第5話「魔導の天才、目覚める──その力は村を変える」

 夜が明けた。


 村での生活、二日目。


「……静かだな」


 家の外に出ると、空気が少し張り詰めているのが分かった。


「どうした?」


 後ろからセリスが出てくる。


「なんか様子がおかしい」


 その時だった。


「大変だ!!」


 村人の一人が駆け込んできた。


「水路が壊れた! このままじゃ畑が全部ダメになる!」


「水路?」


「山から引いてる水だ! 昨日の魔物のせいで崩れたらしい!」


 なるほどな。


 戦闘の次はインフラ問題ってわけか。


「直せないのか?」


「無理だ……石が崩れて、水が止まってる……」


 完全に詰んでる顔だ。


「……見に行くか」


⸻


 水路の現場は、想像以上にひどかった。


 岩が崩れ、流れが完全にせき止められている。


「これは……」


「人力じゃ無理だな」


 セリスも険しい顔。


 だが、その時。


「……できる」


 ぽつり、と声がした。


 リゼだった。


「ん?」


「……直せる」


 小さな声。


 だが、その目は真剣だった。


「どうやって?」


「……分からない。でも、できる気がする」


 来たな。


 “覚醒前の直感”。


「やってみろ」


 俺は即答した。


「いいの?」


「ああ」


 俺は笑う。


「お前、天才だからな」


「……」


 リゼが少しだけ目を見開く。


 そして――


「……やる」


 前に出た。


⸻


 リゼは壊れた水路に手をかざす。


「……流れを、作る」


 ぶつぶつと何かを呟く。


 空気が、変わった。


「……おい」


 セリスが小さく声を漏らす。


「魔力が、集まってる」


 確かに。


 周囲の空気が揺らいでいる。


「……繋ぐ」


 その瞬間。


 光が走った。


 崩れた岩が、ゆっくりと持ち上がる。


「なっ……!?」


 村人たちがどよめく。


 石と石が組み合わさり、まるで“元からそうだったかのように”水路が再構築されていく。


 そして――


 ドバッ!!


 止まっていた水が、一気に流れ出した。


⸻


「う、うおおおおおお!!」


「水が戻った!!」


「畑が助かる!!」


 歓声。


 歓喜。


 さっきまで絶望していた空気が、一瞬でひっくり返る。


「……できた」


 リゼが小さく呟く。


 そのまま、ふらりと倒れかける。


「おっと」


 俺が支える。


「無理すんな。初回でそれはやりすぎだ」


「……つかれた」


「だろうな」


 だが、その顔は――


 どこか誇らしげだった。


⸻


「すごい……」


 セリスが呟く。


「こんな魔法、見たことない」


「まあ、普通じゃないからな」


 俺は肩をすくめる。


「“魔導創造”ってやつだ」


「……それ、何?」


「簡単に言うと、“何でも作れる”」


「……は?」


 セリスが固まる。


「冗談……じゃないよね」


「残念ながら本当だ」


 俺はリゼの頭を軽く撫でた。


「とんでもないの拾ったな、俺たち」


「……拾われたのは、私」


 リゼがぼそっと言う。


 なんだその返し、ちょっと可愛いじゃねぇか。


⸻


 村人たちが一斉にこちらへ駆け寄ってくる。


「ありがとう!! 本当にありがとう!!」


「救世主だ……!」


「この恩は一生忘れない!!」


 完全にヒーロー扱いだな。


「いや、やったのはこいつだ」


 リゼを指す。


「……え」


 一斉に視線が集まる。


「この子が……?」


「信じられん……」


「……すごい子だ……」


 リゼが少しだけ、俺の後ろに隠れる。


 照れてるのか。


「安心しろ」


 俺は小さく言う。


「お前の価値、ちゃんと広めてやる」


「……うん」


 小さく頷く。


⸻


 その後。


 村の空気は完全に変わった。


「この人たちがいれば大丈夫だ」


「この村、救われたんじゃないか……?」


 信頼。


 期待。


 そして――依存の入り口。


 いい流れだ。


⸻


 夕方。


 家に戻る。


「……すごかった」


 セリスがぽつりと言う。


「リゼ、あんな力を持っていたなんて」


「……知らなかった」


「まあ普通はな」


 俺は笑う。


「才能なんて、ほとんど埋もれて終わるもんだ」


「……でも」


 セリスが俺を見る。


「あなたは見つける」


「まあな」


 軽く答える。


「それが俺の役割だ」


⸻


 少しの沈黙。


 そして――


「……ねえ」


 リゼがぽつりと呟く。


「なに?」


「……なんで、そんなに優しいの」


 予想外の質問だった。


「優しい?」


「……普通は、利用する」


「……あー」


 少し考えて、答える。


「そっちの方が“効率悪い”からな」


「……え?」


「信頼された方が、結果的に強くなる」


 俺は笑った。


「だから大事にしてるだけだ」


 セリスとリゼが顔を見合わせる。


「……変な人」


「よく言われる」


⸻


 こうして――


 剣と魔導、二つの才能が揃った。


 そして、それを引き出す俺。


「……これ、マジでやばいな」


 思わず呟く。


「何が?」


「このままだと、この村……」


 少し間を置いて、言う。


「とんでもないことになるぞ」


⸻


 無能と呼ばれた俺たちは――


 今、確実に“何か”を作り始めている。


 それはまだ、小さな火だ。


 だがいずれ――


 世界を飲み込む炎になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る