第4章:隠していた声

朝6時、スマホのアラームが鳴った。半分寝ぼけたままスマホを手に取り、アラームを止めて画面を見た。未読の通知があった。めったに開かないクラスのグループチャット、いくつかのどうでもいい通知、そして、あかりさんから届いた彼女が見つけた新曲についてのメッセージが1通あった。


そのメッセージを開いた。


あかりさん「琉依くん!これ聞いて。悲しいけどいい曲だよ。絶対気に入ると思う」


曲のリンクが添付されていた。昨夜は、まだ名前も付けられない感情についての歌詞を書くのに忙しく、聴く暇がなかった。朝2時まで書き続けていたのだ。


スマホを置いて目を閉じた。「あと5分だけ」


6時半に目が覚めたので30分遅刻してしまった。


「くそっ」


すぐに起き上がり、制服を手に取り、慌てて着替えた。歯を磨きながら時計を確認すると、6時40分だった。授業は7時10分開始だ。


ドアに向かって走っているとき、何か忘れたことに気づいた。ヘッドセットだ。まだ勉強机の上にあり、開いたままの歌詞集の横にある。


時計を見ると、6時45分。もう時間がない。ヘッドセットを持たずに家を出た。


駅は通勤客で賑わっていた。電車は定刻通りに到着し、私は息を切らして乗り込んだ。ドアのそばに立ち、スマホの時計を見ると、すでに6時55分を過ぎていた。


学校のチャイムが鳴る前にはまだ着けるはずだった。電車が走り出すと、窓の外の街並みが次々と変わっていった。


普段はこんなとき音楽を聴いているが、聞こえてくるのはレールのきしむ音、周りの人々の会話、そして時折流れるアナウンスだけだ。あまりにも騒がしく、まるで盾を失ったような気分だ。


学校に着いたのは7時8分、チャイムが鳴る2分前だった。階段を駆け上がり、チャイムが鳴るのと同時に2-Bの教室の前に到着した。


教室に入り、窓際の奥の席にカバンを置いて息を整えた。いつもはもっと早く来るためか、何人かのクラスメートが私をじっと見ていた。


ほどなくして歴史の先生である柚木先生が教室に入ってきた。先生はカバンを置いて教科書を開いた。


「おはよう。87ページを開いて」


授業が始まった。私は教科書を見つめたが、文字がぼやけて見えた。走ったせいでまだ頭がくらくらし、呼吸も完全に落ち着いていなかった。ヘッドセットがないと、柚木先生の単調な声を遮断できない。授業がいつもよりずっと長く感じられた。


9時に1時間目の休み時間のベルが鳴った。


私は席に座ったままだった。動く気力などなかった。クラスメートたちは、外に出たり小さなグループになって集まったりして、おしゃべりしたり笑ったりし始めた。


窓の外の校庭を見ると、数人の生徒がすでにサッカーを始めていた。


すると、前方からささやき声が聞こえてきた。ユキ、アオイ、ケンタ、そしてリョウの声がぼんやりと聞こえる。彼らは同じ話題について話している。それは、街で私とあかりさんが起こした出来事と、タケシの拒絶についてだった。


「あいつら、めっちゃ仲いいじゃん」


私は窓に集中しているふりをした。普段ならヘッドセットがこうした音をすべて遮断してくれるはずだが、今はすべてのささやきや憶測を聞かざるを得ない。


「琉依」


大輝の声を聞いて振り返ると、彼は机の横に立っていて、真剣でありながらも少し面白がっているような表情をしていた。


「食堂に行く?」


「いや、後で」


大輝は私の隣の空いている席に座った。彼はしばらく黙って、由紀と葵の方をちらりと見ると、再び私を見つめた。


「おい、もう聞いたか?」


「何を?」


大輝はまるで「何か隠しているな」と言わんばかりに私を見つめた。


「噂さ。君とあかりさんのこと」


「みんな、お前たち仲がいいって言ってたよ。挨拶し合ったり、週末に一緒に遊んだり。先週、街で2人を見かけたって人もいたし。それに、数日前、あかりさんが2年C組のタケシを振ったんだ。みんな、それは君のせいだって思ってるよ」


「今わかった。なぜ彼らは私のことを話していた?」


「で?本当なのか?」


「何が本当だって?」


「君とあかりさん、仲がいいのか?」


私はため息をついた。「ただの友達だよ」


大輝は片方の眉を上げて疑わしげな眼差しを私に向けた。


「ただの友達、か?」


私は答えずにカバンから本を取り出し、読んでいるふりをした。その間、大輝は背もたれにもたれかかって両腕を組んでいた。


「気をつけろよ。あかりさんは人気者だ。みんな、彼女の行動を逐一チェックしている。そして今、みんなは君のことを見ている」


「あかりさんは知ってるの?」


「噂のこと? たぶんね。あの子みたいな子なら、きっと全部聞いてるよ」


私はその情報を噛みしめた。すると、大輝は私の肩をポンと叩いた。


「正直に言って。本当なら君にとっていいことだし、もし違っていたら……事態が複雑になる前に、はっきりさせておいた方がい」


ベルが鳴り、休憩時間が終わったことを告げた。大輝はすぐに立ち上がった。


「考えてみてよ?」


私は座ったまま机を見つめていた。みんなは私たちが親しいと思っている。本当にそうなのか? 自分でもよく分からない。ただ一つだけ確かなことがある。私たちに関する噂は全く気にならないということだ。


3時間目と4時間目は気づかないうちに過ぎていった。私の頭は噂やあかりさん、そして大輝の言葉についてあちこちさまよっていた。


11時に2回目の休憩のベルが鳴り、私はすぐに図書館へ行き、人混みから離れて静けさを求めた。図書館は閑散としており、本棚の間に数人の生徒がいるだけだった。


私はすぐに音楽と文学のコーナーへ行き、指で本の背表紙をなぞって適当に一冊(ミュージシャンの伝記)を手に取り、奥の隅へと向かった。


ちょうど座ろうとしたとき、司書の机のほうから聞き覚えのある声がした。あかりさんだった。担任で進路指導担当の里奈先生と話をしていた。


「それで、あかりさん、どの大学を目指しているの?あなたの成績なら選択肢はたくさんあるでしょう」


「まだ決めてないんです、先生。たぶん芸術か心理学かな。でも、家から近いところにしたいんです」


「そう考えていてくれるのはいいことね。でも自分を限定しすぎないで。あなたには大きな可能性があるんだから」


私は本に集中していたが、あかりさんの会話が耳に入ってきた。彼女は普段とは違って、迷っているように聞こえた。


里奈先生が立ち上がった。「よし、私は職員室に行かなきゃ。この用紙はここに置いておいて。後で私がチェックするから」


「ありがとうございます、先生」


里奈先生は、あかりさんを机の前に一人残して去っていった。私は戸惑い、本棚の間に固まって立っているしかなかった。すると、あかりさんが突然振り返って私の存在に気づき、目が合った瞬間、微笑んだ。


「琉依くん!」


私は逃げられず、まだ本を握ったまま彼女の机に向かって歩み寄った。


「はい」


「また本を探しているの?」


彼女は私の手にある本を見つめた。


「『John Lennon』? あなたが『The Beatles』好きだなんて知らなかったわ」


「……ただ見てただけだよ」


あかりさんは向かいの椅子を指さした。


「座って」


隣に座るように言われ、少し躊躇したが、結局その言葉に従った。あかりさんは大学のパンフレットを閉じ、紙の束を整理し始めた。


「計画なんて地獄だわ。でも、やらなきゃね」


「どの学科に入るか、もう決めた?」


「うん、心理学か芸術の学科。でも、どちらにするかはまだ決めていない。あなたは?」


「僕もまだどの学科にするか決めてないんだ」


「大丈夫だよ。今すぐ決めなきゃいけないわけじゃないし。あ、あの噂、聞いた?」


「うん、結構衝撃的だったね」


「みんな退屈してるからドラマを作ってるだけ。気にしないで」


彼女を見ると、全く動じていない様子だった。まるで私たち2人の噂など彼女にとっては何の意味も持たないかのように見えた。


「気にしてないの?」


「わざわざ気にする必要なんてないでしょ。私たちは友達だもの。他人がどう思おうと放っておけばいい」


彼女がそれをそんなにも簡単に言い放ったことに私は驚いた。あかりさんは体を前に傾け、顎を手のひらで支えた。


「本当に、琉依君。心配しないで。彼らが何と言おうと、私は気にしないから」


「わかった。僕も気にしないよ」


「大学のことを考えるの、もう疲れた。ちょっと休憩したい」


あかりさんは背もたれにもたれかかり、懇願するような眼差しを私に向けた。


「カラオケに行かない?本当にストレスを発散したいの」


私はまばたきをした。「……カラオケ?」


「うん!行こうよ」


「僕、歌えないよ」


「歌わなくてもいいの。ただ……一緒にいてくれる? お願い」


「……わかった」


「じゃあね。放課後、校門で待ち合わせ?」


チャイムが鳴って休み時間が終わった。あかりさんは立ち上がって書類を整理した。


「じゃあね!」


彼女は手を振ってその場を立ち去った。私はまだ一ページも読んでいないジョン・レノンの本を握りしめたまま、一人座り続けた。彼女は噂など気にしていないようで、そのことがなぜか私を少しほっとさせた。


最後の授業である英語の時間はとても退屈で、私は5分おきに壁掛け時計をちらちら見ていた。


ついに下校のベルが鳴った。


私は荷物をカバンに詰め込み、教室を出た。廊下は帰宅しようとする生徒たちの喧騒で溢れかえっていた。私は校門に向かって歩き出した。あかりさんはすでに校門の前にいて、カバンを肩にかけ、スマホに目を落としていた。私を見つけると、すぐに手を振ってくれた。


「琉依くん!準備はいい?」


「うん」


私たちは学校から徒歩10分ほどのところにあるカラオケ店に向かった。私の横で、あかりさんは軽快な足取りで歩きながら、さっき受けた最後の授業の話をしていた。


「さっきの数学の授業は本当に辛かった。美幸先生の積分の説明で頭がくらくらした。今まさにこれが必要なんだ、カラオケセラピー。あ、そうだ。昨日、新しい曲を見つけたんだ。悲しいけど、いい曲なんだ。リンクを送ったよ」


「まだ聴いてない」


「絶対聴いて!その曲、あなたの雰囲気にぴったりだから」


私たちは、「カラオケパラダイス」というネオンサインが輝く小さな建物に到着した。中に入ると、ピンクの髪の受付嬢が私たちを出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ!何名さまですか?」


「2名です。個室で、2時間」


「5号室へどうぞ」


支払いを済ませ、私たちは2階の5号室に向かった。防音されたその部屋はこじんまりとしていたが、居心地が良く、ソファ、大型テレビ、テーブル、2本のマイク、そして曲を選ぶためのタブレットが備えられていた。


「よし、まずは食事を注文しよう」


あかりさんはワクワクした様子でタブレットを手に取り、画面を操作し始めた。彼女は、限定版のチーズピザ1枚、フライドポテト、コーラ2杯を注文した。


「注文完了。料理はあと10分で届きます」


彼女は曲をスクロールしながら口ずさんだ。「何から歌おうかな……」


私はソファに座り、カラオケの雰囲気に少し戸惑っていた。たとえあかりさん一人であっても、明るい照明の下で人の前で歌うのは慣れないことだった。しかし、彼女の嬉しそうな様子を見て、その楽しみを台無しにしないことにした。


「決まった!」


あかりさんは私が知らないアップテンポなポップソングを選び、立ち上がってマイクを握ると、エネルギーいっぱいに歌い始めた。彼女の声は美しく、自信に満ちていたが、私が最も惹かれたのはその自由な動きだった。あかりさんがその瞬間を心から楽しんでいることが伝わってきた。


今のあかりさんはいつもと違う。いつもは慎重にイメージを保っているあかりさんではなく、まるで自分の世界にいるかのように生き生きとして、表現力豊かなあかりさんだ。歌い終わると、あかりさんは息を切らして笑った。


「次はあなたの番よ!」


私は首を横に振って、「歌わないよ」と言った。


「お願い! 一曲だけ!」


「僕は曲を作るのが好きで、歌うのは好きじゃないんだ」


あかりさんはすぐ隣、私のすぐそばに座った。


「どうして? でも、君の声はいいよ」


「どうして知ってるの?」


「学校の屋上で歌詞を書いてる時、口ずさんでたでしょう。だから知ってるの」


彼女がそこまで気にかけていたなんて、気づかなかった。


ドアをノックする音がして、注文した料理が運ばれてきた。エプロンを着た男性店員が入って来て、チーズピザ、フライドポテト、飲み物が載ったトレイを運んできた。


「どうぞ!」


ドアが閉まった。あかりさんはすぐにピザの一切れを手に取り、目を閉じてかじった。チーズがとろけている。


「天国にいるみたい」


私も1枚取り、あかりさんが別の曲を選んでいる間に食べた。


1時間が過ぎ、あかりさんはアップテンポなポップスやロック、その他のジャンルの曲を歌った。私はただ聞き、食べ、見ているだけだった。曲の合間には学校や週末の予定、音楽について気楽に話した。


それから彼女は、時間と記憶についてのスローな曲を選んだ。今度はあかりさんがより感情を込めて歌い、その声は優しく儚げだった。歌詞は儚い瞬間を大切にするという内容だった。


「一瞬一瞬が大切……」


その変化は実に深遠なものだった。あかりさんはただ歌を口ずさんでいるのではなく、心からその歌を感じていたのだ。歌が終わると、彼女はしばらく黙り込んでから、視線をスクリーンに向けた。


「その歌、あなたに似合ってるわ」


「どういう意味?」


「あなたはいつも何かと競争しているみたいに見える。全部を詰め込もうとしているみたい」


あかりさんの顔に驚きが浮かんだ。まるで私の言葉が的を射ているかのように、彼女の瞳が少し見開かれた。そして彼女は微笑み、話題を変えた。


「たぶん、私はただ忙しいのが好きなだけかも」


それ以上の説明はなかった。彼女はまた別のアップテンポな曲を選び、雰囲気は再び変わったが、私は彼女をじっと見つめ続けた。その陽気さの裏に彼女が何かを隠している気がしたからだ。


30分が過ぎ、あかりさんはすでに6~7曲歌っていた。


「よし、次は君が歌う番だよ。1曲だけ。お願い、私のために歌って」


その誠実な眼差しを拒むのは難しかったので、私はため息をついた。


「わかった。1曲だけ」


「やった!よし、私が選ぶね。これ、きっと知ってるはず」


彼女が選んだのは、私が知っているメランコリックなインディーズの曲だった。アーティストは有名ではないが、その曲は私の好みにぴったりだった。


「どうして…」


「いい曲でしょ?」


あかりさんがマイクを私に渡した。柔らかなギターのイントロとともに、曲が流れ始めた。私は背筋を伸ばしてマイクを握った。画面に歌詞が表示されたので、歌い始めた。


「静寂の中で……」


私はあかりさんを見ることなく歌詞とメロディーだけに集中し、歌い終えるとマイクを下ろして彼女の方を向いた。すると、あかりさんは目を大きく見開いて口を少し開け、私を見つめていた。


「琉依くん……すごく深みのある声だね。思っていたのと違う」


彼女の顔には純粋な感嘆が浮かんでいた。


「マジで。それ……すごい」


私は居心地が悪くなった。「大げさだよ……」


「違う。素敵だよ。これ、真剣に考えてみて」


私はマイクを置いた。「いいえ、もう二度とそんなことは起こらないでしょう」


「本気だよ。君の声には何か違うものがある。それが……誠実さだ。誰かを感心させようとしているわけじゃない。ただ……感じているだけなんだ」


どう返せばいいのか本当に分からなかった。褒められるのはいつも気まずいし、特に彼女からだとなおさらだ。


心地よい静寂が私たちを包み込み、気づけば2時間近くも時間を忘れていた。それに気づいたあかりさんは驚いた。


「もう出ないと」


私たちは荷物をまとめ、階を下りて建物を出た。夕暮れが深まり、街灯が灯り始めた。


私たちは駅へと歩き、道中、あかりさんはさっき歌った曲を口ずさんでいた。


「本気だよ。さっきの声、本当に良かった」


「大げさだよ」


「マジで!その曲、あなたに合ってる」


私は返事をしなかった。


「いつか、あなたが作った曲をぜひ聴かせてほしいな」


「……たぶん、そうなったらね」私は少し迷いながらそう答えた。


「約束ね」


駅に着き、エスカレーターでホームへ上がると、突然誰かが呼んだ。


「あかりさん!」


その声は聞き覚えがあったが、すぐには誰だか思い出せなかった。私たちは振り返った。男子3人と女子2人の一団が近づいてくる。


先頭にいたのはユウトくんだった。背が高く、身なりはきちんとしていて、顔は優しげだが目は鋭かった。その背後には男子が2人いた。1人は筋肉質で、もう1人はもっと痩せていて眼鏡をかけていた。そして女子が2人。1人はショートヘアで自信に満ちた様子、もう1人はロングヘアでより落ち着いた雰囲気だった。


彼らはすぐに私を見つけた。ユウトくんの視線はあかりさんから私へ、そしてまたあかりさんへと移った。


「あかりさん!ここで何してるの?」


「カラオケから帰るところ!」


ショートヘアの女の子が私を見た。「カラオケ?誰と?」


あかりさんが私の方を指さした。「琉依くんと」


ユウトくんの笑顔が少し引きつった。「ああ、2-Bの琉依君だね?」


私はうなずいた。「うん」


眼鏡をかけたその男子は気さくな口調で話していたが、どこか評価しているような印象がにじんでいた。


「えっ、君が琉依くん?あかりさんとよく一緒にいるのを見かけるよ」


あかりさんはその緊張感に気づいていない。「うん!楽しかったよ。琉依くん、意外と歌が上手だったね」


ユウトくんはあかりさんのそばに一歩近づき、「大丈夫?これからどこに行くの?」


あかりさんはその質問に戸惑った。「うん、大丈夫。帰ろうかな」


ユウトは私を一瞥したが、その瞳には明らかにあかりを守りたいという思いが宿っていた。彼は私の存在が脅威ではないことを確かめるため、私をじっと見つめていた。


筋肉質の男「俺たち、ご飯を食べに行くんだけど、あかりさんも一緒にどう?」


あかりさんが答えると、私の方を見た。「どう?琉依くんも一緒に行く?」


「いや、いいよ。僕は帰らなきゃ」


「わかった。じゃあね」


彼女は私の方を向いて手を振った。「今日はありがとう、琉依君! また学校でね!」


「うん、またね」


彼女は仲間たちのところへ加わり、彼らはすぐに立ち去った。ユウトくんは一度だけ振り返って警戒に満ちた眼差しを向けたが、やがて人混みに飲み込まれて見えなくなった。


私はホームに一人残された。


数分後、電車が到着し、私は乗り込んで窓際の席に座った。電車は漆黒の夜を切り裂いて走っていく。窓に映る自分の影を見つめてみると、疲れ切った顔をした自分が見えたが、その表情には何か違うものがあった。


胸の奥に静かだが揺るぎない、小さな確信が宿っていた。そして、どういうわけかあの歌を歌うことは彼女に何か真実を伝えるような気がした。それは、誰にも見せたことのない何かだった。


それでも、今日私は、耳を傾けその感覚を味わうためにここにいる。それが誰かと「近くにいる」ということの意味なのかもしれない。


あかりさんが何を思っているかは分からないけれど、一つだけ確かなことがある。私はこれからも彼女のそばにいたい。彼女の歌声を聞き、彼女の笑顔を見たい。たとえそれが、彼女の輪の外に立つことしかできないとしても。


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