第4話「無能のはずの俺たち、村で“評価が逆転”する」

「……終わった、のか?」


 畑の前で立ち尽くしていた老人が、震える声で呟いた。


「ああ、片付いた」


 俺が軽く答えると、老人は目を見開いた。


「まさか……あのゴブリンどもを、こんな短時間で……」


「こいつがやった」


 俺はセリスを親指で指す。


「……一人で?」


「ほぼな」


 村人たちがざわつく。


「すごい……」


「いや、でも見た目は普通の子だぞ?」


「いやいや、あの動き見ただろ……」


 ひそひそ声。


 評価が変わる音って、こういうのを言うんだろうな。


 セリスは特に気にした様子もなく、剣の血を払っていた。


「報酬はどうする?」


 俺が老人に聞く。


「もちろん払うとも! いや、それ以上に礼をさせてくれ!」


 さっきまで“頼りなさそう”って顔してたのに、分かりやすいな。


「とりあえず飯と寝床でいい」


 金より今はそっちが重要だ。


「それくらいならいくらでも!」


 老人は何度も頷いた。


⸻


 案内されたのは、村の中でも比較的しっかりした家だった。


「ここを使ってくれ。空き家なんじゃ」


「助かる」


 中に入ると、最低限だが生活はできそうな環境だった。


「……悪くない」


 セリスが呟く。


「住める」


 リゼも小さく頷いた。


 よし、とりあえず拠点は確保だな。


⸻


 夕方。


 村の広場に呼ばれた。


 簡単な食事会らしい。


「おお、来たか!」


 昼間の老人が満面の笑みで迎える。


「今日は本当に助かった! ささやかだが、礼だ」


 並べられた料理。


 質素だが、今の俺たちには十分すぎる。


「いただきます」


 久々のまともな飯に、思わず頬が緩む。


「……うまい」


「……うん」


 セリスも珍しく少しだけ表情を崩した。


 リゼに至っては無言でがっついている。


 よほど腹減ってたんだな。


⸻


「それにしても……」


 村人の一人が口を開く。


「あんた、本当に何者なんだ?」


 視線が集まる。


「ただの鑑定士だよ」


「いやいや、あの剣士をあそこまで動かせるのは普通じゃない」


「そうだそうだ!」


 周囲も同調する。


「……大したことはしてない」


 セリスが言う。


「指示が的確だっただけ」


 いや、それが普通できねぇんだよ。


「その通りだ」


 俺はあっさり認めた。


「俺は“見えてる”だけだ」


「見えてる?」


「相手の動き、癖、隙――全部な」


 完全な嘘じゃない。


 鑑定スキルの応用だ。


「だから、誰でも強くできる」


 その一言で、空気が変わった。


「……誰でも?」


 ざわり、とした気配。


 その時だった。


「……ふん、随分と大口を叩くじゃないか」


 場違いな声。


 振り向くと、装備の整った男が立っていた。


「誰だ?」


「隣町の冒険者だよ。ゴブリン討伐の依頼を受けて来たんだが……」


 男は肩をすくめる。


「どうやら出遅れたらしい」


「もう終わったぞ」


「見れば分かる」


 男の視線がセリスに向く。


「お前がやったのか?」


「……そう」


「ふん」


 鼻で笑う。


「たまたまだろ」


 おっと来たな。


 テンプレ小ざまぁ要員。


「ゴブリン程度で調子に乗るなよ」


「……」


 セリスの表情は変わらない。


 だが、空気が少し冷えた。


「本当に強いなら、俺とやってみるか?」


 挑発的な笑み。


「……いいぞ」


 即答だった。


「おいおい、乗るのかよ」


「問題ない」


 セリスは静かに剣を構える。


⸻


 即席の決闘。


 村人たちが円を作る。


「手加減してやるよ」


 男が余裕の笑みを浮かべる。


「……必要ない」


 短い返答。


「始め!」


 誰かの声と同時に、男が踏み込む。


 速い。


 だが――


「右から来る」


 俺が呟く。


 セリスが動く。


 最小限の回避。


 そしてカウンター。


「なっ――」


 ガキィン!!


 男の剣が弾かれる。


「バカな……!」


「次、下段」


 さらに一撃。


 男は完全に防戦一方になった。


「くっ……!」


「終わり」


 ピタリ。


 喉元に剣。


 完全決着。


⸻


「……嘘だろ」


 男が呆然と呟く。


「そんな、ありえない……」


「ありえるだろ」


 俺は肩をすくめる。


「実際に起きてる」


 周囲からどよめき。


「すげぇ……」


「本物だ……」


 空気が完全に変わった。


 疑いから、確信へ。


「……参った」


 男は膝をついた。


「俺の負けだ」


 よし、小ざまぁ回収。


⸻


「なあ」


 男が顔を上げる。


「さっき言ってた“誰でも強くできる”っての……本当か?」


「本当だ」


「俺も……」


 言いかけて、言葉を飲み込む。


 プライドか。


 まあいい。


「気が向いたらな」


 俺は適当に流した。


⸻


 その夜。


 村での俺たちの評価は、完全に変わっていた。


「すごい人たちだ……」


「この村にいてくれないかな……」


 ひそひそと聞こえる声。


 悪くない。


 むしろ、かなりいい。


「……どうする?」


 セリスが聞く。


「とりあえず、ここを拠点にする」


「了解」


 リゼも頷く。


「……ここ、嫌いじゃない」


⸻


 無能と呼ばれた俺たちは――


 気づけば、“必要とされる側”に回っていた。


「……悪くないスタートだな」


 俺は空を見上げる。


 まだ小さい。


 だが確実に、何かが始まっている。


⸻


 やがてこの小さな村は――


 世界を揺るがす拠点へと変わる。


 その第一歩が、今だった。

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