俺は気まずくなった。
「そんなの、わかんねぇよ。俺そもそもあいつとちゃんと話したことないし」
「え~~っ!?」
クラスメイトが驚きの声を上げた。
「あの女王様が一度も話したこともない男子に挨拶を~?そんなん絶対おかしいね。なにかあるはずだ……あの恥じらっているような顔、天城お前まさか昨晩!?」
「は?一旦ストップ!話飛躍しすぎ」
「でも、やっぱりおかs……」
丁度その時先生が入ってきたので、武含めたクラスメイトはしぶしぶ自分の席に戻っていった。その時、漆原と百瀬も帰ってきた。
めんどくさいことになってきた、と俺はため息をついた。
*
私は学校に着いたあと、真っ先に白雪の席に行った。
「ちょっと来てくんない?」
彼女は小さく頷き、私についてきた。
屋上に着いた時、私はフェンスに手をついて、彼女に問いかけた。
「白雪、最近ちょっと元気そうだよね」
「そうかな」
「うん、まるで誰か新しい友達とかでもできたみたい」
彼女に緊張が走っている。
「白雪、誰か友達でもできたの?」
「いや、奏多以外には……」
彼女に歩み寄ると、彼女は顔をそむけた。
「あのね白雪、私見ちゃったんだ~。白雪が男の子とカフェから出てくるとこ」
彼女は顔が青くなり、小刻みに揺れている。私は気にせず続けた。
「もしかして付き合ってるの?え?付き合ってないの?まぁいいけど……よかったねおともだちができて」
「その……ご、ごめんなs」
私は彼女の言葉をさえぎって言った。
「私以外の人間と友達になるなって言ってきたよね?ねぇ、どうして?小中高、ずーっと同じ学校にしてシンユウやってきたのになんで、今更になって、約束破っちゃうの?ねぇなんでよ?私との関係はどうなっちゃうの?もっと、私を見てよ。他の子なんか見ないで!あなたには私だけ、私だけが必要なの!やっぱり、閉じ込めておくべきだった、あの父親をもっと堕として、あなたを手に入れるべきだった。でもそれってあなたのためにならないでしょ?ねぇおねがい、おねがいよ」
私の言葉のマシンガンに圧倒された白雪は、体を縮めこんで、震えていた。
私はやさしいからその肩にポンと手を置いて言った。
「あの天城とか言うやつに、最後の挨拶をして、それで彼との関係も終わりにする。簡単でしょ?」
「パ、パパには……手を出さないで……」
「言うこと聞いてくれてるうちはね。もし、次約束を破ったら……今度こそ、あなたの父親をダメ人間にして、あなたをおうちに連れて行って縛っておいてあげる」
私が白雪のネクタイを引っ張ると、彼女の首がきつく締まり、苦しそうな顔を見せた。私はその姿がとてつもなく愛おしかった。彼女の父親はクズだけど、白雪は違う。私だけのかわいいかわいいシンユウ。
私は首を絞めたまま、彼女にキスをした。
「だいすき」
私がネクタイを離すと、彼女は苦しそうなポーズをとり、必死で酸素を吸い込んだ。
そうして、彼女の最後の挨拶を見届けた。
*
放課後、俺はいつもの公園に来ていた。
俺の体から吹き出すとめどない汗は、シャツの貯めることのできる水量の上限を既にに超え、ぽたぽたと垂れてきていた。
地球温暖化かなんかは知らないが、最近は嫌に暑い。7、8月はどうなってしまうのだろうか。
あの広場に着くと、そこにはユキではなく百瀬奏多が居た。こちらに気が付いていた様子で、体はこちらに向いていた。
「白雪はこんなところに来ていたのね。あなたは天城くん?」
「ああ」
百瀬がいることで、さらに確証が付いてきた。やはり、
「ここで、白雪と放課後あっているらしいね」
「……そうだ」
すこしの間、沈黙が起きた。先に口を開いたのは百瀬だった。
「要件は一つだけ、もう金輪際白雪とはかかわらないで欲しい」
「どうして」
「どうしても。本人からの手紙も預かってるわ」
俺はその手紙を受取ろうと手を伸ばす。が、百瀬は手紙をつかんだまま、こちらを見た。
「でも、いきなり他の奴がきて、もう今後一切かかわるなってひどくない?」
「たしかにそうだな」
「だから取引しましょ」
「取引だぁ?」
俺の察しが悪いのかもしれないが、俺はすぐには分からなかった。
「そ。狙ってた女の子を奪われたキミに提案があります」
すこし改まって言っている感じがあった。狙ってた女の子が引っ掛かるが、まあ良しとしよう。
「私と付き合って」
風が吹いた。
「君も夏に彼女がいないってのはちょっと周りの目が痛いんじゃない」
「だからって夏が近づいてきて、急に付き合うのも違うと思うけどね」
「いいのよ。ふんわりやれば」
俺は漆原の手紙を受け取った。
「考えといてね」
そういって彼女は帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます