最終話 月光は、闇を選んだ
月光が青白く廃ビルの屋上をぼんやり照らしている。
「高河、あれで良かったの?あの子、やっぱり壊れたみたいじゃない。」
高河は、月光を浴びながら横目で沙羅を見る。
「十分だ、アイツはお前が思ってるほど弱くない。壊れた?違うな……まぁ、いい」
成神が退屈そうに欠伸をする。
「で、本気なのか?普通にリクルートしたらいいじゃねぇか……意味あるんかよ、コレに?」
「まぁ、見てろ。必ず、アイツは来る」
☆☆☆
数日前。
眼鏡が無くなった……まぁ、いいや。
昔使ってた赤縁眼鏡で、我慢するからいいよ。
「困ったな……流石に僕1人じゃ殺しきれない」
「使える駒を探さないと……」
学校の、生徒支援サイトをハッキングして生徒情報を眺める……SNSを手繰る……!?
「こいつ…使えるかも……金丸英明……」
僕は黒い下着に着替えて、シャツのボタンを3つほど外す。
スカートもいつもりよ短くした。
クセっ毛気味の長い髪もポニーテールに結ぶ。
でも、あの日から頭がごちゃごちゃして、上手く思考出来ない……気持ち悪い……。
☆☆☆
視聴覚室
金丸英明はソワソワしていた。
仕切りにスマホを覗き込む。
僕は音もなく扉を開けて、金丸英明に近づいた。
「何見てるの?隠し撮りした女子生徒?それとも、僕を隠し撮りした写真かな?」
三日月の口で語り掛ける。
「は!ち、違います!それに、何のようですか?」
ふふふ、なぜ知ってるのか、なぜ呼び出されたのか、分からずに混乱してる……僕に見つかっちゃったね。
「君に協力して欲しいんだよね。…ね!」
金丸は落ち着かない様子で周りをチラチラ見て。視線を合わさないようにする。
「お、お断りします!で、ではこれで……」
僕はイライラして怒鳴った。
「まて!」
ビクッっと身体を震わせて、僕を見る。
「手を出せ……早く!」
金丸の手を掴んで、ゆっくりシャツの中に入れる。
遠慮気味に掴んで来る。
(気持ち悪いヤツ)
「もう片方の手……早く!」
もう片方の手を掴んで太腿に這わせながらスカートの中に入れる。
僕は目を細めて囁きかける。
「黒い布の感触と、僕の肉感はどうだい?君はもう、僕の言う事を聞くしかないね」
金丸は手を振り解いて後ずさる。
「ぼ、僕を舐めるな!今の様子は2箇所に仕掛けたカメラで録画してる!」
(これは……想定内……及第点ってところだね。
色仕掛けは、余り効果ないみたいだ……面白い)
でも、僕は急に面倒臭くなって、イラついた。
「うるさい!眼鏡豚が!」
思いっきり蹴り飛ばしてやった。
奴は机にぶつかって不様に転んだ。
僕は脇腹にもう1発蹴りを入れてやった。
ドカっ!
「あぐぅ!ハァハァハァ……酷い」
(へぇ〜、こいつ…へぇ〜、こういうのが好きなんだ……気持ち悪いヤツ……でも、人間、面白いな)
「立て!眼鏡豚……早く立て!」
立ち上がった金丸に僕は、思いっきりビンタしてやった。
バチンッ!
「眼鏡豚!今日から君は僕の駒だ!いいよね?答えは聞いてないけど」
金丸は興奮気味に目を潤ませて、チラチラ見ながら。
「は、はい!……姫について行きます。」
「姫?僕のこと?」
「あ、すみません……彩愛さん」
「キモいなぁ、君は……でもいいよ姫で……僕は、壊れてるから"壊れ姫"って呼んでよ」
「いえ!姫で結構です。……姫」
(ノリの悪い眼鏡豚だ)
☆☆☆
眼鏡豚のハッカー能力はそこそこ使える程度。
ただし、僕のサポートがあれば、かなり使えるレベルになる。
修羅鴉のヒエラルキー。
高河の立ち位置。
メンバーの個人情報
最近の動向、全て僕の頭の中だ……でも、ごちゃごちゃして盤面が見えない、クソ!
僕が、鬱々してると眼鏡豚が心配そうに声をかけて来た。
「姫、大丈夫ですか?考えが纏まらないご様子……こんな時は、糖分摂取がよろしいかと」
赤いロリポップを差し出して来た。
「僕は子供じゃない!舐めてるのか?眼鏡豚!」
顔面をグーパンチで殴った。 金丸の目が潤む。
(変態野郎め……でも、こういうのが好きなんだろう?)
「滅相もない!騙されたと思って。さ、さ!」
僕は仕方なく受け取ってロリポップを口に入れた。
カラカラ……カラカラ……カラカラ……甘い。
安い香料が頭の中に染み渡っていく感じがする。
ごちゃごちゃが消えていく……
集めた情報が物凄い勢いで繋がり出す!
僕は目を見開いて眼鏡豚を見た。
「すごいぞ!眼鏡豚!繋がった!全部繋がった!
これは、褒美だ!歯を食いしばれ!」
僕は褒美にビンタと蹴りをご馳走してやった。
眼鏡豚は目を潤ませてハァハァしてる。
(ホントにキモいヤツだ)
☆☆☆
そして今。
月光が廃ビルをぼんやり照らす。
「僕を招待したいんだね……直々に会いに行ってあげるよ。高河君……そして、ぶっ殺してやる」
僕は、スマホを取り出して眼鏡豚に指示を出した。
ドローンが、僕特製煙幕を積んで、廃ビルに吸い込まれていく。
黒いパーカーのフウドを目深に被る。
「ゲホッゲホッ!クソ何なんだ見えねぇ!」
「屋上を固めろ……ゲホッゲホッ…マジかよ!」
ビルの階段付近から火の手が上がる。
「火だ!ヤバい!屋上が孤立する……なんてヤツだ」
廃ビルの中は、混乱状態に陥っていた。
僕は悠々と階段の燃えてない所を登って行った。
僕が登った後、階段に近づけないように、燃やしてやった。
僕は通信機で眼鏡豚に指示をだす。
黒のパーカーを脱いで、グレーのパーカーに着替える。
ズボンを脱いで、グレーのスパッツになった。
通信機から、眼鏡豚が合図を送る。
「姫……屋上の護衛は4人。奥に高河がいます。姫の予想通りです。……準備はよろしいですか?」
僕は熱赤外線ゴーグルを装着して静かに答える。
「愚問だよ、カウントしていいよ……必ずぶっ殺す。」
「姫、煙幕は4、5秒で流されます。カウント開始、3、2、1、ご武運を!」
屋上に殺到する4機のドローン。
4機のドローンは大量の煙幕を振り撒きながら屋上を煙でつつんでいく。
「高河を守れ!」
煙幕で何も見えない。
僕は素早く高河に近づいた。
刃物を突き立てる瞬間、僕は叫んでいた。
「死ね!クソ野郎!」
ズブッ!
「うぐっ!……ぐっ!」
ドゴッ!
膝蹴りで僕の身体が浮く。
首を掴まれて、床に叩きつけられた。
ドガッ!
「きゃ!ゲホッゲホッゲホッ……!」
息が出来ない……苦しい。
煙幕が霧散する……月光が再び屋上を照らす。
僕は囲まれていた……高河は脇腹を抑えて片膝をついてる。
(外した……失敗だ。)
高河はゆっくり立ち上がる。
「誰も手を出すな!」
ゆっくり近づいて来る。刃物を脇腹に突き立てたまま。
「高河!ハァハァ……君達の負けだ!ハァハァ」
成神が僕の髪を掴んで怒鳴る。
「は?どう見てもテメーの負けだろうが!
今すぐ、ぶちのめしてやる!」
「やめろ、成神………」
「ぶちのめしたらやめてやる!止めるな高河!」
「やめろ!……脇腹が痛えんだ、大声を出させるな……下がれ」
成神は渋々下がる。
高河は彩愛を見下ろして。
「どう、お前の勝ちなんだ?」
僕は目だけでドローンを見る。
「僕特製爆弾だよ。屋上くらい軽く吹っ飛ばせる。僕諸共殺してあげる」
目を見開き、微笑んだ。
ビルの屋上に新たに4機のドローンが上がってきた。
「貴様……なんてヤツだ……」
僕は大声で笑って眼鏡豚に最後の命令下した。
「屋上を吹っ飛ばせ!!あははは!」
両手を天に伸ばして目を瞑る……ドローンは動かない。
「何をやってる!早く、僕と高河を爆破しろ!……聞いてんのか眼鏡豚!」
「姫……自分には、出来ません。姫を吹き飛ばすなんて……聞いてません…無理です」
「お前も……僕を裏切るのか……もう、いい…消えろ豚……」
「どうした?仲間割れか?」
高河は彩愛を覆い尽くす闇になった。
「面白い、今の状況……完全にお前の勝ちだ!
俺は、お前を試すつもりだったんだが……こうも、完璧に出し抜かれるとはな。」
淡々と喋る、目の前の暗い闇をジッと見つめる。
「お前の失敗は、ただ一つだ、執着という、つまらない感情から湧き出た、刹那の叫びだ。」
僕は暗い闇になった高河を睨んだ。
「僕の……僕達の幸せを壊したくせに!」
闇は淡々と言葉を紡ぐ
「お前は勘違いして……いや、理解していたな?目を逸らしていた……執着か」
暗い闇は淡々と続ける。
「速水と、お前では、決定的に価値が違う」
僕は目を逸らす。
(やめて……聞きたくない……)
「速水は“使える側”じゃない。お前は、使える」
僕の中の黒い感情か溢れ出す。
「そんなの、どうでもいい!僕達を引き裂いたんだ!」
闇の声音が力強くなる。
「お前の頭脳で、男に執着するな!」
「速水は、利己的な承認欲求の塊……俗物。
お前は本来もっと上、俗物を従える側の人間だ……経験の無さ……恋という猛毒に侵されて、俗物に追従したにすぎない。」
僕は床に目を落とした。
「違う!お前達が……僕の大切な、片割れ……先輩……奪って……僕を壊したんだ!」
「お前は壊れてない。お前は覚醒したんだよ。分かってるはずだ……それに、執着もしていない。」
ビクッと身体反応する。
「お前は俺を殺した後……速水も殺して死ぬつもりだったんだろ?……だが、お前は死なない。」
身体が勝手に震える……涙が止まらない。
月が周りを照らしてるのに僕だけ暗闇だ。
「もう、どうでもいいや、僕は半分だ……空っぽになっちゃった……死にたい。ねぇ、殺してよ……君達を殺そうとしたんだから。殺してくれるよね?」
僕は、ありったけの笑顔を闇に向けた。
「殺さない……お前の盤面にない結末を俺が与えてやる。」
闇が少し下がった。
サッと、青白い月光が僕をぼんやり照らす。
「彩愛、お前の道は、俺が照らしてやる。どんなに暗闇でも、この月光の様に照らしてやる」
暗い闇から手が伸びる。
僕はゆっくりと手を伸ばして闇を掴む。
闇は僕の手をしっかり掴んで、引き寄せる。
闇は柔らかく僕を抱き留める。
「よくぞ此処までたどり着いた。」
暖かい……暖かい闇が僕の中に流れ込んでくる。
「彩愛……見たこともない高みに連れて行ってやる」
闇はそう言って、僕を強く抱きしめた。
僕は居場所を見つけた、この、暖かい闇が僕の新しい居場所だ。
☆☆☆
鏡の前に立つ。
くせっ毛気味の長い髪を赤いリボンで結び上げる。
ツインテールを見て、口許を緩める。
赤い予備眼鏡を洗面台に置いて、ポケットからケースを取り出す。
緋色のコンタクトレンズを目に入れる。
鏡をジッと見る。小柄で童顔。豊満な肢体。
緋色の瞳……くすりと笑う
赤いロリポップを取り出して口に入れる。
カラカラ……カラカラ……
☆☆☆
冷たい春雨が降り煙る校舎の入り口に少年が立っている。
手のひらの丸眼鏡をジッと見て、目を瞑る。
「何も出来なかった……何一つ」
唇を噛み締める
「今度こそは先輩の手助けをするんだ。たとえ、間違った方向に行ってたとしても……そして、この眼鏡を先輩に……必ず返す。」
目を見開いて、降り煙る雨で輪郭がぼやける、鳳凰学園の校舎をジッと睨んだ。
月光は、闇を選んだ @OSAO91
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