冷たい魔王と押しかけ姫

※魔王視点です。



「ロディウス~? どこにいらっしゃいますの~?」


(うわ、面倒くさいのが来た……)


 声で分かった。魔界の姫君が来たらしい。


(とりあえず無視しておくか)


 どうせこの部屋に入ってくるだろうが、かと言って自ら会いに行こうとは思えない。


「お邪魔しますわ」


 案の定、ラミンダが入ってきた。相変わらずフリルとリボンたっぷりの豪華なドレスを着ている。ちなみに、今日は執事も一緒らしい。


「毎回思うが、ちゃんと連絡してから来てくれないか?」


「あら、急に来たら困ることでもありますの?」


「……そういうわけではないが」


「そうそう、あなたに渡したい物がありますの」


 どうせ、くだらない物を渡してくるに決まっている。


 ラミンダが取り出したのは、小さな箱だった。 ラミンダはその箱を開け、中身を見せてきた。それは青い宝石のブローチだった。


「きれいでしょう? あなたに似合うと思って」


「いらん」


「それと、こちらも受け取って?」


 今度は彼女の執事から、布に包まれた大きな長方形の物体を渡された。布を取ってみると、彼女の肖像画が出てきた。


「よく自分の肖像画を渡せるな」


 恥ずかしいとか思わないのだろうか。私だったら絶対に渡さない。


「とっても美しいでしょう? よかったら部屋に飾って」


「断る。持って帰れ」


 そう言って、肖像画とブローチを彼女の執事に強引に持たせた。これぐらい冷たくしても、ラミンダは何とも思っていないようだ。


「ロディウス」


「……」


「返事ぐらいしなさい。お行儀が悪くてよ?」


「もう帰ってくれないか」


「あら、まだ来たばかりなのに?」


「お前が来ると城が騒がしくなる。帰れ」


 ラミンダは頬を少し膨らませた。


「わざわざ来てあげたのに、どうしてそんなに冷たくするのかしら?」


「来てほしいなんて言ってない」


「はあ、しょうがないわね。今日は帰ってあげるわ」


「二度と来るな」


「うふふ、また遊びに行きますわね」


 話が通じていないようだ。


「帰る前に、皆さんにご挨拶するわ」


「そうか」


「だから案内して頂戴」


「自分で探せ」


「そんな冷たいこと言ってないで、ね?」


「はあ……まったくお前は……」


 このわがまま姫は絶対に意見を曲げない。面倒くさいけれど、案内するしかなさそうだ。


 ここから一番近いのは、ディレンだ。


 そういえば、まだ彼はラミンダに会ったことがない。彼の反応が少し楽しみだ。


 ディレンのいる、二階の廊下までラミンダ達を連れていく。ディレンは真面目に掃除しているようだった。


「まあ、品のなさそうな方ね」


 初っ端からひどい言われようである。


 ラミンダはディレンに話しかけた。


「ごきげんよう」


「え……ど、どうも」


 ディレンは珍しく緊張しているらしい。こういう美女には弱いのだろうか。


「あなた、お名前は?」


「ディレンです」


「まあ、いいお名前ね」


「あ、ありがとうございます!」


 ディレンはとても嬉しそうだ。その気持ちもなんとなく分かる。


「ディレン」


「はい」


「あたくしのロディウスに近づかないでね」


「え?」


「近づかないでね」


「それは、どういう……?」


「いいから、近づかないでね」


「は、はい……」


 ラミンダの圧はすごかった。あのディレンが、素直に従っている。


(まったく、あの嫉妬深さはどうにかならないのか?)


 ラミンダは男女問わず、”ロディウスに近づかないで”と言う。誰かに取られるのが怖いらしい。


「うふふ、ならいいわ。それでは、ごきげんよう」


「お気を付けて……」


 ディレンと別れ、次はナーシャのところへ向かった。


「ごきげんよう。えっと……誰だったかしら?」


「ナーシャです」


「ああ、そういう名前だったわね」


「覚えていただけて光栄です……」


 ナーシャは苦笑いだった。


「あなた、なかなか整った顔をしていますわね」


「は、はあ……ありがとうございます」


「まあ、ロディウスのほうがずっと素敵ですけれど」


「そ、そうですか」


 突然比較され、ナーシャはなんとも言えない表情を浮かべていた。


「あなたも、ロディウスに近づきすぎないよう気を付けなさいね」


「え?」


「忠告ですわ」


「はあ……心得ておきます」


 ナーシャは困ったように笑った。


「では次へ行きますわ」


 ラミンダは満足したのか、くるりと身をひるがえした。


 最後はアクルスのところだ。

 アクルスは今までに何度もラミンダに会ったことがある。そして、なぜかラミンダに好かれていた。


「ラミンダ様。お久しぶりです」


「うふふ、変わりないようね」


 ラミンダは優雅に笑う。


「アクルスには、これを差し上げますわ」


「私にですか?」


 アクルスは微笑みながら、縦長の箱を受け取る。


「これは花瓶でしょうか……?」


「もちろんよ」


「ありがとうございます。部屋に飾らせていただきます」


「ええ」


 プレゼントを受け取ったアクルスに、ラミンダは満足したようだ。


 それにしても、アクルスには毎回花瓶を渡している気がする。もはや部屋のどこに飾っているのか気になるところだ。


 ◇ ◇ ◇


 アクルスとも別れ、やっとラミンダが帰る時が来た。


「いい加減帰ってもらおうか」


「まだスイーツをいただいていなかったわ」


「自分の城で食べろ」


「あなたの手作りが食べたいわ」


「帰れ」


「ほんと、無愛想なんだから……」


 ラミンダはちょっと不機嫌になったみたいだ。


「やっぱり、アクルスと結婚しようかしら」


「は?」


「アクルスのほうが、ずっと素敵だわ」


「あいつ既婚者だぞ?」


「そのようなこと、あたくしには関係ありませんわ」


「いや、関係あるだろ……」


 あまりにも身勝手な姫である。


「もしかして、嫉妬してますの?」


「いや全く。むしろ他の人と結ばれてほしい。さっさとお前から解放されたい」


「ほんと、素直じゃないんだから……。でも、そこも素敵よね」


 やっぱり世界で一番面倒くさい姫だ。

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