第8話 メッセージ

 真夜中、俺は一人で部屋にこもって考え事をしていた。

 机に向かって手をつき、しばらくそのままだったが、やがてため息をついて体を起き上がらせた。

 俺は漆原の手紙を再度読む。


天城君へ


 大変急な連絡になってしまい、申し訳ないです。

 なんと!私がユキでしたー!だなんて、今更過ぎますよね。

 バタバタしていて、もうかかわらないでほしいということを直接言えなかったのは、本当に申し訳なく思っています。

 楽しい毎日をありがとうございました。


                                 漆原白雪

 

 文は短く、文頭から最後の一文字まできれいな字でまとめられていた。漆原の字だ。

 俺は手紙を机に置き、携帯と持ちかえる。

 どうやら、漆原が俺とかかわりたくないというのは本当らしい。ゲームの方も確認したが、ブロックされているのか返信はなかったし、ログインしている様子さえないウように思われた。どこがいけなかったのか、嫌われたのか、これからどうやっていくのか、頭の中に渦ができるのは自然なことであろう。

 しかし、そんなことを考えていてもきりがない。

 漆原は本当に、何らかの理由で俺と縁を切りたいらしい。

 俺は目を携帯に向けた。

 連絡先を交換した百瀬から、連絡が入っている。


 どう?決めた?


 付き合ってほしい、と入力するすんでて踏みとどまる。

 本当にこれでよかったのか?

 俺は弱い男なのだ、と思う。

 漆原ともう会えないと思うと、胸が閉まるような気持ちになる。なのに、何もできない。

 あの疑念も晴れ、俺は純粋に漆原白雪について考えていた。なのに、こんな紙ペラ一枚で、彼女の気持ちを推し量ろうとしている。

 ここで、涙を流せたらドラマチックだったのに、俺は流せなかった。代わりにどんな顔をしていたかはご想像にお任せする。

 もう少しだけ、考えさせて。そう入力し、俺は決心を固めた。


                  *


 次の日はいつもより早く起き、急いで学校に向かった。

 夏の日差しがいよいよ本格的に肌を刺し始めてきたが、今日は気にしなかった。

 漆原に直接話を聞く。

 そうでないと納得できなかった。

 俺は足を速める。坂があろうと、なんだろうと関係がなかった。

 学校に着くと、見慣れない笹が目に入った。それを囲んでいくつかの生徒が、何か書いた紙を枝にひっかけている。

 七夕だ。

 もうそんな季節だったのか、と熱さに気づき、そして玄関に入った。

 教室に着くと、誰もいなかった。漆原はいつも登校時間がまばらなので気にしなかった。そんな日もあるだろう。そう思って、席に着いた。


「漆原が学校に来てから聞こう」


 固い決意だった。絶対にやろうと思った。

 それがいけなかったのか、はたまた神のいたずらか。


「それ、どういうこと?」


 そこには百瀬がいた。

 しまった、百瀬が来ることをすっかり忘れていた。

 俺はがたっと椅子から立ち、必死でなにか言い訳がないか探した。が、見当たらない。

 俺は冷や汗をタラタラ流しながら、百瀬の方を見た。


「もう白雪に一切かかわるなっていったよね?」


 すごい気迫だった。が、俺の決意の固さも負けてはいない。


「納得できないよ!あんな手紙だけで。本当かどうかわからないじゃないか。本人の口からしっかり言ってもらわないと……」

「五月縄い」


 百瀬は駆け寄ってきて、背伸びしたかと思うと、俺を口をふさいだ。

 百瀬は一丁前に、目を細めている。

 舌を入れようとしたとき、俺は彼女の肩をつかんで、むりやり引きはがした。


「な、なにすんだ」

「くよくよする、男は嫌い。私たちどうせカップルになるんだから、キスぐらいよくない?それともここで……」

「やめろ!」


 彼女の手が俺のシャツに触れたところで、俺は叫んだ。

 彼女はすこしびくっとなって、また挑戦的な目に戻った。


「なに?」

「俺は、俺は、俺は!」


 俺はたまらなくなって、教室から出ようと走り出す。

 しかし、百瀬が急に出した足に引っ掛かり、転んでしまった。

 ああ、無様だ。

 百瀬に見下ろされ、睨まれ、俺は体が縮こまることが分かった。

 俺の内なる本能だろうか。

 たった今、二人は完全に狩る側と狩られる側に区切られたのだ。


「おちつきなよ~」


 そういいながら俺を床に押さえつける手の力は緩まない。

 奴は四つん這いで俺の体をまさぐりながら、気色の悪い笑みを絶やさなかった。


「ちょっ、やめっ……」


 そのとき、向こうから足音が聞こえてきた。

 誰かが来たようだ。

 さすがの百瀬も誰かに見られるとまずいのか、舌打ちをした後、俺を開放した。

 俺は百瀬も見ずに、廊下に走り出た。

 驚いたことに、足音の正体は漆原だったのだ。


「ユk……漆原…さん、その話したいことが」


 俺は話を聞こうを歩み寄った。

 しかし、漆原はいつもの冷たい態度で、俺に見向きもせず横を通り過ぎた。

 俺は悲しくなった。せめて理由だけでも教えてほしかった。


「……頭文字をつなげて」


 俺はその小さな声を、言葉をを逃さなかった。

 彼女は俺になんらかのヒント?を残して、教室に行った。

 見ると、百瀬がニマニマこちらを見ている。が、すぐに漆原と話し始めた。


                  *


 文頭をつなげて……?

 一体何のことだろう。彼女が俺に伝えた文章なんて……いや、ある、あの手紙だ。彼女はあの手紙に何らかの手がかりを記したのだ。


 た・な・バ・た


 七夕!とはどういう意味だ?もうすぐ七夕であるが、それが何なのだろうか。

 七夕、願い事、短冊、笹……!

 あそこだ。あそこに違いない。

 俺は一目散に、あの笹へと走った。


 このイベントは人気があるのだろうか。

 笹には思った以上に短冊が飾られていて、探すのに苦労した。が、そんなのは気にもしなかった。

 知りたい、なんで話してくれないのか?なんで百瀬が俺にアタックするのか?

 その時一つの短冊が目に入った。


七夕の夜、いつものあの場所に来てください。直接話したいことがあります。

                                  ユキ


 間違えるはずがない。確証はこれっぽっちもないが、俺はこれが漆原の書いたものだと確信していた。そして、このユキという名前がそれをさらに確実なものにしていた。

 俺はその後教室に戻って、普通の学校生活を送った。

 その日が来るまで、学校生活はつらいものとなった。

 しかし、もう少しの辛抱である。

 もう少し、もう少し。

 俺は決してイベントで舞い上がるミーハーではないのだが、七夕の孕む魅力とロマンチックに魅了されてしまっているみたいだ。

 星は落ちる。うんいい響きだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 水曜日 06:00 予定は変更される可能性があります

スノー*ドロップ ELEVEN @Laslow

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ