主人公っぽい奴らの共闘


『ちぃ……頑張ってくれる……!』

「っ!!」


 目に見えてわかるほどに押されていくレイトとアルバレイス。

 クローとビームサーベルが噛み合い、拮抗する。火花が散る。機体の顔が煽り合うほどの至近距離……


 アルバレイスが腕を弾いて距離を取る。すかさず弾幕をばら撒く……だが、ドレックスはそれを読んでいた。


 軌道の先を外れて、既に別の位置にいる。当たらない。掠りもしない……


 接近してもダメ、距離を取ってもダメ。性能差が、ここまで露骨に出るのは久しぶりだった。アルバレイスは改造を重ねたオンボロだ。


 対してドレックスは研究所が作った専用機、しかも乗り手が調ときている。普通に考えれば詰んでいる。いや、むしろただの賞金稼ぎがオンボロ機体でここまでやれるのが奇跡なのだ。


 だが、レイトの経験が言っていた。詰んでいる時ほど、相手は油断する。


(次、どこから来る……。)


 ドレックスの動きを目で追いながら、パターンを探す。速さで翻弄しながら、精度の高い射線を引いてくる。先読みしているような動き……だが、先読みならば必ずパターンがある。データを取っているなら、データにない行動を取れば必ず一瞬の乱れが生まれる。


(あと少し……あと少しでそれが見えてくる、はずだ……。)


 すると、ドレックスがビームサーベルを構えた。上段から振り下ろす体勢……唐竹割り。真正面の一撃だ。


(唐竹割りは真下に逃げて……!)


 レイトは瞬時に判断して操縦桿を引き、下方向へのスラスターを全開にする……直前、ドレックスは腰にマウントした遊撃砲で攻撃……アルバレイスをスタンさせそのまま上から切り裂く。


「ぬお゛っ!?」


 一手、遅れてしまった。


『極々シンプルなフェイントだろ……屑鉄がっ!?』


 ビームサーベルが振り下ろされてくる。回避が遅れた。受けるしかない。


 アルバレイスのクローがサーベルを受け止める……が、まともに受けきれずに弾かれた。機体が大きく傾く。そこへドレックスの蹴りが入った。


 足蹴。だがその一撃がアルバレイスの胴体に直撃し、機体が文字通り蹴り落とされた。コクピットの中でレイトの身体が揺れる。頭が揺れる。目の前が一瞬白くなる。


(……っ、くそ。)


 落下しながら、スラスターを噴かして体勢を立て直す。膝をつくような格好で、なんとか止まった。


 だが、その瞬間を狙っていた手がある………リドーとレイトとディング号だ。


 次の瞬間放たれたのは……あたりを包む煙幕。センサーすら使い物にならなくさせる代物だ。すると、リドーから通信が入る。


『レイト!奴を抑えろ!』

「何っ?」

『ほんの少しで良い!』

「……ったく!!」


 文句を言いながらも今はリドーに従うのが最善……スラスターを全開にしてクローを開いてアンカーのように発射。煙幕に気をやられた相手のドレックスを捕まえてやる。


 クローがドレックスの腕に食い込んだ瞬間、機体全体が引っ張られる感触がした。捕まえた、が同時に引きずられている。

 煙幕の中で二機が絡み合ったまま漂う……今は逃がさないことだけに集中だ。


『んなっ!?……この……!』

「そぉ、急ぐなよって……!!」


 レイトは少し笑みを浮かべてそうつぶやいた。


 ドレックスが全力で出力を上げて引き剥がそうとするのを、クローで食い止める。


 腕に伝わる振動が激しい。持つか持たないか、ギリギリのところだ。だが、これでいい。時間さえ稼げれば……十分すぎる。

 煙幕が張られる中、墜落寸前のレジスタンスのコルベット艦から、一機の機影が飛び出してくる。


 白い機体だ。燃え上がる艦の中から、傷一つなく現れた。目元に青い光を灯して、まるで最初からそこにいたように、静かに宙に浮く。ナディアの……アストロスだ。


『坊主、悠長に艦橋にアストロスを降ろしてる暇はない……そのナディアって嬢ちゃんと空中で乗り込め。』

「ヘヘッ、わかってる……!」


 バルトは笑った。怖くないわけじゃない。だが、笑える程度には腹が据わっていた。


 ナディアは静かに宙を見上げて、そっと目を閉じた。アストロスと接続する。数秒の沈黙。それから、静かに呟く。


「船の姿勢はこのまま……このままでは落下します。タイミングを計算します。」


 リドーは顔をしかめながら無線を握りしめていた。こんな事をさせてしまっているという不安が、その大きな手に滲んでいた。バルトも内心は不安だ。落下しながら機体に乗り込む……普通に考えれば無謀だ。


 だがナディアには、不安も、迷いも、その顔には欠片もなかった。計算を終えた機械のように、ただ静かに次の動作を待っている。


 そんなナディアを見て、レイトは思わず笑ってしまった。


「ナディアは相変わらずだな。落ち着いてる。」

「落ち着く……?」


 コテンと首を傾げるナディア。自分が落ち着いているという認識がないらしい。その無自覚さがまた可笑しくて、レイトの笑みが少し深くなった。

 するとナディアは、なんてことないように呟いた。


「貴方が居ますから。」

「……えっ?」

「私を連れ出して、ほぼ不可能に近い脱出劇を終えて、ここまで連れてきてくれた貴方がいるのですから。」


 ナディアの目がバルトを見た。感情に乏しいはずの目が、今は少しだけ……本当に少しだけ、柔らかかった。


「失敗なんて、あり得ないかと。」

「ナディ……。」


 バルトは何か言おうとして、言葉が出なかった。ナディアは相変わらず無表情だ。だが、その一言の重さはバルトにも伝わった。いや、伝わりすぎた。


 二人の間に、奇妙な静けさが広がる。


 煙幕の白が漂う宙の中で、燃える艦の橙が遠くに揺れていて、アストロスの青い光が二人を照らしていて……世界の終わりみたいな景色の真ん中で、なぜかその空間だけが甘かった。


 それに年甲斐もなく耐えられなかったのか、無線から盛大な咳払いが響いた。


『ラブコメやってる時に悪いんだが……………来るぞ!!』

 リドーの声だった。


「飛びます。」


 ナディアが静かに言った。その声に迷いは一切なかった。


「ちょっ!?」


 次の瞬間、ナディアはバルトの手を掴んだ。強く、確実に、引き剥がせないように。そのまま一歩も躊躇わずに、船の縁から飛び降り落下する。


 金星圏での落下という感覚は、本来宇宙空間ではあり得ないはずだ。地球の八十パーセントほどの重力は、ほんの少し身軽に感じた。バルトは思わず目を閉じかけた。だがナディアの手の温度が伝わってきて、目を開いた。


 下からアストロスが、迎えに来ていた。

 コクピットが開き両腕を広げて、まるで落下してくる二人を抱き止めるような体勢で。青い目が、ちかちかと輝いている。


 それは機械の動作だった。プログラムと計算の結果だった。


 なのに、なぜかバルトには……待っていてくれたように見えた。ずっと、あの艦の中で、燃えながら、待っていてくれたように。


「……っ!!」


 二人がコクピットに滑り込む。シートに背中が当たる衝撃。ナディアが素早く操縦系に接続する。コクピットが閉じる音がした……次の瞬間、アストロスの双眸が青く輝いた。


 エンジン音が唸る。スラスターが全開になる。まるで長い眠りから醒めたように、機体全体が震えながら力を取り戻していく。


 バルトとナディアしか知らない、初めて起動した時のあの独特の感覚……バルトには言葉にできないが、確かに感じた。この機体は、今この瞬間、完全に目が覚めたのだと。


 そして、彼らとアストロスが動いた。片腕にビームサーベルを手にしてスラスター全開でアルバレイスとドレックスの元へ。


『ちぃっ!?』

「っ!?来たか!!」


 必死にアルバレイスを振り払おうと出力を上げるドレックスに対して、アルバレイスはクローを外して手綱を解いてやる。


『うおぉっ!?』

「もらったぁぁ!」


 するとほんの一瞬、ドレックスの体勢が崩れる……加速力のある敵にはこうした慣性は絶対の強敵だ。


 次の瞬間、アストロスが高速で接近、ドレックスを斬りつけた。激しい衝撃がドレックスを襲い少しのけぞらせ、さらに膝蹴りでドレックスを蹴り上げる。


『ぬあっ!?』

『っ!?レイト!』


 アストロスは後方にいてボロボロになったアルバレイスに近づき、肩に手を置いて直接通信でバルトが声をかける。


「大丈夫か?」

「見ろ、ところどころ曲がっちまったじゃねぇか。」

「悪い!……悪いんだけど、もう少し手伝ってくれ!」

「しゃあねぇな……!!」


 おそらくアストロスだけでもそう簡単には勝てない、アルバレイスとの連携が不可欠な相手だ。


 賞金首と共闘することはたまにあるが、こんなに胸が躍るのは初めてだ……喜びの声も含めた言葉が思わず口からこぼれ出す。


『あぁ……やってくれたな……アストロス……だが、結論は変わらない。』


 煙幕の向こうで、ドレックスが体勢を立て直している気配がある。数的有利はこちらのものだが、それでもまだ戦う気でいるらしい。


『敵は調整体……気をつけて。』

「ちょいとガス欠気味だが、やってやるよ。」

『休んでてもいいぜ?』

「バカ言え。」


 軽口を叩き合うレイトとバルト……ドレックスのパイロットであるライフは、まだ、まだ、まだと言葉をつなげるばかり。  


『こうなりゃ二人とも沈んでもらおう。』


 そう、まだ戦うつもりだ。

 きっとそれが彼の存在意義なのだろう。戦うことでしか己の証明ができない……なら、それならそれでもよい。アルバレイスとアストロス。


 二機が隣り合って立ち上がったとしても勝てるかどうかは分からない。だが、何もしないよりかはマシだ。

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在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。 綿菓子束子 @tawasinabo-

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