勇者は嫌う、魔王は好む
パルマス勇者
ディレンのカードゲーム
※魔王視点。
のどが渇いたので、水を飲みに食堂へ向かった。
食堂に着くと、なぜかナーシャとディレンがいて、テーブルにはたくさんのカードが並べられていた。とても奇妙な光景だ。
「これは何かの儀式か?」
「カードゲームですよ。魔王様もやってみますか?」
「ああ」
「いいですね!」
ディレンは嬉しそうに笑った。
ここで、ルールを説明された。読み手がカードの文を読み上げ、それと同じカードを素早く取る遊びらしい。異国のカードゲームを真似て作ったみたいだ。
「いきまっせー! ……『優しい魔王様』!」
”や”から始まるカードを探すと、ナーシャの目の前にあった。だが、ナーシャは気付いていない。
(そうか。ナーシャは文字があまり読めないから難しいんだ)
カードには絵が描かれているが、一部、よく分からない絵もある。これだと私の方が有利だ。
「ナーシャ、そこのカードじゃないのか?」
「え? どこ?」
「目の前の……」
「これ? なんか……優しいというより、どこか闇を感じる表情だけど……」
確かに、毒を盛られて弱ってるような表情をしている。
「ナーシャ、僕に絵心なんて求めたらいけないよ」
「うん! 分かった!」
ナーシャはとてもいい返事をした。
「二人じゃつまらないと思うんで、ここからは僕もカードを取ります。覚悟してくださいね?」
「どうせ大したことないだろ」
「じゃ、いいですかー? ……『愛する魔王様』!」
(これだ!)
私がカードを取ったのと同時に、ディレンも別のカードを取った。
「それ、『愛しい魔王様』ですよ。こんな簡単な言葉も読めないんですか?」
「ほぼ一緒だろ!」
「うぇーい! 魔王様お手つきー!」
こんな引っかけを作るとは、さすがディレンだ。きちんと煽りを入れるところも、さすがだ。大人げない。
「いきまっせー! ……『泣きじゃくる魔王様』!」
ほぼ言い終わったのと同時に、ディレンがすぐさまカードを取った。あまりにも早業だったので、少し違和感を覚えた。
「……イカサマか?」
「ギクッ……」
「声に出てるぞ」
「あはは……。ここは大目に見てもらって―――」
見逃すわけにはいかない。
「イカサマはお手つき一回分としようか」
「え゛」
「文句でもあるか?」
「いいえ、ありません!」
「そうだよな?」
「うう……」
ディレンは渋々といった様子で、元気なく次のカードを読み上げた。
「……『メイド―――』」
(これだ!)
たまたま目の前にあったカードを取った。だが、このカードの絵はかなり問題があった。
「ディレン、これはちょっと違うんじゃないのか? 他にも『め』から始まるやつなんてたくさんあっただろ?」
「え、ないですよ。『メイド服を着た魔王様』しか思いつきません」
「そうだとしても、この私にメイド服を着せないでもらえるか?」
絵はけっして上手くないが、地味に特徴をつかんでるところが気に障る。
「別にいいじゃないですか。ちなみに、その絵を描くのに三日かかりました!」
「そんなことに時間をかけるな」
無駄な時間を過ごしたとしか言えない。
「もう! そんなに文句言うんだったら、部屋に戻ってください」
「それはちょっと……」
「嫌なら文句言わないでください」
「……はい」
「じゃ、いきまーす! ……『sexyな魔王様』!」
「とりゃあ!」
ナーシャが変なかけ声を上げながら取った。
「お、ナーシャいいぞ! その調子で魔王様をボコボコに!」
「よーし! 頑張っちゃうぞ~!」
ナーシャが張り切りはじめた。
「それが原動力になるのか……」
「いいじゃないですか。ナーシャにも早く読み書きができるようになってほしいでしょう?」
「え? ああ、そうだな」
「そのためにこのカードゲームを作ったんですから」
「そうなのか……。意外だな。お前が誰かのためにするなんて……」
「へへへ、そんなことないですよ~」
ディレンは分かりやすくデレデレしている。
「でも、役に立たない言葉を覚えさせてどうするんだ? さっきから日常では使わない言葉ばかりだぞ」
「まあまあ、最初は楽しんでもらうことが大事なんじゃないですか? ね、ナーシャ?」
「うん!」
あんまり納得できないが、ナーシャがいいというなら、それでいいのだろう。
だけど、『メイド服を着た魔王様』というのは絶対使うことがないと思う。
◇ ◇ ◇
残りのカードもあと数枚になった。見た感じでは、私とディレンは同じくらいカードを取っている。ナーシャは4枚だけだ。
「じゃあ次!……『みんな大好き! 魔王様』!」
バシッとカードを取った。
カードには、心が和むような、微笑ましい絵が描かれていた。
「わあ……魔王様がカード見て笑ってる……」
ディレンが引き気味に言った。
知らないうちに、口元が緩んでいたらしい。慌てて引き締める。
「嬉しかったんですかー?」
「別に。お世辞なのは分かってる」
「まさに、『ツンデレ魔王様』ですね」
そう言ってカードを見せてきた。
「カードにするな」
「これしか思いつかなかったんですよ〜。他にあります?」
「そうだな……。『つまみ食いが得意なディレン』とか?」
「それじゃあ駄目ですよ。魔王様縛りなんで」
「縛らなくていいだろ」
まったく、ディレンには変なこだわりがあって困る。
「あと3枚ですね。僕、絶対負けませんから!」
「私も負けないわ!」
と、二人が張り切っているが、ナーシャに関しては、明らかにカードが少ない。
「ナーシャはどう頑張っても負けるだろ」
「そんなことないです。ディレンのと合わせたら22枚ですし……」
「合わせたら? まさか、1対2?」
「はい!」
「そんなこと話してたか?」
「心の中で話してましたよ。ね、ディレン?」
「うん!」
この光景はさっきも見たような気がする。
それより、1対2となったことで、勝敗の確率が変わった。残りのカードを全て取らないとダメかもしれない。
「ほな行くで〜! ……『美しい魔王』!」
「とりゃ!」
ナーシャが取った。
「ちょっとナーシャ! 引っかからないでよ~!」
「え?」
「それ『自惚れた魔王様』」
「ええ? この絵は美しい魔王様でしょ……?」
ナーシャは状況が分かってないらしい。なので、代わりに説明した。
「つまり、ナーシャは騙されたってことだ」
「ちょ、言い方! 誤解招くやつ!」
「まあ! 私をだましたのね!」
「違う! そういうつもりじゃなかったんだ!」
「もういいわ! 私、魔王様と組むから!」
ナーシャの突然の裏切りに、ディレンは焦りだした。
「え、待って、ナーシャ! 僕を見捨てないでくれ! 君がいないとダメなんだ!」
ヒモ男みたいなセリフである。なんだか情けない。
「これじゃあ、僕の負けじゃん! くっそぉー!」
ディレンが残りのカードを全て取ったとしても、彼の負けだ。
「わーい! 私達の勝ちですね! 魔王様!」
「あ、ああ……」
(こんな終わり方でいいのか?)
ちょっとモヤモヤする終わり方だったが、勝ったし、まあいいだろう……。
ディレンはテーブルに伏せて、落ち込んでいた。
「うう……。僕のナーシャが取られた~!」
「はあ? 私、あなたの所有物じゃないんだけど」
ナーシャから冷たい言葉を放たれたディレンは、さらに落ち込んだ。
このまま人間関係が悪くなったりでもしたら、色々と面倒くさい。なので、何とかしてこの場を丸く収めなければ……。
「なあ、ナーシャ。ディレンに対して少しキツイんじゃないのか?」
「そうですか? 本当のことを言っただけなんですが……」
「そう言ってないで、ディレンの機嫌を直してあげろ。ほら……」
自分が取ったカードの中から、ある一枚を見せる。
「ぷっ……! あははははっ!」
そのカードを見た瞬間、ナーシャは吹き出して笑った。
見せたカードは、『変顔が得意な魔王様』というものだ。ナーシャはこの変顔が気に入ったらしい。
ナーシャが笑い転げている間、チラッとディレンの様子を伺った。ディレンはすっかり笑顔になっている。
(やっぱり男は女の笑顔に弱いんだよな……)
〈おまけ〉
あ:愛する魔王様
い:愛しい魔王様
う:自惚れた魔王様
え:エンジェルみたいな魔王様
お:お茶目な魔王様
か:可憐な魔王様
き:キュンキュンな魔王様
く:クセが強い魔王様
け:警戒心が強い魔王様
こ:恋煩いの魔王様
さ:残酷な魔王様
し:小心者の魔王様
す:素敵な魔王様
せ:sexyな魔王様
そ:そそっかしい魔王様
た:だらしない魔王様
ち:ちょっとドジな魔王様
つ:ツンデレ魔王様
て:デレデレな魔王様
と:鈍感な魔王様
な:泣きじゃくる魔王様
に:にやける魔王様
ぬ:盗人魔王様
ね:寝顔も可愛い魔王様
の:ノミみたいにちっぽけな魔王様
は:鼻の下を伸ばした魔王様
ひ:ビンタされる魔王様
ふ:不思議ちゃんな魔王様
へ:変顔が得意な魔王様
ほ:惚れやすい魔王様
ま:禍々しい魔王様
み:みんな大好き! 魔王様
む:無敵な魔王様
め:メイド服を着た魔王様
も:妄想好きな魔王様
や:優しい魔王様
ゆ:優雅な魔王様
よ:様子が変な魔王様
ら:ラクダに乗った魔王様
り:料理上手な魔王様
る:ルビーのような目をした魔王様
れ:恋愛下手な魔王様
ろ:論外な魔王様
わ:ワインが好きな魔王様
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