新入り執事は死神?

 ディレンが城に来た翌日―――父が死んだ。


「噓だろ……。昨日まで元気だったのに」


 すでに冷たくなった父の手を握る。


「元気って言っても、昨日の時点で寝たきり状態でしたよね? 既に弱ってたんじゃ……?」


 隣にいたディレンがそう言った。


「昨日、お前に対して怒ってただろう? 怒れるなら元気ということだ」


「確かに、弱っていたら怒る元気もないか……。それにしても、そこまで悲しくなさそうですね?」


 確かに悲しいという感情はない。

 突然死んだものだから、驚きすぎて感情がついていけてないのだろう。


「ディレン」


「何ですか?」


「今日からお前のあだ名は死神だ」


「はい?」


 その日からだった。

 城で何か起こるたび、”死神”の名が出てくるのは。


 ◇ ◇ ◇


「きゃっ!」


 廊下でナーシャが転んだ。思わず僕は声をかけた。


「大丈夫?」


「もう、何するのよ! ディレ―――じゃなくて死神!」


「何もしてないけど。っていうか、僕は死神じゃないから!」


 ナーシャは走ってどこかに行ってしまった。また転んでいないといいけど。


(そういえば、アクルスに用事があったんだった)


 掃除で分からないところがあったので、今からアクルスに聞こうと思っていたのだ。


 アクルスがどこにいるのか分からないので、城内を探し回る。


「あ、アクルスさーん!」


「……」


「アクルスさん?」


「ん? うわっ!」


 耳が遠いのか、気付かなかったらしい。その拍子に机にぶつかり、置かれていた花瓶が落ちそうになった。


「おっと、あぶねー!」


 危機一髪で花瓶を支え、何とか落とさずに済んだ。


「すごいですね……」


「え、そうかなぁ~。へへ」


 アクルスはよく褒めてくれるので、僕の中では一番好きな先輩だ。


「それで、どうされました?」


「あの、掃除でちょっと分からないところがあって―――」


「ごほっ……」


 急にアクルスが咳をした。


「大丈夫ですか?」


「ごほごほっ……。ああ、私もそろそろ死神に殺されてしまうのでしょうか……」


「いや、そんなことないですよ。っていうか、僕死神じゃないです」


「はて……? 本名が死神で、あだ名がディレンだったと思いますが……?」


「逆!! どういう戸籍ですかそれ!」


 まったく、失礼な先輩である。


 ◇ ◇ ◇


(アクルスと話してたら喉が乾いちゃった……。水飲もうっと)


 今度はキッチンに向かう。キッチンには魔王がいて、レシピ本らしきものを見ている。料理でもするのだろうか。


「誰かと思ったら、死神か」


「その呼び方やめてくださいよ~。おかげでみんなに死神って言われるんですけどー!」


 魔王に文句を言いながら、コップを手に取る。が、手が滑って落してしまった。


「あ……」


「ふっ、さすが死神だな」


 コップが割れたのにもかかわらず、魔王は笑うだけで怒ったりしなかった。


「怪我はしてないか?」


「大丈夫です」


「まあ、回復魔法使ったら、逆にダメージくらうかもな。死神だから」


「もう! 死神扱いしないでくださいよ~! そろそろ死神卒業したいです!」


 自分で言っておきながら、死神を卒業するとはどういうことだろう、と思った。


「お前が来てから良いことなんて起こってない。よって、卒業は認めない」


「いえ、今日は良いことありましたよ?」


「なんだ?」


「今日は天気がいいです」


「……それだけか? だったら卒業は認めん」


「ええ~! そんなぁ~!」


 いつになったら死神を卒業できるのだろう?

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